フェラーリ初のV6エンジンを搭載
フェラーリといえばV12エンジンを搭載したスーパースポーツカーを思い浮かべる人も多いと思いますが、V6エンジンをリアミッドシップに搭載した魅力的なスポーツカーも存在しています。今回は、フェラーリ社の製品でありながらフェラーリを名乗らなかったスポーツカー、「ディーノ206GT」ファミリーを振り返ります。
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12気筒以外のストラダーレはフェラーリにあらず
アルファ ロメオでレーシングドライバーとして働いたキャリアを持つエンツォ・フェラーリは、まだ戦前だった1929年にレーシングチームのスクーデリア・フェラーリ (Società Anonima Scuderia Ferrari)を創設。これが現在の自動車メーカー、フェラーリの母体となりました。
当初は、エンツォの“古巣”であるアルファ ロメオのディーラーチームを運営していましたが、アルファ ロメオがワークス活動を休止するにあたって、マシンを借り受けてサテライトチーム(セミ・ワークスチーム)を運営するようになります。
そして第二次世界大戦などさまざまな紆余曲折を経て、1947年に現在のフェラーリが誕生。ただし当時はスポーツカーメーカーではなく、レーシングカーのコンストラクターでした。そしてニューマシンの開発などレース活動に必要な資金を稼ぐためにロードカーも製作するようになるのです。
当初は、レースで活躍した“旧型”モデルをベースに、ロードカーに仕立て直したGTカーを市販していましたが、やがてレーシングカーを仕立て直したコンバージョンモデルだけでなく、1954年のパリサロン(現モンディアル・ド・ロトモビル=パリモーターショー)で発表された250エウロパ(Europa=ヨーロッパ)GTのように当初からロードカーとして設計開発されたモデルも誕生し、ラインアップも充実していきました。
将来的を見据えて開発をしたV6エンジン
そんなロードカーはすべて、アウレリア・ランプレディが設計した、通称“ランプレディ・ユニット”を筆頭にV型12気筒エンジンを搭載。エンツォも「12気筒以外のストラダーレ(ロードカー)はフェラーリとは呼ばない」と公言していた、と伝えられていました。
しかしエンツォの長男で、フェラーリに入社後はエンジン開発を手掛けていたアルフレード・フェラーリは、将来的にはもっと小型の自動車も生産することが必要になる、との想いからV6エンジンの開発に取り組むようになります。
残念ながら筋ジストロフィーにより、その完成を見ることなく24歳で夭逝してしまいましたが、共同で開発を進めてきたヴィットリオ・ヤーノが開発を続けて完成し、“ディーノ・エンジン”の愛称で呼ばれることになりました。
この“ディーノ・エンジン”はまず、1957年にF2のフェラーリ156に搭載され、さらに翌1958年にはエンジン排気量を2.4Lに拡大して246F1、シーズン終盤にはF1GPのエンジン規定一杯の2.5Lに拡大した256F1が登場しています。
この時点ではロードカーとは全く関係のないエンジンだったのですが、1960年代後半になると“ディーノ・エンジン”を搭載するロードカーが生まれる事情が生じてきました。それはFIAがF2の車両規則を変更し、1967年からF2で使用できるエンジンは市販車ベースの1.6Lまで、としたのです。
“ディーノ・エンジン”は市販車ベースではなく純レーシング・エンジンだったので、このままではF2レースで使用できなくなってしまいます。そこでフェラーリは急遽、“ディーノ・エンジン”を搭載したロードカーを生産することになったのです。
もちろんフェラーリのみでは「連続する12カ月間に500台以上生産された市販車」の条文に適合するロードカーなどは無理な話です。そこでフェラーリは、当時から提携のあったフィアットと共同でロードカーを生産することになりました。
具体的にはフェラーリで設計したエンジンをフィアットで生産し、それを搭載したロードモデルを、フェラーリ、フィアットの両社がそれぞれに開発してリリースするというものでした。フィアットでは1966年のトリノショーでフィアット・ディーノ・スパイダーを発表し、さらにその4カ月後にはフィアット・ディーノ・クーペが誕生しています。
一方、フェラーリは少し遅れて1967年の10月にディーノ206GTをリリースしています。そうです。これが今回の主人公、フェラーリを名乗らずエンツォの息子でエンジン開発に携わったアルフレードの愛称“ディーノ”を名乗るスポーツカーでした。
F2エンジンを生み出すために生まれたディーノ206GT
ディーノ206GTのメカニズムを語るうえで、まずはそのポイントである2L V6の“ディーノ・エンジン”について紹介しておきましょう。ディーノ206GTに搭載されていた“ディーノ・エンジン”は排気量が1987cc(ボア×ストローク=86.0mmφ×57.0mm)で、最高出力が180psでした。
なお、フィアット版のディーノはスパイダー/クーペともに160psと20ps低いチューニングとなっています。またこれをベースに1967年にレース出場したF2エンジン=ディーノ166F2はストロークを短くして排気量は1596cc(ボア×ストローク=86.0mmφ×45.8mm)で、最高出力は200psです。
同時期の主流派となった1.6L直4のフォード・コスワースFVAが220ps前後とされていましたから、V8のコスワースDFVに対してフェラーリはV12のハイパフォーマンスエンジンで挑んでいたF1とは勝手が違う印象があります。そんなレースフィールドでの事情はともかく、ロードカーとしてのディーノ206GTのメカニズム解説を続けましょう。
フェラーリは、それまでのロードカーではフロントエンジンを基本レイアウトとしてきました。これはV12エンジンを搭載するという基本路線からはある意味納得できるところでしたが、1964年には市販モデルとしては初のミッドシップレイアウトを採用した250LMをリリースしています。
ただしこれはGTカーとしてのホモロゲーション(車両公認)を獲得する目的があり、クルマ自体もロードカーというよりは純レーシングカーに近いものでした。その250LMに続いて1967年に登場した206GTこそが、フェラーリの量販モデルとして初のミッドシップマウントを採用したモデルとなりました。
市販モデルが登場するまでには何度も、そして何種類ものプロトタイプが登場しています。最初に登場したのは65年のパリサロンでしたが、これはアクリルのカバーで4灯の丸型ヘッドライトを一体式のアクリルカバーで覆ったフロントビューが大きな特徴となりました。
何よりもミッドシップに置かれたエンジンが縦置き式とされたことが、のちに登場する市販モデルとは最大の相違点となっていました。これはこのプロトタイプがレーシングスポーツカーのディーノ206Sをベースに開発されたからで、市販モデルでは横置きにコンバートされていました。
ただしV6エンジンの短い全長が影響したか、横置きにコンバートしてもホイールベースは2280mmのままでした。サスペンションは前後ともにダブルウィッシュボーン式で、ブレーキは前後ともにディスク式。ボディサイズは全長×全幅×全高が4150mm×1700mm×1115mm。大きく見えても、十分にコンパクトに仕上がっています。
ボディデザインを手掛けたのはピニンファリーナで、直接的にはアルド・ブロヴァローネとレオナルド・フィオラヴァンティによる共作。ボディのコーチビルダーとしてはカロッツェリア・スカリエッティが担当していました。
1967年から1969年にかけて152台が生産された206GTは、1969年には後継の246GTにバトンを渡しています。これはF2用エンジンのホモロゲーションが成立した時点で2Lの排気量や、軽量だがコストの嵩むアルミブロックにこだわる必要がなくなるというエンジンサイドの状況変化が最大の要因でした。ボディサイドでもフレームに架装するボディをアルミニウム製からスチール製に交換するとともに、ホイールベースも60mm延長されています。
エンジンは、バンク角65度のV6は不変でしたが排気量を2418cc(ボア×ストローク=92.5mmφ×60.0mm)と拡大し最高出力も195psに引き上げられていました。246GTに加えてオープンモデルの246GTS(Sはスパイダー)も登場するなど“スモール・フェラーリ”として人気を確立。1974年に生産を終了するまで5年間で3569台が生産されていました。
その後継として登場したのがディーノ308GT4で、名前からも分かるように3LのV8エンジンを搭載した4座クーペでした。ちなみにイタリア国内では税制で有利となる2L V8を搭載した208GT4が追加投入され、またディーノの名がフェラーリに改名される変化もありました。
エンジンがV6からV8に載せ替えられた以上に大きな変貌となったのが、2座から4座へのコンバートでした。これはライバルだったランボルギーニのV8を搭載したウラッコや、マセラティのV6を搭載したメラクなどに対抗しての策で、デザインも206や246の丸みを帯びたデザインから、直線的で角張ったデザインにイメージを一新していました。
こちらのデザインを手掛けたのはベルトーネで、当時チーフデザイナーとなっていたマルチェロ・ガンディーニが担当。ただしボディのコーチビルドは引き続きカロッツェリア・スカリエッティが担当しています。
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みんなのコメント
未だにこれを超える美しい車は見た事が無いと思う。
丁度まとまった金が必要な頃だったから諦めたけど。
今でも悔やまれるわ。