ラリージャパンでトヨタがいきなり世界初披露!「GRヤリスRally2」とヤリス水素エンジン仕様がデモランを披露し、その「本気の走り」にギャラリーは大興奮。そして、このデモランを仕掛けたモリゾウさん(トヨタ自動車豊田章男社長)も、カンクネン氏とマキネン氏の本気の走りと、クルマを降りた時に見せた笑顔に大満足の様子だった。
TEXT/ベストカーWeb編集部 PHOTO/TOYOTA
「全員にありがとう」波乱のラリージャパン決着!!優勝はヌービル(ヒョンデ)、母国凱旋の勝田(トヨタ)は3位表彰台獲得!!
■モリゾウさんも大満足野性味あふれるGRヤリスRally2
2022年11月10~13日の日程で開催された世界ラリー選手権(WRC)2022最終戦「フォーラムエイト・ラリージャパン」。12年ぶりのWRC日本開催ということで、大盛況のうちに閉幕したが、その3日目の11月12日、最高潮の盛り上がりだった岡崎のスーパーSS(愛知県岡崎市の乙川河川敷)で、トヨタがサプライズを仕掛けた。
世界初披露となる「GRヤリスRally2」のデモランが(ファンにもプレスにも事前告知せず突如)実施されたのだ。
3万人のギャラリーの前でユハ・カンクネン氏は土煙をたて、豪快な走りを見せた
3万人を超えるギャラリーが集まる中で華麗な走りを披露したのは、通算4度の世界チャンピオンに輝き、1993年にセリカTurbo 4WD(ST185)でドライバーズタイトルを獲得したユハ・カンクネン氏。
実はモリゾウさん、当初はGRヤリスRally2のデモランを自ら行い、話題づくりをしようと考えていたようだ。しかし、実際に試乗したのは伝説のWRCドライバー、ユハ・カンクネン氏だった。なぜ思いとどまったのか? モリゾウさんは事前に「グラベル(未舗装路)とターマック(舗装路)がミックスしたコースで難易度が高い」と語ってくれたが、どうもそれだけではないようだ。
モリゾウさんはラリージャパン直前にテストコースでGRヤリスRally2を試乗していて、その印象を記者が聞くと、「すごくいい! 想像以上にパワフルで野性味があるんですよ。スピンターンもしましたが、コントローラブルでとにかくいいんですよ」と教えてくれた。そこまで気に入ったのになぜデモランをやめたのだろう? そして、どんなクルマなんだろう? と思いながら数日を過ごした。
その真意を紹介する前に、GRヤリスRally2&ヤリス水素エンジン仕様のデモラン見聞録をお届けしよう。
2人のレジェンドドライバーとモリゾウさん。右がユハ・カンクネン氏、左がトミ・マキネン氏
■「あの」カンクネン氏と「あの」マキネン氏が競演
GRヤリスRally2のスタイリングはGRヤリスのイメージそのままだが、個性的なリアウイングと迫力のオーバーフェンダー、大型のベンチレーションを採用し、簡単に「エボモデル」と言いきれないほどの雰囲気が漂う。
ラリージャパンを生で観戦すると爆音になれてしまうが、GRヤリスRally2のサウンドはGRヤリスRally1のドスンと腹に響き渡るようなものとは違い、より高いレーシングサウンドを響かせる。シーケンシャル5速の変速とともに小気味のいいエキゾーストが響き渡る。
GRヤリスをベースにしながら、張り出したオーバーフェンダーとウイングが装着されかっこいい
その加速が凄い! まるでグラベルのコースをじゅうたんで飛んでいるように加速していく! モリゾウさんが言っていたのはこれか! …と、こっちも興奮してきた。カンクネン氏のドライビングはその全盛期に「四輪が磁石で吸いついているようだ」といわれたが、今もまったくその通りで、生き物のようにコーナーをトレースし、姿勢がとにかく安定している。つまり、サスペンションがよく動いていることがよくわかる。急きょ決まったデモランというが、その走りは鮮烈で記憶に焼き付いた。
GRヤリスRally2の計算上のパワーウェイトレシオは4.2kg/hpとなり、市販車の4.6kg/hpとあまり変わらないように思われるが、立ち上がりから一気に最大トルクを発生し、そのまま最大トルクが続くエンジン特性のため、数値以上に鋭い加速を手に入れているのだ。
その後に走った水素エンジンヤリスも凄かった。こちらのデモランを担当したのは、もう一人のレジェンドドライバー、トミ・マキネン氏。日本が大好きで日本のファンへのサービスに抜かりのないマキネン氏だけに、魂のこもった全開ドリフトを披露。ギャラリーから喝采を浴びていた。
マキネン氏がドライブした水素エンジンやリスも豪快な走りを見せた
■敬意と、世界への発信と
さて話は戻って、今回GRヤリスRally2のデモランを(自ら運転することを)見送ったモリゾウさんが、その真意をこう語った。
「モリゾウがいくら有名でも、彼ら(カンクネン氏とマキネン氏)のほうが人気がありますよ! レジェンドたちの走りを見ることで、これまでラリーを知らなかった人たちにWRCへの関心が深まればいいと思います」
モリゾウさんは世界選手権であるWRCラリージャパンに敬意を表し、2017年にトヨタがWRCの舞台へ復帰することを後押ししてくれた2人のレジェンドへ、恩返しの気持ちがあったのではないだろうか。
10月の「ラリーチャレンジ富士おやま」にて、水素エンジンヤリスをWRCベルギーでデモランした時のレーシングウェアを見せてくれたモリゾウさん。この頃はラリージャパンを走る気だったようだ
「2人が本気で攻めた走りを披露してくれ、クルマからいい笑顔で降りてくれたことがとてもうれしかった。トヨタがカンクネンさんとマキネンさんの故郷であるフィンランドでGRヤリスRally1やRally2を開発し、第2の故郷となりましたが、彼らがここ日本を第2の故郷だと思って走ってくれたことが何よりもうれしかった」
と語ってくれた。
カンクネン氏とマキネン氏がデモランをすることで、GRヤリスRally2と水素エンジンヤリスのニュースは欧州を中心に世界を駆け巡ったはずだ。トヨタの「WRCへの本気」をアピールするとともに、Rally2より下のカスタマービジネスをしっかりやっていくという決意を知らせることになったはずだ。
またモリゾウさんは、
「WRCチャレンジプログラムで(フィンランド選手権を中心にルノー・クリオRally4で)参戦している3人の若武者が、このGRヤリスRally2に乗り、鍛えられることで、いつの日か勝田貴元選手に続くトップカテゴリーを戦えるドライバーに成長すればいいと思います」
と、もうひとつの狙いも語った。
WRCチャレンジプログラム2期生として(1期生は勝田貴元選手)フィンランドほか欧州の国内選手権を戦う若武者3人。左から大竹直生、小暮ひかる、山本雄紀選手
モリゾウさんが乗れば、ここ日本では大きな話題にはなるが、世界への発信を考え、あえて乗らない選択をしたモリゾウさんの深謀遠慮、GRヤリスRally2がこれからどんな影響を与えていくのか、楽しみだ。
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