Mercedes-AMG GT 4 Door Coupe 63 S 4MATIC+ vs BMW M5
メルセデスAMG GT 4ドア クーペ 63 S 4マティック+ 対 BMW M5
メルセデスAMG GT 4ドア クーペ 対 BMW M5! 600ps級の4ドアクーペを徹底比較【動画レポート】
AMG GT 4ドア クーペの真相
メルセデス・ベンツの商品をベースに独自の味付けを施すーーAMGの仕事は創業当初から基本的に一貫していたが、クルマが好きで腕のあるエンジニアなら、いつかは自分の思い通りの作品をイチから作ってみたいという欲求に駆られてもなんら不思議はない。2ドアのメルセデスAMG GTが、メルセデスのリソースを使いながらもAMGのオリジナルスポーツカーとして誕生した背景には、きっと彼らのそんな想いもあったのだと思う。
既存のメルセデスとの決定的な違いと彼らのこだわりは、例えばリヤ・トランスアクスル形式の採用からも見て取れる。重量がかさむエンジンとトランスミッションを切り離してフロントとリヤにそれぞれ配置することで、前後重量配分で有利となるトランスアクスル。その形式を採用するメルセデスはAMG GTだけだからだ。
専用のパワートレイン・レイアウトを仕立てるなんて、ずいぶん手間とお金のかかることをやったもんだと感心するいっぽうで、かかったコストを回収するにはそれなりの販売台数を稼ぐ必要があるだろうし、兄弟車が追加導入されてもおかしくないと考えていた。
だから車名に“メルセデス-AMG GT”が付く4ドアクーペは、てっきり2ドアがベースになっているものだと思い込んでいたが、実際にはEクラスやCLSのプラットフォームを共有していた。これを知ってちょっとテンションが下がったのは事実なのだけれど、クルマというのは本当に乗ってみないと分からないもので、いい意味で期待を大きく裏切られた。
600psを超えるパワーを4WDで支える両車
メルセデス-AMG GT 4ドアクーペ(以下、AMG GT 4ドア)には3つのグレードが用意されている。いずれも駆動方式は4MATIC+で、エンジンは「43」「53」「63S」の3タイプ。43と53はどちらも3リッター直列6気筒+ターボ+モーターのISG仕様で、最高出力と最大トルクで差を付けている(43=367ps/500Nm、53=435ps/520Nm)。
今回のテスト車である63Sは4リッターのV8ツインターボを搭載、639ps/900Nmを発生する。ダイナミックエンジンマウント、9速スピードシフトMCT、エアサス、リヤ・アクスルステアリング、電子制御LSD、パフォーマンスエグゾーストシステムなどを標準装備して、車両本体価格は2353万円也。
AMG GT 4ドアは“4ドアクーペ”と名乗っているものの、厳密にはリヤにハッチゲートを持つ2ボックスの5ドアである。このボディ形状から、仮想敵はポルシェ・パナメーラなのだろうということは容易に察しが付く。しかし今回はパナメーラではなく、あえてBMW M5を用意した。このクラスのハイパフォーマンスセダンとして、M5はトップクラスの性能を有していると考えているからである。
M5のエンジンは4.4リッターのV8ツインターボ、トランスミッションはトルコン付きの8速Mステップトロニックで、Mスポーツサスペンションをはじめ電子制御式のディファレンシャルやダンパーなどを標準装備する。車両本体価格は1740万円。
しかし、もっとも注目すべき装備は“M xDriveシステム”である。M5はこれまでのM2やM3やM4やM5史上、初めて4WDの駆動レイアウトを持つモデルなのだ。以前、Mのエンジニアに話をうかがったとき「本心では4WDなんてやりたくありませんでした(笑)。やっぱり後輪駆動のほうが運転は楽しいですから。でも、エンジンがどんどんハイパワー化していくと、後輪だけでそれを受け持つのは難しい。だったらいっそMらしい4WD機構を開発すればいいと頭を切り換えたんです」と語ってくれた。
そもそもBMWのxDriveは前後のトルク配分が常時可変で、状況に応じて最適な駆動力を振り分ける。M5では、デフォルトの4WDの他に“4WDスポーツ”と“2WD”が選べて、4WDスポーツは「ドリフトも出来るがいざとなれば制御でどうにかしてくれるモード」、2WDはDSCが完全オフなので、「クルマは最後までドライバーの支配下に置かれるモード」である。
4WD感が強いAMGに対し、M5はFRの乗り味を守り抜く
計測はしていないのであくまでも“加速感”での印象から言えば、AMG GT 4ドアのほうが猛烈で強烈な加速を味わえる。実際、M5よりも最高出力で39ps、最大トルクで150Nmも上回るパワースペックを有しているので、額面通りとも受け取れる。
4MATICは前後のトルク配分が固定だが4MATIC+は可変式となるので、制御ロジックはBMWのxDriveと似ているが、2台で同じ道を比較試乗してみると、AMG GT 4ドアのほうが積極的にフロントにも駆動力を与えているような感触が伝わってくる。エンジンパワーを少しでも多く路面まで伝え、それを速さに変えようという思想なのかもしれない。4輪でしっかりと路面を捉えながら、まさに爪を立てて掻くように加速する。
エンジン排気量を比べると、AMG GT 4ドアの3982ccに対してM5は4394cc。パワースペックではAMG GT 4ドアに一歩及ばないM5のほうが実は排気量は大きい。このエンジンのポテンシャルからすれば、AMG GT 4ドアと同等かそれ以上のパワーを発生させることなど難しくないはずだが、あえてこれくらいの出力/トルクに抑えている節が窺える。
デフォルトの4WDモードでもM5の車体を加速させるのは主に後輪で、AMG GT 4ドアほど前輪にトラクションはかかっていない。本当に必要なときだけ随時前輪を駆動させている。前から引っ張られ後ろからも押されるようなAMG GTの加速に対して、M5は後ろから押される配分のほうが多い。あくまでもFRの乗り味を壊さない範囲でそれでも速く走らせようと思ったら、600ps/750Nmくらいが最適だと判断したのではないだろうか。
念のために付け加えておくけれど、そうはいっても600ps/750Nmである。一般的な乗用車よりも圧倒的に速いことに間違いはなく、最大トルクの発生回転数は1800~5600rpmとトルクバンドが幅広い(AMG GTは2500~4500rpm)ので、発進時や追い越し時などいかなる回転域でも非常に使い勝手がよかった。
クルマ側で曲げるAMGと、ドライバー主導のM5
AMG GT 4ドアは特徴的な曲がり方をする。操舵初期の応答性はすこぶるよく、指をわずかに動かしただけでフロントノーズが反応するが、その直後にほんの一瞬の間があって、それを過ぎると今度は回り込むようにグイグイと向きを変え始める。初期応答の良さは高めに設定されたステアリングゲインによるもので、その後の回頭性はエアサスと後輪操舵とEデフとトルクベクタリングと4MATIC+といった電制デバイス総動員の効果だろう。
ばね上の動きはエアサスによって巧みに管理され、ロール剛性は高いが乗り心地に悪影響は及ぼしていない。後輪操舵とEデフは、後ろから曲げられるような感覚をもたらし、4MATIC+のおかげで4輪にしっかりとトラクションがかかるから旋回スピードも速い。いわゆる“オンザレール”の操縦安定性である。旋回中にスロットルペダルを踏み増してもアンダーステアを露呈することもなく、旋回スピードはさらに速くなる。
車検証によると、AMG GT 4ドアの前後重量配分は53:47、M5は54:46でほとんど変わりない。これを前軸重:後軸重で表すと、AMG GT 4ドアは1160kg:1010kg、M5は1060kg:890kgで、AMG GT 4ドアのほうが前後とも100kg以上重いことになる。この重さは、動力性能面に関しては強力な出力/トルクで相殺できていると思うけれど、物理的にAMG GT 4ドアのほうが重いことに変わりはなく、M5と比べると重厚感はあるが軽快感は薄い。
極端に言うと、クルマ側でよしなに曲げていってくれるAMG GT 4ドアに対して、M5は基本的にドライバーが主導権を握るハンドリング特性である。コーナー手前で進入速度やステアリングの切り始めのタイミングや操舵量を誤ったりすると、Eデフなどがすぐに挙動を立て直してくれて、「電子デバイスのお世話になってしまった」とちょっと反省する。
しかしドライバーが適正な運転をしている限り、デバイスの介入は最小限にとどめられ、介入したとしても黒子に徹するので作動はほとんど分からない。4WDの駆動形式ではあるものの、ハンドリングはFRのそれを楽しめるとともに、クリッピングポイントを過ぎてからの再加速時にはフロントにも駆動力が伝わるので、脱出速度はFRよりも速い。BMWにも後輪操舵付きのモデルが増えているが、M5に乗るとそんなものはまったく必要ないと感じる。
吊るしのAMGか? セミオーダーのM5か?
どちらも20インチのタイヤを履き、AMG GT 4ドアは空気ばね+電制ダンパー、M5は金属ばね+電制ダンパーだが、乗り心地はいずれもよかった。低速域から高速域まで、乗り心地の変化が少なく速度依存の低い乗り心地と言える。普段のアシとして十分使えるし、助手席の客人から不満の声は上がらないだろう。ハッチバックのAMG GT 4ドアのほうがリヤウインドウの面積は広いが大きくスラントしているので、リヤビューミラーに映る後方視界のエリアはM5よりも小さい。いっぽう、リヤシートのスペースはAMG GT 4ドアのほうが断然広かった。
この種のクルマでは、ドライブモードの切り替えと共に電子制御デバイスの細かい設定ができるようになっている。AMG GT 4ドアは「コンフォート」「スポーツ」「スポーツ+」「スリッパリー」「レース」「インディビジュアル」の6種類から選択可能で、さらにESPは3モードから、トラクションコントロールは(ESPオフモードを選んだ時のみ)9段階で制御量を調整できる。
M5は普通のBMWに標準装備されるドライブモード切り替え(「ECO PRO」「COMFORT」など)はなく、代わりにトランスミッション/エンジン/パワーステアリング/サスペンション/DSCをそれぞれ3段階ずつ個別にセットできるし、前述のように駆動形式も3段階用意されている。
AMG GT 4ドアのモード切り替えスイッチはステアリングにあって、サーキットを走らない限りはESPの制御量までいじる必要はないだろうから、6種類の中から状況に応じて最適と思われるモードを選べばいい。M5は固定のモードが存在しないものの、自分の好みのセッティング(例えば通常走行用にはDSCがオンでエンジンは「エフィシェント」であとはすべて「COMFORT」、など)をふたつまでメモリー可能で、それをステアリング上のスイッチで呼び出せる。
AMG GTとM5のセッティング方法のどちらがいいのかは、ドライバーの運転の仕方や運転中に何を気にするかによるだろう。スーツを買うときに、吊しで体型に合ったものを探すか(AMG GT 4ドア)、少し手間がかかるもののセミオーダーを選ぶか(M5)、そんな違いだと思う。
安全に速く走れるのはAMG! M5は操ることに悦びを感じる
AMG GT 4ドアでもっとも印象に残ったのはボディとシャシーの剛性感の高さだった。「本当にEクラスやCLSがベースなのか??」と疑いたくなるくらい、強靱でしっかりしている。聞けば専用の補強を徹底的に施したそうで、山道で左右に何度も切り返すような場面や路面から大きめの入力があった時でも、ボディとシャシーは微動だにせず、常に塊感に包まれているような安心感がある。この頑丈な基礎の上に、誰が運転しても安定かつ安全に途方もなく速く走れる性能が成り立っている。
M5ももちろん速く走れるのだけれど、ドライバーがクルマをうまくコントロールすればするほど、速さの質が向上して運転の楽しさや嬉しさがジワジワと伝わってくる。安全に速く走れることに快感を見出す人にAMG GT 4ドアはうってつけだろうし、操ることに悦びを感じる人の要望にM5はきっと応えてくれるはずである。
最近は何かと世知辛い世の中で、あまり速く走りたくなくなってしまった自分は、M5の個別のセッティングボタンを色々押しながら、あーでもないこーでもないと独り言を言いつつ、のんびり箱根あたりを流してみたいと思った。
REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
https://www.youtube.com/watch?v=SGd7jQE2DBA
【SPECIFICATION】
メルセデス-AMG GT 63 S 4マティック+
ボディサイズ:全長5054 全幅1953 全高1447mm
ホイールベース:2951mm
車両重量:2170kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
最高出力:470kW(639ps)/5500 – 6500rpm
最大トルク:900Nm/2500 – 4500rpm
トランスミッション:9速DCT
駆動方式:4WD
サスペンション形式:前4リンク/エアスプリング 後マルチリンク/エアスプリング
タイヤサイズ:前265/40R20、後295/35R20
0 – 100km/h加速:3.2秒
車両本体価格:2353万円(消費税8%含む)
BMW M5
ボディサイズ:全長4965 全幅1905 全高1480mm
ホイールベース:2980mm
車両重量:1950kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:4394cc
最高出力:441kW(600ps)/6000rpm
最大トルク:750Nm/1800 – 5600rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:4WD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン/コイルスプリング、後マルチリンク/コイルスプリング
タイヤサイズ:前275/35ZR20、後285/35ZR20
0 – 100km/h加速:3.4秒
車両本体価格:1740万円(消費税8%含む)
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