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「EVが主役」はミスリードだった? 2019年LAオートショーで「フツーのクルマ」を考える

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「EVが主役」はミスリードだった? 2019年LAオートショーで「フツーのクルマ」を考える

前回はいわゆるハイ・ブランドを中心にレポートしたので、今回は総合自動車メーカーとその傘下ブランドに目を向けてみる。

フォルクスワーゲン ID. スペースヴィジョン|Volkswagen ID. Space Vision

環境から車社会を見るモータージャーナリストが熱弁──クルマの未来予想図!【未来予想 1】

量産バージョンの発売を2021年後半に予定しているというスペースヴィジョン。次世代プラットフォーム、MEBを採用しており、広大な室内空間が特徴。

コルベットやマスタングが再び第一線に返り咲いた一方、ドイツ勢がハイパフォーマンス志向の新作や追加モデルを続々と投入するなど、ちょっとした「筋肉ショー」になっていた中、異質だったのはフォルクスワーゲンだった。同社のEVシリーズである「ID.」の第7のコンセプトカーとして、空力をとことん追求したというワゴンボディの「ID. スペースヴィジョン」を発表したのだ。

フォルクスワーゲン ID. スペースヴィジョン|Volkswagen ID. Space VisionすでにID.3というハッチバックの市販EVの生産に、秋頃から着手したと伝えられるフォルクスワーゲンだが、ステーションワゴンをアメリカで発表することは、思い切った提案でもある。というのもアメリカ市場では一般にセダンの需要が強く、ボルボ辺りはS60は米国生産だがV60は本国で生産しているほどだし、必ずしも現在の市況に自動的に当てはまるボディ形式ではないのだ。それでもラゲッジスペースの床下にスケートボードをスライド収納するなど、西海岸っぽいアピールをしているところを見ると、アメリカでステーションワゴンを広めたいという本気度が伝わってくる。実際、リアエンドの長いワゴンは空力に有利なスタイルで、MEBプラットフォームを利したID.スペースヴィジョンのCd値は0.24。バッテリー容量は82kWhでモーターの最大出力は340ps、駆動方式は4MOTIONによるAWDで、最大航続レンジは約590kmと発表されている。おそらくパサート相当の車格であることを思えば、フォルクスワーゲンにとっては、CO2排出ペナルティの相殺にも、1台当たりの収益率としても悪くないし、ユーザーにとってはかなりアシの長いEVで、ラゲッジ積載性をも備えたユニークな存在といえるだろう。

フォルクスワーゲン ID. スペースヴィジョン|Volkswagen ID. Space Visionフォルクスワーゲン アトラス・クロス・スポーツ R-ライン|Volkswagen Atlas cross Sport R-Line

7シーターから5シーターへとなったアトラス。最高出力275psのV6エンジンまたは235psの直4ターボガソリンTSIエンジンを搭載する。

もうひとつ注目は、アップルジュースを作る過程で出てしまうりんごの廃棄物を利用した、アップルスキンと呼ばれる人工レザーシートが内装に用いられている点だ。ドイツは、アプフェルショーレというりんごの炭酸割りジュースが家庭の冷蔵庫に必ず常備されているほど、りんごの一大消費国なので、「民衆の自動車」メーカーたるフォルクスワーゲンとしては久々に「らしい」目のつけどころといえるだろう。

トヨタ ミライ・コンセプト|TOYOTA MIRAI Concept

東京モーターショーでも公開されたミライ・コンセプト。従来型に比し航続距離を約30%延長することを目標に開発しているという。

同時にフォルクスワーゲンは、北米オリエンテッドな市販モデルとしてテネシー州チャタヌーガ工場生産のアトラス・クロス・スポーツR-ラインも発表している。兄弟モデルのテラモントは上海ショーでワールドプレミア済みで、全長5m超のフルサイズSUVながら、MQBプラットフォームをポロ辺りと共有していることが、あらためて感慨深い。ちなみに北米市場では、装いを一新したR-ラインのロゴの初採用例となった。

レクサス LC コンバーチブル|LEXUS LC Convertible

クーペモデルと同様の走りを実現するため、ボディ全体を新しく設計しなおした。ルーフの開閉は50km/h以下で可能で、オープン時約15秒、クローズ時約16秒。

そしてフォルクスワーゲンとグローバルの販売台数トップを競い、今年はタイトル奪還が濃厚なトヨタは、東京モーターショーとはうって変わって「クルマクルマした」展示内容で魅せた。まずは2021年登場予定のミライ・コンセプトを、北米R&D部門でフューエルセルの開発を担当する女性のシニア・エンジニアが自らプレゼンした。現行ミライは販売とリース合わせアメリカで約6000台が走っていて、カリフォルニアだけで38カ所の水素ステーションがあるとか。これを少ないととるか多いととるかは、また別の話だが、欧州メーカーがEVシフトする中で、水素社会と燃料電池車の普及に、現実に着手済みというメッセージは強力だった。東京で公開されたバージョンと異なり、窓は黒く塞がれインテリアの様子を窺うことはできなかったが、全長5m弱のサイズ感で、スリークかつクリーンなデザインは海外メディアからも高評価。もちろん現行モデルがアグリーに過ぎるというベースの出発点もあるが、スピンドルグリルへの転用も難しくなさそうだ。

トヨタ RAV4 プライム|TOYOTA RAV4 Prime

3.5リッターV6エンジンを搭載した米国仕様の先代RAV4を上回る0-60マイル加速、5.8秒を記録したRAV4 プライム。RAV4史上最速のスペックを誇るという。

ちなみに、そのレクサスはドイツ御三家とはまったく別のロジックで勝負していた。カリフォルニアという土地柄にふさわしいV8搭載の優雅なコンバーチブルとして、LC500コンバーチブルを投入したのだ。クーペ以上にクリーンなデザインで、注目度は高かった。

日産 セントラ|NISSAN SENTRA

従来型に比べ、全高を約50mm低め、全幅を約50mm広くし、よりスタイリッシュな印象を増したセントラ。ステアリングシステムやリアサスペンションを一新し、走りの性能を高めた。

このほか、トヨタで市販に近いモデルとしては、まだプレ生産版のようだが出るべくして出た雰囲気の「RAV4プライム」、つまりコンパクトSUVのPHEVバージョンがある。2020年夏投入の2021年モデルとされ、2.5リッターのアトキンソンサイクルのガソリンエンジンと電気モーターのシステム合計302psで0-60マイル加速は5.8秒、EVモードでの最大レンジは約60kmを謳う。現状のコンパクトSUVの中ではかなりのハイスペックといえる。州政府と中央政府の足並がイマイチ揃っていないZEV規制とはいえ、PHEVやEVの販売比率を増やすべきという流れにも沿いつつ、市場のボリュームゾーンでのハイパフォーマンス志向に応える1台といえる。

堅実な日本車勢ZEV規制のルールでは、CO2排出の少ないモデルを売った分のクレジットで、逆に排出量の多いモデルの販売分を自社内で相殺したり、他社にクレジットを販売できたりする。リーフがすでに市販モデルとして確立している日産からは、コンパクトな4ドア・セダンとしてセントラが登場。中国市場でいうシルフィの北米版で、パワートレインは145psの2リッター直4ターボにCVTの組み合わせで、典型的なブレッド&バターカー(日常的な乗用車)といえる。

ホンダ CR-V HYBRID|HONDA CR-V HYBRID

安全装備を備えた最新のホンダ・センシングを全グレードに標準装備。オートハイビームヘッドライトなどの先進装備も搭載しており、米国市場では来年初頭に発売予定だ。

一方で、よりカロリー高めになった現代のブレッド&バターカーといえそうなSUVにも、注目すべきモデルがあった。ホンダの新作は5世代目CR-Vのハイブリッド版。ホンダ・センシングとしてまとめられたADAS機能や自動ハイビームヘッドライトのような快適装備が充実したのみならず、2モーターハイブリッドは新世代とのことで、アトキンソンサイクルの2リッター直4と組み合わされ、システム全体で212psを発揮する。制御システムを含むインテリジェントパワーユニット(IPU)もコンパクトに床下に収められ、トランク容量も犠牲になっていない。

アキュラ タイプSコンセプト|ACURA Type S Concept

アキュラは、ホンダが海外向けに展開する高級志向のブランドだ。トヨタにおけるレクサスと同じようなものと考えるとわかりやすい。タイプSは、今後2年間で2車種を投入する予定だという。

また日本で展開していないアキュラも、ペブルビーチで披露したタイプSコンセプトの実車を持ち込んだ。デザイン・スタディの段階とはいえ、ロングノーズで低く構えたシルエット、滑らかなサーフェスが、セダンとしてかなりセクシーな印象だった。

直近の市販モデルについては、ここもやはりSUVだがスペシャルな1台を登場させた。NSXと同じオハイオ工場でハンドメイドされるのがウリのPMCエディションが、フルサイズSUVであるアキュラMDXにお目見えしたのだ。MDX PMCエディションは290psの 3.5リッター V6に9速ATのパワートレインでAWDシステムが組み合わされ、アメリカで300台、カナダで30台限定の販売となる。価格は6万5000ドル前後と見込まれる。

目立った変化が見えないからこそ、EVはフツーになってきた?総じてメッセージ性の強かったトヨタの展示以外では、堅実というか地味めに終始した日本車勢だったが、マツダはすでにジュネーブでお披露目していたCX-30の、アメリカ仕様を発表した。日本仕様ではマイルドハイブリッドが組み合わされた最新世代のスカイアクティブ-X、2リッター直4のスカイアクティブ-G、さらに1.8リッターディーゼルエンジンのスカイアクティブ-Dが用意されていたが、アメリカでは2.5リッター直4で186ps仕様のスカイアクティブ-Gのみとなる。ちなみに、ラインナップ上ではCX-5を挟んで車格がふた回りほど大きくなる、CX-9の2020年モデルも同時に発表されたが、こちらは2.5リッター直4ターボのスカイアクティブ-Gで従来通りの250ps仕様となっている。

アキュラ MDX PMCエディション|ACURA MDX PMC Edition

MDXはアキュラの最上級SUVで、PMCエディションは職人によるハンドメイドで組み立てられる。製造工程において、ボルト一つ一つの締め付けまで記録することにより、品質保証も行なっている。

概観してみれば、ハイパフォーマンス志向を押し出した一部のアメリカ車やドイツ車に比べて、日本車は加速自慢のようなモデルが不在というか、薄めの展開ではあった。「フツーのクルマ」という中央値になるものが見定めづらいのは、日本や欧州と並んで北米市場も同じくだし、電動化比率を高めなければCO2排出がペナルティとしてのしかかる状況も同様。だが昨年まで勢いのあった無数のEVベンチャーが「変化のための変化」で大きくブラフを効かせるよりも、従来から売れてきたものを着実にブラッシュアップして継続する方向性に向かったことには、むしろ安心感を覚える。

マツダ CX-30|MAZDA CX-30

米国向けのCX-30にはマツダの新生代車両運動技術「スカイアクティブ・ビークル・ダイナミクス」の第2弾、「G-ベクタリング・コントロール・プラス」を搭載する。ハンドル操作に応じたトルク変化に加え、ブレーキによる車両姿勢安定化制御システムを追加した。

世界に先駆けて排ガス規制を数々実施してきたのもカリフォルニアだが、ロサンゼルスのダウンタウン方面で頻発している渋滞を除けば、路上の光景にいまだ独特の空気感がある。週末の朝ともなれば、あちこちのショッピングモールのパーキングでモーニング・クルーズが行われ、様々な車種のオーナーたちが集まってくるし、ちょっと流行りのレストランがあろうものなら、ヴァレー・パーキングはランチタイム前に満杯になる。

変化はもちろん起きているが、クルマがかくも人々の生活に根づいてしまっているこの地でさえ、それは突然、目に見えて一気に推し進められるものではないのだ。

文と写真・南陽一浩 編集・iconic

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2件
  • 鉱山を破壊し地形を破壊し地球環境を破壊するEVこそ最悪エゴカー。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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