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知的なアスリート──新型マセラティ グラントゥーリズモ試乗記

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知的なアスリート──新型マセラティ グラントゥーリズモ試乗記

フルモデルチェンジした新型マセラティ「グラントゥーリズモ」は、何もかもが新しかった! 今尾直樹がリポートする。

ネットゥーノとEV版の二刀流

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4月某日、マセラティ ジャパンが袖ヶ浦フォレストレースウェイで “ネットゥーノV6”モデルを一堂に集めたメディア向け試乗会を開いた。F1由来の内燃機関の最新テクノロジー「プレチャンバー」を採用した“ネットゥーノ”は2020年にミドシップ・スーパーカーの「MC20」に搭載されて華々しいデビューを飾った。その後、SUVの「グレカーレ」、そして昨年秋に上陸した新型グラントゥーリズモにも搭載されて、新世代マセラティを象徴する内燃機関に位置づけられている。

2030年に完全EV化を宣言しているマセラティが、ここにいたってなぜまったく新しいV6エンジンを登場させたのか? その真意は奈辺にありや? 筆者はイマイチよくわかっていなかったけれど、今回、全長約2.5kmのフォレストレースウェイを先導車付きでそれぞれ3周してみて納得した。どれもめちゃんこヨカッタからだ。

どうヨカッタのか? まずは個人的に初体験だった新型グラントゥーリズモからご紹介したい。2022年にイタリア本国で発表されたこの最新フル4シーターGTは、名称と外観デザインの雰囲気こそ、先代グラントゥーリズモ(2007~2019年)から引き継ぐものの、中身は新開発の別物で、電池式電気自動車(BEV)版もある。新型グラントゥーリズモもまた、ネットゥーノとEV版の二刀流なのだ。

全長4965×全幅1955×全高1410mmのボディは先代より25mmほど長くて40mmほど幅広くなっている。つまり、大きく変わっていない。2940mmのホイールベースは逆に10mm短くなっている。サーキットでの試乗ということもあって後席に座って確かめてはいないのですけれど、おとな4名が乗れる、先代同様の賢いパッケージを維持しているという。これも軽量コンパクトなV6“ネットゥーノ”採用の恩恵らしい。軽量化は大きなテーマのひとつで、ボディの65%をアルミ化することで、先代比およそ100kgのダイエットに成功している。スペック表の車重は1870kgと、このクラスのGTとしてはなるほど軽い。先代とは異なり、トランスアクスル方式ではけれど、エンジンをフロントアクスルの内側に配置する、いわゆるフロントミドシップの採用により、前後重量配分は52対48を実現しているという。

インストゥルメントパネルはグレカーレに似ている。オートマチックのシフトスイッチはダッシュボードに溶け込むように並んでいて、私、久しぶりなのですっかりそれを忘れ、Dレインジのセレクターはいずこにありや? と、乗車して困りました。教えてもらって、そこからはもう大丈夫。このとき、自分が乗っているクルマがなんであるのかも確認した。ネットゥーノを搭載する新型グラントゥーリズモにはチューンの違いでモデナとトロフェオがあり、私が乗ったのはトロフェオの75th アニバーサリーであることを知った。マセラティの最初のGT、A6 1500から75年を記念した特別仕様車で、シートのヘッドレストに75と大書してあるのはそれゆえだった。

軽やかに加速させる先導車のブルーのグレカーレの後ろを追いかけながらコースイン。いわゆるドライブモードにはエコ、コンフォート、GT、スポーツ、コルサとある。結局、私はデファクトのGTとスポーツしか試していない。コルサを選ぶと電子制御のスタビティコントロールがオフになるからだ。

GTだと、乗り心地は最初、ふわふわに感じた。ブレンボのブレーキは強力で、軽く踏んだだけで素早くキュッと制動力を立ち上げる。なので、1コーナーを抜けて、ゆるいカーブの2コーナーでロールを、きつめの3、4コーナー手前でノーズ・ダイブを感じる。サスペンションは柔らかめのセッティングなのだ。あとで知ったのですけれど、新型グラントゥーリズモはエアサスペンションを装備している。記憶のなかのフェラーリV8の先代グラントゥーリズモと較べると、ネットゥーノV6の音量は控えめで、ハミングしている程度にしか聞こえない。

フォレストレースウェイはまことにテクニカルなコースで、2.5kmのなかに複合を含めて10ものコーナーが設けてある。そのむずかしいコースをグラントゥーリズモはじつになんなく走る。先導車のドライバーがお上手なことももちろんあるけれど、さほど旋回ブレーキを意識せずとも、新型グラントゥーリズモは鼻先軽く、たやすく向きを変える。4輪駆動であることを忘れさせるほど曲がるのだ。スポーツ、もしくはコルサモードを選ぶとアンダーステアの出ないトルク配分に変わる。

ということだけれど、デファクトのGTモードでも意識させない。最終コーナーの立ち上がりでガバチョとアクセレレーターを踏み込むと、ネットゥーノがデデデデデデッというビートを刻みながら、ボディを軽やかに加速させる。4WDのおかげで、全開時にもすこぶる安定している。グラントゥーリズモ・トロフェオのネットゥーノは550ps/6500rpmの最高出力と650Nm/2500~5500rpmもの最大トルクを発揮するというのに。

シトロエンを彷彿としたワケ2周目はドライブモードを、ステアリングホイールの3時の位置のスポークにある丸型のスイッチを右に捻ってスポーツに切り替える。エンジンのサウンドが俄然大きくなり、グオオオオオッというメカニカルなビートを発する。一瞬、5000rpmまでまわると惚れ惚れする排気音が聞こえてくる。サウンド増幅システムによるものらしいけれど、ごく自然で、陶酔感がある。

足まわりも当然引き締まる。でも、ガチガチではない。依然としてロールその他、姿勢変化を許す。ドライバーはロールと加減速時のノーズの動きを全身で感じながら、バーチャルなシミュレーターではない、リアリティを堪能することができる。これも“リア充”というのでしょうか。

0~100km/h加速3.5秒、最高速度320km/hを主張する第1級の動力性能を備えた高性能車なのに、粗暴な振る舞いは一切見せない。先導車付きで最高速度もストレートの終わりで150km/h出ているかどうか、に、抑えられていたこともあるにせよ、新型グラントゥーリズモはあくまでエレガントで洗練されている。

なによりよいのは、先代よりほぼ同サイズなのに、ひとまわり小さなクルマを操っている感があることだ。先代が重量級グランドツアラーだったとすると(それはそれで大いに魅力的だったけれど)、新型は中量級の趣がある。それはやっぱり、3.0リッターV6で、高出力、大トルクを発揮する最新ユニット、“ネットゥーノ”の最大の成果だろう。このV6と、よく動く脚がライトウェイト、と、表現したくなる軽快さを実現しているのだ。

余談ながら、ネットゥーノV6は同じ90度でおなじ3.0リッターということもあってか、筆者が最近試乗する機会に恵まれたシトロエン「SM」のオートマチックのマセラティV6に似ている……と、思った。

情熱は内側でメラメラと燃えている。だけど、外からはあまりわからない。それより知性と教養が優っていて、先代比、より運動能力に優れながら、その意味では、よりスポーツカー的でありながら、より沈着冷静で、頭を使ってプレーする。そういう知的なアスリート、を新型グラントゥーリズモはイメージさせた。

モダンでクール。私、新生マセラティの、すっかりファンになりました。

文・今尾直樹 写真・マセラティジャパン 編集・稲垣邦康(GQ)

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