ダンスもアクションもないインド映画『チャーリー』
『RRR』の大ヒットで日本でもお馴染みになってきているインド映画。そのイメージとして、けれん味のきいた派手なアクションや華やかなダンスシーンを思い浮かべる方が多いだろうか。そんなインド映画のイメージを覆すロードムービー『チャーリー』(6月28日公開)がSNSなどで話題だ。インド映画には珍しく、犬が主役的ポジションを務めている。まずはストーリーをご紹介しよう。
STORY
職場でも自宅の近所でも偏屈者として知られ、楽しみといえば酒と煙草とチャップリンの映画だけという孤独な日々を送るダルマ。そんな彼の家に、悪徳ブリーダーのもとから逃げ出してきた一匹のラブラドールの子犬が住み着くようになる。犬嫌いのダルマは何度も追い払おうとするが、やがて少しずつ心を通わせ、チャーリーと名付け自分の家に迎え入れる。やんちゃでイタズラ好きのチャーリーに振り回されながらも楽しい日々を送っていた矢先、チャーリーが血管肉腫で余命わずかだと判明する。ダルマは、雪が好きなチャーリーに本物の雪景色を見せようと、サイドカーにチャーリーを乗せ、南インド・マイスールからヒマラヤを目指し、インド縦断の旅に出る――。
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丁寧に丁寧に描かれるふたりの絆
上映時間は3時間弱。インド映画好きで長さ自体には慣れているものの、アクションもダンスもなしに、この長尺でどうストーリーを展開させるのかとの興味もあった。前半では、チャーリーが悪徳ブリーダーを逃げ出してダルマ(ラクシット・シェッティ)の元に辿り着くまでの経緯と、チャーリーに振り回されながらも偏屈で孤独なダルマが少しずつ変わっていく姿が描かれる。時間をかけて丁寧に描写しているからこそ、消極的な自暴自棄とも見えるダルマの緩やかで確かな変化を自然に受け入れられた。
後半は、ふたりでサイドカーに乗ってヒマラヤを目指すロードムービーだ。パンフレットに記載されている情報と作中の映像を頼りにふたりの旅の距離を調べたところ、出発地点である南インドのカルナータカ州マイスールからゴアを経由して北インドのヒマーチャル・プラデーシュ州シムラーまで2,900km弱。ふたりはそこから、さらに北へ進む。日本最北端の宗谷岬から最南端の佐多岬まではルートにもよるが2,800kmあまりなので、ダルマとチャーリーはそれ以上の距離を移動したことになる。
なおダルマの愛車は、エンブレムなどからロイヤルエンフィールド社製と思われる。イギリスが発祥で、現在はインドのチェンナイに本社を置くバイクメーカーだ。同国内に製造工場があるためインドでは国産車として広く愛されているそうで、クラシックで無骨なデザインがインドの風土にもダルマにもよく似合っている。サイドカー部分は、廃材を利用したチャーリーのためのダルマのお手製だ。
本物の雪を目指して、旅は続く
裕福とはいえないダルマにとって金銭的に楽ではない旅だが、一日中一緒に過ごして出会いや体験を重ねていくうちに、ふたりの絆はより深くなっていく。チャーリーだけでなく、ダルマにとっても初めての経験ばかりだ。南から北への移動に伴って移り変わっていく自然の様相とともに、街もそれぞれに個性的だ。いかにもインド的な街並みあり、ヨーロッパアルプスの麓にありそうな可愛い町もあり、ひなびた農村もある。人里離れた一軒家もある。人種も宗教もさまざまな中で、親身になってふたりを助けてくれる人たちが折々に現れる。
旅の経過を示すシークエンスでさらりと流れていくが、チャーリーを抱いてサイドカーに乗る人たちが次々に入れ替わっていくシーンがある。ヒッチハイクや道端で困っている人に声をかけて、ダルマが乗せたと想像できる。旅が進む中での偏屈だったダルマの変化や、人なつこいチャーリーが多くの人たちとの触れ合いを楽しんだことがわかる。チャーリーと一緒にサイドカーに乗った人たちには、「ちょっと特別」な記憶となって残り、彼らがこのひとときを思い出すたびに、チャーリーは彼らの中に生き続けるのだろう。さりげなくも、好きなシーンだ。
チャーリーがダルマにのこしてくれたもの
チャーリーはやんちゃで人なつこく、ダルマに一途な愛を向けて、最初から最後まで変わらない。片やダルマは、最初と最後ではまるで別人だ。それとも、過酷な経験で心を閉ざす前の本当の自分を取り戻したのかもしれない。ペットを飼っている人は、その彼らを犬や猫などというよりも「家族」であると感じるのではないだろうか。しかし、そんな家族の最期の時にできる限り寄り添っていたいと思っても、ダルマのように仕事も生活もなげうって望みを叶えることは難しい。「犬は人生を変える」のコピーの通り、チャーリーの愛に自分の全てで応えたダルマに訪れる新しい人生は、それこそがチャーリーののこしてくれた贈り物だろう。
チャーリーの名演と相まって泣ける映画である本作だが、単なる感動ものではなく明確で大切なメッセージも発信される。なにより、悲しい涙や可哀想な涙よりも、溢れてくるのは温かく心地よい涙だ。ぜひ劇場で、ふたりの旅を一緒に体験してほしい。その時はエンドロールもお見逃しなく。
またパンフレットは本文が絵本のように可愛く、本作にぴったりの装丁となっている。監督から日本の観客へ向けた特別なメッセージや場面写真もたっぷりと掲載されているので、鑑賞の記念を残したくなったら、手に取ってみてはいかがだろうか。
INFORMATION
『チャーリー』
監督・脚本:キランラージ・K
出演:チャーリー、ラクシット・シェッティ、サンギータ・シュリンゲーリ、ラージ・B・シェッティ、ダニシュ・サイト、ボビー・シンハー
<2022年/インド/カンナダ語/カラー/シネスコ/164分/5.1ch>
公式サイト:https://777charlie-movie.com/
公式X:https://x.com/777charlie_jp
配給:インターフィルム
(C) 2022 Paramvah Studios All Rights Reserved.
2024年6月28日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
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