一般社団法人 日本自動車販売協会連合会(自販連)の乗用車ブランド通称名別順位が発表され、2021年1~12月の累計で、1位トヨタ ヤリス:21万2927台、2位トヨタ ルーミー:13万4801台となった。
しかし、ヤリスはヤリスクロスが含まれており、合算によるデータのため、モデル単体で見るとルーミーがトップになるのだ。
フィット苦戦はまさかの同士討ち!? 販売好調アクアとのギャップはどこで埋まるのか
なぜルーミーはここまでの人気車となったのか? その理由(設計面の話、ライバルとの比較)と、どのグレードがお薦めなのかについて、渡辺陽一郎氏が深掘りしていく。
文/渡辺陽一郎
写真/TOYOTA、DAIHATSU、SUZUKI
■発売から5年が経過 ルーミーの落ちない販売状況
2021年に国内で販売された小型/普通乗用車の内、最も多く売られたのは13万4801台のトヨタ ルーミーだった。
公表されている統計では、20万台を超えるトヨタ ヤリスが1位だが、このなかにはヤリス、ヤリスクロス、GRヤリスがすべて含まれる。ユーザーがクルマを選ぶ時の認識では、ヤリスはコンパクトカー、ヤリスクロスはSUVだから、別のクルマだろう。
そこで登録台数を分割して算出すると、ヤリスは10万1460台、ヤリスクロスは10万4000台とされ、小型/普通乗用車の販売1位は13万4801台のルーミーになる。
トヨタ ルーミー。2016年に発売されてから徐々に販売数を伸ばし、2021年には13万台以上を販売した(写真はGグレード)
ルーミーは2016年に発売され、2017年の小型/普通車販売ランキングは11位、その後も2018年は10位、2019年は7位だった。それが2020年に6位になり、2021年は前述の2位(ヤリスシリーズを分割すれば1位)まで浮上した。
発売から5年後に順位を上昇させた理由は、姉妹車のタンクをルーミーに統合したからだ。2016年に発売された時は、ルーミーがトヨタ店とカローラ店、タンクはトヨペット店とネッツ店の取り扱い車種だった。
それが2020年5月に、トヨタの国内販売体制が変わり、すべての店舗でトヨタの全車を扱うようになった。姉妹車を用意する必要がなくなり、2020年9月のマイナーチェンジでタンクは廃止されている。その結果、ルーミーがタンクの需要を吸収して、売れ行きを伸ばした。
それにしてもルーミーの発売が2016年までさかのぼることを考えると、需要は根強い。発売直後となる2017年の登録台数は、ルーミーが7万8675台、姉妹車のタンクは7万854台だった。
合計すれば14万9529台で、2021年のルーミーは13万4801台だから減ってはいるが、比率に換算するとわずか10%だ。ルーミーが発売から5年を経過する割に、減り方は少ない。
■販売好調の要因は!? ルーミーの気になる長所と短所
売れ行きがほとんど下がらない背景には、ルーミーの機能がある。全長は3700mm(カスタムは3705mm)で全幅も1670mmに収まり、最小回転半径も4.6~4.7mだ。混雑した街中や駐車場でも運転しやすい。
そのいっぽうで全高は1700mmを上まわって車内は広い。後席の頭上と足元には十分な空間があり、後席を格納すると、大容量の荷室になるから自転車なども積める。
後席側のドアはスライド式だから乗り降りもしやすい。この合理的な造りと、150~200万円という求めやすい価格帯により、ルーミーは好調に売られている。
ルーミーのベースモデルであるダイハツ トール。スーパーハイトワゴンブームに危機感を抱いたトヨタ/ダイハツが開発したモデルだ
そしてルーミーの外観と機能は、絶好調に売られているホンダ N-BOX、スズキ スペーシア、ダイハツ タントといった軽自動車のスーパーハイトワゴンに似ている。これもルーミーが人気を得た理由で、開発の目的も、軽自動車のスーパーハイトワゴンに対抗することだった。
2014年には先代(初代)スズキ ハスラーの登場もあってスズキの軽自動車が売れ行きを伸ばし、ダイハツと激しい販売合戦になった。同年には国内で新車として売られたクルマの41%が軽自動車になり(2021年は37%)、コンパクトカーからN-BOX、スペーシア、タントに乗り替えるユーザーも増えた。
そこでトヨタの判断により、ダイハツが軽自動車造りのノウハウを活用して開発したのが、軽自動車のスーパーハイトワゴンに似たルーミー&タンク(ダイハツブランドはトール/スバルブランドはジャスティ)であった。
開発の開始時期は軽自動車の販売が急増した2014年だが、急いで投入しないと、軽自動車のスーパーハイトワゴンが売れ行きをさらに伸ばしてしまう。そこで約2年という短期間で開発を終えて、2016年に発売した。
そのためにDNGAの考え方に基づく新しいプラットフォームは間に合わず、直列3気筒1Lエンジンを含めて、パッソ&ブーンのメカニズムをベースに開発された。
ただしルーミーは、パッソ&ブーンに比べて全高が約200mm高く、車両重量も約200kg重い。短期間で開発された影響もあり、動力性能、走行安定性、操舵感、乗り心地、ノイズなど、さまざまな性能に不満が生じた。後席も居住空間は広いが、座り心地は柔軟性が乏しく、足を前側に投げ出す座り方になりやすい。
それでも販売が好調なのは、前述の運転のしやすさ、自転車などの積載性など、実用的な魅力が備わるからだ。価格帯もヤリスの1.5Lノーマルエンジンを搭載するグレードと同等で、軽自動車のスーパーハイトワゴンと比べても、15~20万円の上乗せに収まる。ルーミーは買い得度も強く、人気の要因になった。
■購入する時のポイントは? ライバルと比較してのルーミーの強みと課題
前述のとおり走行性能は今の水準では低いが、街中を時速50km前後で走るなら、乗り心地の硬さを除くと気になるところは少ない。後席の座り心地の不満も、チャイルドシートを装着する使い方なら払拭される。
それよりも軽自動車のスーパーハイトワゴンではなく、コンパクトカーになることのメリットが際立つ。自宅周辺に坂道が多い場合など、900kg前後の車両重量に660ccエンジンを搭載する軽自動車のスーパーハイトワゴンに比べれば、ルーミーはパワー不足を感じにくい。
また今の軽自動車は安全性を向上させて、小型車と遜色はなくなったが、それでも小型車のほうが安心できるユーザーは多い。
トヨタ ルーミー車内(Gグレード)。走行性能は高いとは言えず乗り心地も多少不満は残るが、街中を走る分には気にならない
都市部における販売店の数も影響した。タントを扱うダイハツ、スペーシアを売るスズキの販売店は、軽自動車の普及率が低い都市部には少ない。N-BOXのホンダは都市部の出店も多く販売も好調だが、店舗数は約2200箇所だ。トヨタは2倍以上の4600箇所だから、ルーミーは全国のどこでも購入しやすい。
つまりルーミーは、絶大な人気を誇る軽自動車のスーパーハイトワゴンを何らかの理由で選びにくいユーザーにとって、購入しやすい小型車になっている。しかも今の日産やホンダには、200万円以下で購入できるコンパクトなスーパーハイトワゴンがないから、需要がルーミーに集まった。
唯一のライバル車はスズキ ソリオで、2021年には4万4713台を登録している。スズキの小型車では最多販売車種だが、前述のとおりスズキの店舗数は都市部では少ない。ブランドイメージも軽自動車が強い。そのためにソリオの売れ行きは、ルーミーの33%に留まった。
それでもルーミーを買う時は、販売店の試乗車を使って、ソリオと乗り比べたい。ルーミーの欠点とされる走行性能、乗り心地、後席の座り心地などは、設計の新しいソリオのほうが優れているからだ。
ルーミーのライバル車といえるスズキ ソリオ。スズキには軽自動車のイメージが強いため小型車のソリオの売れ行きはルーミーほどではない
ソリオは車両重量も1000kg前後に収まり、ルーミーに比べて80kg前後は軽い。マイルドハイブリッドも採用され、ソリオは動力性能に余裕のある1.2Lエンジンを搭載しながら、燃費性能も少し優れている。
このようにソリオには有利な機能が多いが、ルーミーでは、荷室の床を反転させると汚れを落としやすい素材が貼られている。タイヤの汚れた自転車を積んだ後の手入れもしやすい。収納設備も含めて、ルーミーは実用性の高さが特徴だ。
価格は機能や装備と照合すると、両車ともに同程度になる。ライバル同士とあって、互いに買い得度を分析しながら価格を決めており、大きな差は付かない。
ルーミーのグレード選を選ぶ時、価格の安さを重視するなら、標準ボディのG(174万3500円)を推奨する。前述の通り価格はヤリス1.5Gと同等で、LEDヘッドランプや両側スライドドアの電動機能などを標準装着する。
しかし予算に余裕があるなら、カスタムG(191万4000円)を選びたい。標準ボディのGに比べると、エアロパーツ、アルミホイール、電動パーキングブレーキ、車間距離を自動制御できるクルーズコントロール、ハイビーム状態を保ちながら対向車などの眩惑を抑えるアダプティブドライビングビームなどを加えた。
これらを価格に換算すると、少なくとも22万円に達するが、標準ボディのGと比べた時のカスタムGの価格上昇は17万500円に抑えた。カスタムGは買い得グレードとあって、販売面ではルーミー全体の40%近くを占めている。
なお販売店によると「ルーミーの納期は約2カ月」とのこと。今は全般的に納期が長いから、2カ月なら短い部類に入る。それでも商談は早めに始めたい。
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