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自動運転技術の意味は「私がクルマを目的地に運ぶように命じ、そのようにさせている」という意識であるべきだ

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自動運転技術の意味は「私がクルマを目的地に運ぶように命じ、そのようにさせている」という意識であるべきだ

モーターファン・イラストレーテッドVol.130にコンチネンタルとZFの、Vol.131にボッシュのメディアツアーのレポートが掲載されている。その内容が3社ともに驚くほど似通っていたのは偶然ではない。センサーで検知し、ECUで判断し、各種アクチュエーターで動作させるという一連のフローを来るべき自動運転に適用しようと、ドイツ勢のみならず世界中の自動車メーカーとサプライヤーが企図している。時代は、少なくとも欧州においては自動運転技術開発は最優先事項のひとつなのである。

 私見をご容赦いただければ、自動運転技術は交通環境の健全化と乗員の安全には大いに寄与するだろうが、自動車本来の目的である「自由の獲得」からは大きく外れているものだと感じる。自動運転状態におかれているクルマがもっとも効率的に走行できるのは自車以外も同様の状態にあること。そこでは自由自在にクルマを運転する行為は異物扱いであり、ノイズ。人間が自分の身体能力以上で移動したいと作り上げてきた自動車というプロダクトの意義は、否定されることにもなりかねない。近年、自動運転技術を必要以上に持ち上げる動きが目立つが、あわせて地球環境問題から燃費性能を確保しなければならない事情はあるにせよ、本来クルマの役目はエゴであるべきだ。皆が皆、エゴを通していては交通環境や地球環境問題は解決しないのは当然だが、移動の自由を役割としているなら自動運転こそが次世代自動車のあるべき姿という報道の仕方には異議を唱えたい。

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 自動運転の意義は「積極的に運転したくないと考えたときにドライバーが楽をできること」である。それ以上でもそれ以下でもなく、クルマが自律運転することを究極の目標としてはいけない。実用化済みのAutomated Driveは当然のこと、レベル5のAutonomous Driveにおいても自動運転技術の意味は「クルマが勝手に自分を目的地に連れていってくれる」ではなく「私がクルマを目的地に運ぶように命じ、そのようにさせている」という意識であるべきだ。緊急制動システムは、運転している最中は始終前を見ていなくてもいいために存在するわけではなく、気をつけているけどそれでもついうっかりのタイミングで不幸にも衝突しそうになったときに助けてくれるためにある。たとえば何十キロにも及ぶ渋滞で集中力が削がれてしまったとき、運転技術が未熟で周囲に意識を充分に払えなかったとき、身体能力の衰えにより判断はできるけど操作が間に合わなかったとき──そんな諸々の条件下で自動運転技術は効力を存分に発揮すべき。したがって、「自動運転はクルマをつまらなくする」という論調は筆者にとって的外れの極みである。

 いっぽうで、自動運転技術が交通環境になじむかということも強く考えさせられた。ドイツに出かけると、かの地はドライバーのみならず歩行者までを含めて、彼らが「自分の移動」という行為に責任を負っているだろうことが感じられる。高速道路において追い越し車線を延々と走らない、市街地で横断歩道に人が待っていたら一時停止して渡るのを待つ、制限速度は必ず守る(もちろん実際の交通環境に設定制限速度が即していることが大前提だが)──といったクルマの動きだけでなく、歩行者にあっても右側を歩く(日本なら左側だろうか)、歩きながら携帯電話を操作しない、自転車は車両の意識を持って運転するなど、人間自身が自律の意識を高く持っている。



 誤解してほしくないのだが、筆者は日本の交通環境は決して悪くなく、ドライバーの能力は低くないと思っている。ただし、ルールが厳密でなく現実に沿っていない面が多々あり、マナーに大きく依っているのが問題だと感じる。ルールは守らなければならないもので破れば罰則をともなうもの、マナーは守ることがふさわしく個々人の努力に頼っているもの。「守ることがふさわしい」状態にあるからこそ、守らなくても顰蹙こそ買うもののさして実害がないために、結果として守らない人が目立ち円滑さが失われてしまう。「まあいいじゃない」「みんなやっているでしょ」「昔からこうだよ」「そのへんは雰囲気で」。阿吽の呼吸という言葉が日本人の気質を的確に表している。基本的な能力が低くないためにマナーに頼り、なんとかうまく回っているわけだ。

 くどくどと述べてきたのは、マナーに頼らずルールを遵守しているドイツの交通環境では、近い将来に実現するであろう自動運転技術も早期に定着するだろうと思ったからである。高速道路において、トラック/バスは第1走行車線を走行し続ける、乗用車は第1および2走行車線を走行し、追い越しするときのみ追越車線を用いて完了後速やかに走行車線へ戻る。合流時には1by1で入る。方や日本を眺めれば、スピードリミッターが装着されているトラックなのにもかかわらず追越車線へ入線する。延々と追越車線を走り続け渋滞を誘発する。合流時に隙あらばと割り込みする。このような状況は、システムにとってモデルケースから外れる状況であり、当然判断が難しくなり、そのために制御がより複雑化し、結果としての応答にも遅れが生じてしまう。移動の自由を主張するエゴとしての側面はあくまでもルールの上だけで考えるべき。権利は義務と表裏一体で、しかも義務は少しだけ多く負わなければならないのだ。


燃料を節約する

 2021年施行の95g/km-CO2の企業平均燃費達成のためになりふり構っていられない欧州勢は、ハイブリッド化/電動化を急速に進める。ストロングハイブリッドであるPHEVはおかしなクレジット算出方法による我田引水の感が非常に強いものの、マイルド/マイクロハイブリッドである48Vは効果こそ少ないいっぽうコストを抑え搭載車を増やすことで、全体としての燃費削減効果を狙う。2017年のボッシュ・モビリティ・エクスペリエンスでユニークだったのは、補助システムだと思っていた48Vシステムを独り立ちさせてEV動力源として用いていたこと。軽くて小さいけど距離が短い、長く走れるけど大きくて重たい。いずれのバランスを取るかは車両の企画次第で、残念ながらバッテリー技術に劇的な革新がない限り、モーター駆動には必ず制限がともなう。市街地内の手軽な移動手段ならば充分という割り切りはすばらしく、今後の展開に期待である。

 ではハイブリッド技術ならどうか。ボッシュをはじめとしたサプライヤー勢が精力的に進める48Vハイブリッド技術は、正直なところ採用が順調に進んでいる様子はない。提唱されたのは数年前にさかのぼり、まず市販にこぎ着けたのはアウディV8TDIのトップモデル。しかも適用した技術は電動コンプレッサーで、エネルギー回生を目的とするハイブリッドではなく、ハイパフォーマンス実現のためである。

 エンジンの不得手領域をモーター技術で補う48Vハイブリッド技術について、たとえばボッシュであればブースト・リキュペレーション・システムの名称でマイクロハイブリッドシステムとして提案されている。これはベルトを介してオルタネーター/ジェネレーターのトルクをメインシャフトに伝える方式で、力行/回生のフローを大がかりな改修がなくとも手軽に得られる装置として有望だ。こちらの例としてはダイムラーがメルセデスSクラスに採用、電動コンプレッサーとISG、エアコンコンプレッサー、ウォーターポンプに48Vシステムを適用し、さらにCクラスへの搭載と続いている。伝え聞くところによれば48V技術はボリュームの関係からまだコストが高く、「広く浅く」搭載を目論んでいる車種群には採用が難しいのかもしれない。少々不幸な話である。

 いっぽうでわが国に目を向けてみれば、スズキが「S-エネチャージ」の名称でマイクロハイブリッドシステムを実用化している。ご存じのとおり、これは12Vで力行から回生まですべてをまかなっているのが最大の特長で、コンバーターを用いずに済むところにコストメリットがある。そして、採用されているのが軽自動車を主とする小型車であるところに、非常に大きな意義がある。まさに「広く浅く」を実現しているわけだ。その意味で日本に48V技術は定着するかという問いに対して、高電圧系はすでに世界に冠たる技術を有し採用車種も多数、12V系もすでに実用化されていることを考えれば、筆者は難しいのではないかと考える。


クルマを動かすワクワク感

 頭がお花畑のような小見出しを立ててしまったが、切に世界中の自動車メーカーとサプライヤーに願いたいのが「ワクワク感」をともなうクルマの提案である。自動運転技術が大切なのは重々に承知しているのだが、これらはクルマが自動的に動くのを感心するものであり、自分の意思とは少々離れたところにある。燃費技術もますます重要になってきて、RDEの導入や規制の進み具合によっては究極的には出力を絞ることも求められるかもしれない。なんだか面白くないのである。

 なにも、300km/hが軽く出せるパフォーマンスとか500馬力を達成するクルマとか、そういうことではない。たとえば従来比50%減の燃料噴射量なのに精密な間引き制御で出力の衰えをまったく感じないシステムとか、ステア操作を上手に読み取ってパワートレーンとブレーキを高速で使い分けることで信じられないほどのコーナリングを実現するとか、EVかと思ったらICEVだったと勘違いするほどの静粛性を誇るエンジンシステムだったりとか、まるで地面を直になでているかのような自然な操舵感触だとか、そういった「ワクワク感」である。クルマは楽しい。心からそう思えるような提案を心待ちにしたい。

文:MotorFan Motor Fan illustrated編集部 萬澤 龍太
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