この記事をまとめると
■いま運送業界で「2024年問題」が話題
トラックドライバーの悲鳴と本音! 乗用車に「やめて欲しい行為」4つ
■2024年4月1日より時間外労働時間の上限が960時間に制限されるもの
■トラックだけでなく、バスやタクシー業界にも適用
2024年4月1日より時間外労働時間の上限が960時間に
いま巷では「2024年問題」というものが話題となっている。自動車運転にかかわる業務について、2024年4月1日より時間外労働時間の上限が960時間に制限される。メディアではおもにトラック輸送業界にフォーカスされ、時間外労働時間の上限が厳しくなる事により、2030年には日本全国で約35%の荷物を運ぶことができなくなるといった問題が「2024年問題」として報じられているが、バスやタクシー業界にも同様に時間外労働の上限規制が適用されるのである。
国としてもいじわるではなく、労働環境の改善を目的に行うのだろうが、結果としては従来に比べて、ドライバー、一人当たりが従事できる時間が減るので、減った分は人員増強で対応しないと現状の輸送力確保は難しいものとなってしまうのである。
確かに労働環境の改善は望ましいことかもしれないが、とくにタクシー乗務員は法人タクシー会社に勤務していれば体裁としてはサラリーマンとなるが、稼げなければそれがダイレクトに給料に反映される。2002年に道路運送法が改正され、タクシー業界の規制緩和が進み、タクシー業務への新規参入及び増車が自由化された(2009年に再び規制強化された)。
この時、タクシー業界は運賃値下げ競争も激化し、売り上げ確保のために乗務員は長時間労働や休日出勤が当たり前となり、そのためタクシーが関係する重大事故も多発することとなった。当時は景気も悪く利用者は減る一方となっていた。ただ、極端な長時間労働や休日出勤は好ましいことではないが、いまより拘束時間の管理が厳密ではなかったので(つまりいまより長く乗務できた)、結構稼ぐ乗務員も多かった。
タクシー乗務員という仕事は端で見ていれば、いまどきはアプリ配車というものがあるが、都内などではどのタクシーもひたすら街を流して利用客が手を挙げるのを待っているように思うだろうが、乗務員個々で時間帯ごとにどこを回るかなどのルーティーンを決め、営業している。都内を例にすれば、平日は朝から車庫を出られるので、まずは通勤客を中心にひと稼ぎし、日中は需要の多い中央、港、千代田区を中心に流し、仕事で移動するサラリーマンを狙っていたとのこと。そして、夕方は帰宅する人などをメインに乗せて、深夜割増時間帯はゴールデンタイムとも呼ばれ、繁華街で酔客を乗せて東京隣接県などへ向かうロング(長距離利用客)を狙うというのが一般的な乗務パターンと聞いたことがある。
ただ、その後規制が強化されると、朝から明け方までという乗務はできなくなったとのこと。つまり規制強化で以前より稼げなくなっているというのも確かな話のようである。現状は新型コロナウイルス感染拡大も手伝い、乗務員の退職が進んだことで事業者の多くは十分な数のタクシーを稼働させることができないので、残った乗務員はまさに昼も夜もフル稼働といった状況が続き、運賃収入も悪くないようだが、新規乗務員が十分確保できれば業界全体で見れば再び稼ぎにくい仕事になってしまうだろう。
労働環境の改善は喜ばしいことかもしれないが、同時に過去は稼げる仕事だったタクシー乗務という仕事が、アプリ配車などで新規需要を掘り起こすことのでき、そこそこ稼げる事業者がいたとしても、世間的にはすっかり稼げない仕事というイメージが定着してしまっている。
安全に稼げる環境づくりが求められる
稼ぎにくくなった仕事というイメージとともに、従事する際のリスクが高いというイメージも定着している、まずは交通事故である。ケースにより警察に身柄確保されれば実名報道されるというリスクもある。また、乗務員当事者がケガや場合によっては事故で死亡するケースもあるだろう。座りっぱなしで休憩があるものの連続20時間ほど乗務していれば身体への負担も多く、乗務中に病死するということもそんなに珍しくない。そしてタクシー強盗など犯罪に遭遇するケースも多い。最近では稼げるか稼げないかではなく、リスクの高い仕事として家族が従事することに反対するケースが目立っている。バスの乗務員も事故というハイリスクを理由に家族が反対するケースが多いと聞く。
今回の2024年問題はリスク低減という効果は期待できるかもしれないが、いま以上に満足のいく収入が期待できないケースが発生する可能性は高いし、そうなれば募集をかけても新規雇用はなかなか進まず、結果として街なかを走るタクシーそのものが少なくなるなど、その波及効果は読みきれない部分が多い。
トラックや観光バスというものは、安全運転を支援するさまざまなデバイスが新車では充実するようになってきている。タクシーでも法人タクシーでよく使われる専用車となるトヨタJPNタクシーでも、その内容は別としても衝突回避支援パッケージ(トヨタセーフティセンス)が標準装備されているが、路線バスについては安全運転を支援するデバイスがいっさい装着されていないのが現状。
いまでは乗用車でも当たり前となっている自動ブレーキを装着すると、万が一自動ブレーキが作動してしまうと、客席にはシートベルトはないし、立って乗車している人もおり車内転倒事故を誘発する可能性もあり、なかなか導入に踏み切れないようである。
そのため路線バスの乗務員募集を行うと、本人は納得して応募しているのにその家族は「安全運転支援デバイスもない車両を運転させるわけにはいかない」と猛反対してきて話がご破算になることもあると聞いている。単純に労働時間を厳密に管理するだけでは問題の解決はまず無理だろう。安全に従事できる環境整備、そして稼げる仕事にすることが、何よりも安全な乗務環境の実現の特効薬となるのである。
「20時間近く乗務して思うように稼げないなか車庫に帰ると、その時の疲労はかなりきついようですが、ロング客を当てたりして予想以上に稼げた時は疲れや眠気などは吹っ飛ぶと聞いたことがあります」とは事情通。稼ぐために過重労働を強いることは許されないことだが、2024年問題はさじ加減が少々アンバランスのようにも見えてしまう。自動車運転にかかる業務だけでなく、いまはどの仕事でも稼げないという事実による労働意欲の減退が日本中にまん延しており、それが負のスパイラルの要因のひとつになっているとも感じている。
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