2021年10月24日、イタリアのミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリでMotoGP第16戦エミリア・ロマーニャGPが行われた。
チャンピオンを争うファビオ・クアルタラロ(ヤマハ)とフランチェスコ・バニャイヤ(ドゥカティ)の真っ向勝負となったこのレース。バニャイヤがポールポジションから好スタートを決めて後続を引き離していたため、タイトル決定は次戦以降に持ち越しかと思われた。
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しかしレース終盤、バニャイヤがまさかの転倒を喫し、その瞬間にクアルタラロのチャンピオン獲得が決定。ヤマハは思わぬ形で、2015年のホルヘ・ロレンソ以来となるライダーズタイトルを手にすることになった。
「予選15位からのスタートを強いられていましたので、正直『今日はないな』と思っていたんです」
「ですのでちょっと驚きでした。喜びの前に力が抜けて、状況が落ち着いて後でこみ上げてくるような形でした」
ヤマハ発動機MS開発部の鷲見崇宏プロジェクトリーダー(以下鷲見PL)は、タイトル獲得の瞬間についてそう振り返った。
2021年、ヤマハとクアルタラロのコンビはトップ5フィニッシュを11回、さらに5勝を記録。安定感に欠け、タイトル争いから脱落してしまった2020年と比べると、大きく進歩した感がある。
その要因について鷲見PLは、マシンとライダーふたつの要素がうまく組み合わさったと見ている。YZR-M1に関しては、クアルタラロが安心してブレーキングで攻めることを可能とするための開発を実施。結果的にタイヤとマシンの限界がわかりやすくなり、いろいろな場面で自信を持てるようになったと説明している。
ではライダーとしてクアルタラロは昨年からどう変わってきたのか? その点については、苦戦した2020年シーズン後半戦における試行錯誤の連続が、活かされていたと語った。
「2020年は中盤に調子を崩し、スランプに陥ってしまっていました」
「ファビオは普段、あまりセッティングなどを大きくは変えないんですが、2020年は(スランプもあって)あらゆるトライをしてきました」
「結果的にチャンピオンシップは逃しましたが、チーム/ライダーを含めてあらゆるトライをしたことで、彼にとっての“引き出し“が増えたと思います。(セッティングの)どこを変えればどう変わり、あるいはどこを変えないのか……そういったところが分かってきたのかなと」
「2021年も、良い時も悪い時もありましたが、困難な時をマネージして、最終的に日曜日にベストな状態へと持っていくということが、落ち着いてできるようになりました」
「チームとライダーの信頼関係、メンタルの成熟が深められたことで、あらゆるサーキットや場面で成績を残せるようになったんだと思います」
「勝てない状況でどうするか……いかにベストな状態にマネージしていくか。その点を底上げできたことが、チャンピオンに繋がったと思います」
また、鷲見PLはクアルタラロの成長について、レースマネジメントの部分以外にも、ガレージやパドックでの振る舞いも変わってきていると指摘していた。
「彼はコースに出ると感情表現が激しいです。悔しい結果になった時などは、涙を流すようなこともあります」
「特に難しい状況で、“今は上手くコメントできない“という時でも、一旦落ち着いてからきちんと説明してくれます。ライダーとして感情と、チームとのコミュニケーションをしっかりと使い分けてやってくれています」
「我々としても上手くいっていない時が改善に向けていちばん大事なところですので、チームとの信頼感という部分が上がってきて、コミュニケーションが上手くできていました」
「そしてなにより、明るいところが良いですね。後でデータを見に来たときは朗らかな若者で、一緒に働いていて、一丸となって気持ちよく働けるパーソナリティを持っていますね」
なおこうしたクアルタラロのパーソナリティについては、ヤマハのマネージングディレクターであるリン・ジャービスも高く評価しており、MotoGPでは珍しい”良い人”のチャンピオンだと指摘している。
2022年シーズン、王座防衛に臨むヤマハとクアルタラロは、一丸となってドゥカティ勢や復活の予想されるマルク・マルケス(レプソル・ホンダ)などを退けることができるだろうか? その答えの一端は、2月5日から始まるプレシーズンテストで垣間見ることができるかもしれない。
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