F1にとって、5月は憂鬱な月だ。この月に命を落としたF1ドライバーを振り返る。
5月のレースは危険
今だからこそ“最近のイイクルマ”を思い起こす──心に残っているクルマ達 2019-2020 Vol.1
5月といえば風薫る清々しい季節。スポーツをするのにも観るのにも絶好の季節だ。モータースポーツとて例外ではなく、ヨーロッパでは世界一煌びやかで伝統のあるモナコGPが開催され、アメリカでは30万人もの大観衆を集めるインディアナポリス500マイル・レースが行われる。大西洋を挟んで西と東。レース好きの富豪がプライベートジェットで大西洋を渡るのもこの時期だ。
ところが、この清々しいはずの5月、今年は新型コロナウイルス問題でレースは中止、モータースポーツはすっかり輝きを失っている。ただ、新型コロナウイルス問題を抜きにしても、モータースポーツの世界では5月は辛い想い出に彩られた憂鬱な時期でもある。なぜなら、多くの優秀なドライバーが5月に命を落としているからだ。5月のレースは危険と隣り合わせだ。
ご存じの方もいるだろうが、レースでは観客が購入する入場券の裏面に「モータースポーツは危険です」という文言が記されている。こんなスポーツは他にはない。大勢の観客に観戦を勧めておきながら、来場者にこのスポーツは危険だと警告する。開き直っているとしか思えないが、この注意書きが示すように、観客はモータースポーツに内在されているスリルを経験しに来る。そのスリルとは、いつ事故が起こるかもしれないという、その発現を憚られる期待に他ならない。もちろん、レース場にいる誰ひとりとして事故で誰かが命を落とすことは望んでいない。しかし、時としてそれは現実となり、ドライバーの命を奪い、またあるときには観客をも事故に巻き込む。モータースポーツは危険なスポーツなのだ。
憂鬱な5月
Alberto Ascari, Grand Prix Of FranceBernard Cahier1955年5月26日、モンツァ・サーキット(イタリア)でアルベルト・アスカリが事故死した。フェラーリの耐久レース用のクルマをテスト中の事故だ。1952年、53年の世界チャンピオンであるアスカリの事故死は、レース界に衝撃を与えた。憂鬱な5月の始まりだった。57年5月12日には、アルフォンソ・デ・ポルタゴ(侯爵)がミレ・ミリアで観客13人を巻き込む事故で亡くなった。ミレ・ミリアはその年を最後に中止されたが、5月の事故はその後も続いた。
Alfonso de Portago, 24 Hours Of Le MansBernard Cahier時を経て1967年5月7日、モナコGPでロレンツォ・バンディーニの乗るフェラーリが海岸通りのシケインを抜けたところで、藁束と鉄柱にぶつかり炎上、クルマは全焼した。炭化したフェラーリから引き出されたバンディーニは3日後(5月10日)に病院で亡くなった。バンディーニが事故死した場所は、前年に公開されたジョン・フランケンハイマーの映画「グランプリ」で、奇しくも彼自身がモナコGPの事故のシーンをフランケンハイマー監督に推薦した場所だった。
Lorenzo Bandini, Grand Prix Of BelgiumBernard Cahier1970年代になってドライバーが火災で亡くなる事故は減少したが、現代のF1マシンに較べるとまだまだ安全性は低かった。1982年5月8日、ゾルダー・サーキットで行われたベルギーGPの予選で、ジル・ビルヌーブは他車との接触でクルマから投げ出されて亡くなった。彼はシートごとコクピットから放り出され、フェンスの支柱に打ち付けられた。ビルヌーブは彗星のごとく現れたカナダ人ドライバー。F1参戦2年目からフェラーリのドライバーとして活躍、チャンピオン・タイトルこそ獲得出来なかったが、狂気ともいえる走りで玄人も素人も魅了した。彼のデビュー・レースは1977年のイギリスGP。マクラーレンの3号車で参戦した。私は彼のこのデビュー・レースを取材している。この時の走りがエンツォ・フェラーリの目に止まり、翌78年からフェラーリに迎えられた。
Gilles VilleneuveHulton Archive1986年5月14日にはポールリカールでテスト中のエリオ・デ・アンジェリスが亡くなった。ロータスで6年間過ごした後、85年に加入したアイルトン・セナに追われるようにブラバムに移ったばかりだった。プロ級のピアノ演奏の腕前を持つ貴族の末裔。若さに似合わぬ、ノーブルさを備えたドライバーだった。
Formel 1, Grand Prix Niederlande 1983, Zandvoort, 28.08.1983 Lotus-Kommandostand Hazel Chapman Elio de Angelis Nigel ManHoch Zweiヒーローの死
そして、1994年5月1日、誰もが忘れえぬ悲劇の日だ。イモラ・サーキットで行われたサンマリノGPでアイルトン・セナが事故死した。彼の事故の詳細は、すでに多くのメディアに取り上げられているのでここでは省略するが、F1グランプリで最も優れた天才ドライバーの死に、世界中が衝撃を受けた。セナの存在は、モータースポーツ界に留まらず世間一般に知れ渡っており、彼の葬送では何10万人というブラジル国民が沿道を埋めた。このヒーローの死で、悲劇の5月は沸点に達したと言えよう。
Ayrton Senna, Grand Prix Of PacificPaul-Henri Cahier最後になるが、2019年5月21日、ニキ・ラウダが亡くなった。現役時代に事故で瀕死の重傷を負うも生還、その後もレースにビジネスにと才能を発揮し、近年はメルセデスF1チームの代表に就いていた。鉄人も病魔には勝てなかった。
Grand Prix of Great BritainAdrian Murrell5月は風薫る清々しい季節。4月に吹いた芽が成長し、木々の葉の緑が増す。それはまさに生命力に溢れた季節。その5月に散っていったドライバーに思いを馳せると、彼らの命が木々の若葉に甦ったように感じられる。それでも私にとって5月は憂鬱だ。
PROFILE
赤井 邦彦(あかい・くにひこ)
1951年9月12日生まれ、自動車雑誌編集部勤務のあと渡英。ヨーロッパ中心に自動車文化、モータースポーツの取材を続ける。帰国後はフリーランスとして『週刊朝日』『週刊SPA!』の特約記者としてF1中心に取材、執筆活動。F1を初めとするモータースポーツ関連の書籍を多数出版。1990年に事務所設立、他にも国内外の自動車メーカーのPR活動、広告コピーなどを手がける。2016年からMotorsport.com日本版の編集長。現在、単行本を執筆中。お楽しみに。
文・赤井邦彦
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