毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るその影で、ひっそりと姿を消す車もある。
時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。
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しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。
訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はスズキ スプラッシュ(2008-2014)をご紹介します。
●【画像ギャラリー】デビュー当時のベストカー試乗の様子からスズキ スプラッシュの姿を振り返る
文:伊達軍曹/写真:ベストカー編集部
■「世界で通用するグローバルコンパクト」を目指したスズキの意欲作
主にヨーロッパ市場に向けて作られた「世界基準」のコンパクトカーだったが、日本ではカルチャーの違いから今ひとつウケず、残念ながら1代限りで終わってしまった隠れ名車。
それが、2008年から2014年まで販売されたスズキ スプラッシュです。
立体的なフロントノーズとシャープなデザインのヘッドランプ、ボディーの四隅に力強く張り出したフェンダー、キャビンの広さと空力性能に貢献する流れるルーフラインと切り立ったリヤエンドを採用
スプラッシュは、2007年のフランクフルトショーと同年の東京モーターショーでコンセプトカーが発表された5ドアハッチバックの世界戦略車。まずは2008年3月に欧州で発売され、同年10月には日本でも販売開始となりました。
「世界で通用するグローバルコンパクト」を目指したスプラッシュは、欧州を拠点とするチームがデザインを主導。そして生産はハンガリーのマジャールスズキで行われ、それが日本に輸入されたという、まさにグローバルな車だったのです。
プラットフォームのベースは2代目スイフトですが、全高以外はスプラッシュのほうがスイフトよりひと回り小さいというニュアンスです。
「ラグーンターコイズメタリック2」「コスミックブラックパール」「スプラッシュグリーンメタリック」「ブライトレッド5」「カシミールブルーメタリック4」と「スペリアホワイト」の全6色を用意。また外装色に合わせて3種類のインテリアカラーが採用された
日本市場向けのパワーユニットは最高出力88psの可変バルブタイミング機構付き1.2L DOHC「K12B」+CVT。ただし欧州市場向けにはその他種類のエンジンとマニュアルトランスミッションが採用されていました。
大きな一眼の速度計はいかにも「欧州車」らしく200km/hまで刻まれていて、フロントシートは同世代のドイツ製コンパクトカーのようにしっかりした作り。
そして123万9000円という安価な車であったにもかかわらず、SRSサイド&カーテンエアバッグまでが標準装備されていました。
「オーバル (楕円形)」をデザインモチーフとした、シンプルかつモダンなインテリア
日本やヨーロッパの各地で繰り返し走行テストが行われたというその走りは、まさに「欧州基準」そのもの。
日本の都市部での常用速度域ではかなり硬く感じられた足回りでしたが、50km/hを超えたあたりから路面に吸い付いたかのような感触となり、相変わらず硬めではあるのですが、しなやかなニュアンスとともにハイペースでワインディングなどを疾走することが可能でした。
そのような「本格派」だったスズキ スプラッシュでしたが、結局のところ日本での販売はずっと低空飛行のまま。
その結果として2014年8月、スズキ スプラッシュは1代限りで販売終了となってしまったのです。
■欧州譲りの走りが仇に? スプラッシュの導入は“無駄”だったのか?
「超本格派」だったスズキ スプラッシュが日本ではほとんど売れず、1代限りで廃番となった理由。それは、根本的には「欧州と日本の速度域の違い」だったはずです。
欧州各国でも都市部ではもちろん渋滞が発生しますが、郊外や山岳路、あるいは高速道路では、日本の常識よりずいぶん速いペースで各車が走行しています。
それはスポーツカーに限った話ではなく、ごく普通の大衆車でもけっこうなペースで走っているのです。
スイフトのプラットフォームを基にした車体でヨーロッパ各地で走行テストを繰返し、サスペンション・ステアリング・ブレーキを“最適”にチューニングしたはずだったのだが
ちなみに筆者はスペインの中年女性が運転するボロいMTハッチバックに同乗したことがありますが、そのハイペースっぷりと運転スキルの高さには正直たまげました。
そういった使い方であれば、スズキ スプラッシュの本格派なシャシー性能はかなりの威力を発揮します。
聞くところによれば、スプラッシュの開発当時にオペル(GM)がスズキに提示した性能要件はかなりタフで厳しいものだったそうです。
で、スズキはその要求を見事にクリアして「素晴らしい走行性能をその身に秘めた地味な小型車」を完成させたわけですが、その後、ちょっと残念な事態に陥りました。
残念な事態というのは、「日本では、せっかくの性能を活かす場がなかった」ということです。
カーマニアがビュンビュン走らせれば、スプラッシュの素晴らしさはすぐにわかります。それゆえスプラッシュは、カーマニアやジャーナリストからの評価は高い車でした。
しかし、こういったカテゴリーの車を買うユーザーの大半はカーマニアではありません。
2代目スイフトとのサイズ比較
基本的には都市部や郊外などで買い物や通勤、送迎などのためゆっくりめに走るだけです。またそもそも、日本は国全体として自動車交通の速度レンジが低いため、速度を出したくても出せない――という状況もありました。
そんな状況下ではスプラッシュの自慢である「欧州基準の足回り」も、単なる「妙に硬い足回り」にしかなりません。
そんな不快な車をわざわざ買うぐらいなら、もっと快適な(柔らかな)乗り心地で、スプラッシュより車内が断然広い「軽自動車」や「その他の普通のコンパクトカー」を買いたくなるのが、一般的な人情というものでしょう。
このほかにも「同門であるスイフトの存在」や、「車重1tを超えるため重量税がちょっと高い」などの理由もあったと思いますが、いずれにせよ、スプラッシュはあんまり売れませんでした。
しかしスズキがスプラッシュの開発において苦心し、そして実現させた素晴らしい技術は、その後のスイフトスポーツやイグニスなどに生かされたはず。
それを考えれば、スプラッシュの登場は決して「無駄」ではなかったと言えるでしょう。
■スズキ スプラッシュ 主要諸元
・全長×全幅×全高:3715mm×1680mm×1590mm
・ホイールベース:2360mm
・車重:1050kg
・エンジン:直列4気筒DOHC、1242cc
・最高出力:88ps/5600rpm
・最大トルク:11.9kgm/4400rpm
・燃費:18.6km/L(10・15モード)
・価格:123万9000円(2008年式ベースグレード)
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