歴代モデルは常に高い評価を受けてきたゴルフGTI。当然、新型の出来栄えへの期待も高い。ここでは8代目の進化したポイントを解説しつつ、その走りをレポートする。(Motor Magazine2022年3月号より)
エンジンと車両制御技術を大きくアップグレード
新型ゴルフGTIを語る前に、8代目ゴルフ(ゴルフ8)について、少し触れておこう。ゴルフ8は2021年6月に日本デビューした。ガソリン車は1L直3ターボと1.5L直4ターボで、いずれも48V式スタータージェネレターを備えたMHEVとなった。2021年12月にはGTIと、ほぼ同時に2L直4ディーゼルターボのTDIを追加。サスペンションはフロントは全車ストラット、リアは1L車はトーションビームで、それ以外には4リンクを採用する。
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ガソリン車の乗り味はいずれも軽快で、中でも3気筒エンジンを積む1L車はフロントの軽さを活かしてキビキビとした走りを楽しめる。後輪への上下入力を両輪が同時に力を受け止めてしまうトーションビームは乗り心地においてやや不利だが、安定感は高くスポーティでもあり、FFモデルの本流であると感じた。
そこにいよいよ待望のゴルフ8 GTI(以下、ゴルフGTI)が加わった。パワーユニットには第四世代となる2L直4ターボエンジンを搭載。2017年10月のマイナーチェンジ後のゴルフ7 GTIの最高出力230ps、最大トルク350Nmから、最高出力245ps、最大トルク370Nmへとアップし、その性能はハイスペックモデルだったゴルフ7 GTIパフォーマンスと肩を並べる。
トランスミッション(DCT)も6速DSGから7速DSGに変更され、フロントLSDには電子制御油圧式ディファレンシャルロックを標準装備。このブレーキLSD効果も併せ持つ電子制御式ディファレンシャルロックシステムのXDSと組み合わせることで統合制御を可能にした、ビークルダイナミクスマネージャーも採用した。
ひと言で説明すると、これはディファレンシャル機能とブレーキシステム制御技術を組み合わせた姿勢制御プログラムで、アクセルオン時には機械的制御で駆動力を高め、全領域でブレーキやエンジンを制御して旋回姿勢を安定させ、より正確なハンドリングをバックアップしてくれるものだ。
これらのシステムもゴルフ7 GTIパフォーマンスに採用されていたものの進化版で、走りの性能は確実に底上げされたと言える。ゴルフGTIは高度なシステムを投入した、志の高いモデルであることに間違いない。
フロントの足まわりは新設計のアルミ製サブフレームの採用で3kg軽量化されたうえに、各部の設定変更などによって剛性をアップ。スプリングレートも先代より5%強化されている。リアの足まわりも各部の仕様変更と強化を行い、スプリングレートの15%アップも実現。前後ショックアブソーバも一新された。
今回の試乗車にも装備されていたオプションのアダプティブシャシーコントロール「DCC」を選べば、走行モードによって減衰力や操舵フィールの違いも味わえるなど、走りの楽しみの幅を広げることに対して余念がない。
軽快にして重厚な操舵感洗練されたクルマの動き
いざ試乗してみると、フラット感の高さが気に入った。ベースモデルには、ゴルフ7よりも15mm短縮されたホイールベースの効果と思われる軽快さがある一方で、地に足がついた重厚感といった乗り味はやや薄れた感があった。
この点をゴルフGTIではどう料理してくるか興味深かったが、リアの足まわりの動きはしっかりと調律され、無駄なボディの動きがない。フロントへの多めな荷重移動からターンインの姿勢へと移行するFF特有の操縦性を生かしたベースモデルの走りに対し、ゴルフGTIでは従来型同様の落ち着きがある姿勢変化に起因する安定感が健在だ。軽快なハンドリングと重厚さを兼ね備えた走りで、納得できるレベルだ。
ボディに無駄な動きがないことで、4輪が常に路面を掴み続けている点も良い。荷重移動で車両の向きを変えていくのではなく、4輪のグリップを常に感じながら旋回を続けられる。アクセルペダルを踏み込んでいくと前後ともに沈み込み、FFでありながらリアから先にGが立ち上がってくるような力強さを感じる。駆動力を少しも無駄にせず、旋回力としてしっかりと使っている印象だ。
しかも、足まわりの動きが実にスムーズだ。とくにそれはコーナーリング中に感じた。ゴルフ7 GTIは反力があることでしっかり感を出していたのに対し、ゴルフGTIではグリップのピークまでは動きが一定に推移して、期待どおりにGがリニアに増していく。さらにクルマの挙動は研ぎ澄まされていて、ゴツゴツ感がなくスッキリしている。操作もしやすいうえに、ノイズや振動といった雑味もないので不満は一切ない。
足まわりの動きが洗練され、リアの追従性も高いことからボディは常に安定し、重厚さをキープ。そのうえ先述のとおりショートホイールベース化による軽快さもある。伝統と革新が融合して実現できたとも言えるハンドリング性能の進化はひときわ印象深かった。
もちろんビークルダイナミクスマネージャーの効果も大きいはずだが、その働きをあからさまに感じさせないのは、基本となるシャシ性能の高さの表れ。よくできたシャシが生み出す過渡領域の洗練された動きと制御効果のマッチングがこの上なく良いのだ。
エンジンとDCTは文句なし。だが少し気になる点もある
エンジンに関しては、サクッと回り切れ味が良い。街乗りでも回転の上昇に淀みがなくて期待値と加速感がリンクする。シフトアップ時のつながりもスタータージェネレターが介入するベースモデルと比較するとわずかに機械的な間があるものの、7速化されたDCTの効果もあってか、パワーの落ち込みはなく以前よりもスムーズで力感が途切れることがない。加速態勢に移るとそのスムーズさがさらに増し、レッドゾーンの入り口である6600rpmの目盛りにタコメーターの針が吸い寄せられるように跳ね上がる。
一方、シフトアップ時はタコメーターの針がメリハリよくストンと落ちると同時に、連続して押し寄せる加速Gにより身体はシートに押しつけられる。このGの盛り上がりと安定した加速感は、このエンジンが高回転域でも十分なパワーを出し続けると同時にレスポンスも両立している証左だ。
もちろん細かなアクセルペダル操作に対するレスポンスも良く、旋回中の速度維持や加減速では右足の動きに敏感に反応する。スポーツモードにすれば6000rpm以上でもうひと伸びのパワーと切れ味が楽しめて、ポテンシャルの高さに圧倒される。パワーフィールもシャシ性能同様に実に明快で、洗練度が高いのだ。
一方、クルマ全体の洗練度の高さと作り込みの良さに対して、操作感の軽さが目についた。ブレーキのタッチやステアリングフィールなど、どこかゲーム機を操作しているような頼りなさがあるのだ。アダプティブシャシーコントロール「DCC」をスポーツモードにすれば反力は強くなるもののゲインも大きくなって、シャシが持つGのコントロール性能の高さが生きてこない。クルマ全体の動きは自然で良いのだが、操作感の面でやや「乗せられている感」がある。シャシの良さを考えると少しもったいないと思った。
新型ゴルフGTIのテストドライブを経て、終始車両の姿勢が安定していたことから「フラット感」という言葉が頭に浮かんだ。攻めたときには安定したシャシが、パワーがほしいときにはカバー範囲が広いエンジンが走りをアシストしてくれる。また、ドライバーの意思に対応すべく常にスタンバイしてくれる包容力もある。
新型GTIは性能を深く進化させると同時に、スポーツモデルを楽しむハードルを下げてくれる逸品である。走るほどにその印象が強くなっていった。(文:瀬在仁志/写真:井上雅行、永元秀和)
歴代ゴルフGTI
フォルクスワーゲン ゴルフGTI 主要諸元
●全長×全幅×全高:4295×1790×1465mm
●ホイールベース:2620mm
●車両重量:1430kg
●エンジン:直4 DOHCターボ
●総排気量:1984cc
●最高出力:180kW(245ps)/5000-6500rpm
●最大トルク:370Nm/1600-4300rpm
●トランスミッション:7速DCT(DSG)
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム ・51L
●WLTCモード燃費:12.8km/L
●タイヤサイズ:225/40R18
●車両価格(税込):466万円
[ アルバム : フォルクスワーゲン ゴルフGTI はオリジナルサイトでご覧ください ]
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みんなのコメント
4代目以降は性能の劣化の一途を辿りやっと新型で3代目に追いついたわけかw