普通の人には乗りこなせないハイパフォーマンスこそがスーパーカーという時代は終わった。ロールスロイス初めてのSUVとして、走破性と快適性を極限まで突き詰めたこのモデルこそ、現在のスーパーカーだろう。最新スーパーカーファイルは、注目のカリナンを海外試乗会の現地から紹介しよう(Motor Magazine 2018年12月号より)
ロールスロイスの快適性を保ったままオフロードをまともに走れるのか
ロールスロイス初のSUVであるカリナンの計画が明らかになったとき、私はふたつの懸念を抱いた。そのひとつは「ロールスロイスの車重でオフロードをまともに走れるのか?」というもの。そして、もうひとつは「仮にオフロードを走れたとして、オンロードの快適性でロールスロイスの基準を満たせるのか?」というものだった。
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よく知られているとおり、優れたオフロード性能を得るには車重は軽い方が有利。身近な例でいえばスズキ ジムニーの圧倒的な走破性はその軽さによるところが大きいし、ずいぶん昔にランドローバーのフルラインナップをオフロードで試した際にも、軽いディフェンダーが重いレンジローバーをしのぐ悪路走破性を発揮して驚いた経験がある。ちなみにカリナンの車重は2.7トン超。しかもロールスロイスが4WDを手がけるのはこれが初めてとなれば、私が不安を抱いたのも当然だろう。
一切の快適性を犠牲にすることなく高いオフロード性能を実現
そんな私の心配を知ってか知らずか、カリナンのテストはベースとなったワイオミング州ジャクソンホール近くのスキー場で始まった。10月上旬なのでまだ雪はなかったが、こぶし大の石がゴロゴロと散らばった道はいかにも滑りやすそうだし、実際に走行するのはゲレンデのサービスロードとはいえ、上り勾配もかなりきつい。
しかしカリナンはその3~4kmほどの道のりを苦もなく登り切ってしまった。しかも、私が取った操作といえば、走り始める前にセンターコンソール上のオフロードスイッチを押した程度。あとはハンドル、アクセル、ブレーキを普通に操るだけで、サマータイヤを履いたままのカリナンは一度も危うい場面に遭遇することなく標高2380mの頂上に辿り着いた。
だからといってカリナンのオフロード性能が「驚異的だった」と書き立てるつもりはない。それでも、たわむれにちょっと不整路を走ってみるとか、スタッドレスタイヤを履いてスキー場を目指すといった使い方には十分以上に対応できるだろう。カリナンの使われ方を考えれば、これで十分なオフロード性能といえる。
一方、オンロードでのカリナンはフラッグシップのファントムによく似た乗り味を示した。「マジックカーペットライド」と称される乗り心地は、基本的にはふんわりとした優しい手触りを感じさせると同時に、小さな入力に対しては素早く振動を収束させるダンピングの良さも持ち合わせている。SUVだからといって、一切の快適性が犠牲にされていないことは明らかだった。
SUVには珍しい3ボックススタイル、その快適性はロールスロイス基準
エンジンは、ファントム譲りの6.75L V12ツインターボ。普段は寡黙かつスムーズで一切存在感をあらわにしないのに、アクセルペダルを踏み込めばいつでも望むだけのトルクを生み出すその隙のなさは、もはや内燃機関とは思えず、まるで電気自動車を操っているような気分になる。
内外装のクオリティも、ロールスロイスの基準を完全に満たしている。デザイン的に興味深いのは、SUVには珍しい3ボックススタイルとされたことと、プライバシーより開放感を優先して後席のグラスエリアを大きくとった点だ。
また後席に、ベンチシートと左右で独立したインディビデュアルシートの2タイプが用意される点もユニークだ。とりわけインディビデュアルシートではラゲッジルームとの間にパーティションが設けられ、テールゲートを開けてもキャビンに寒風が吹き込んでこない工夫が施されている。これも、いかにもロールスロイスらしいおもてなしといえるだろう。
幽霊の名前をモデル名にするのが習わしのロールスロイスだが、カリナンという名前は20世紀初頭に発見された史上最大のダイヤモンドに由来する。その後、原石は加工され英国王室を象徴する王冠や笏(しゃく)に用いられたが、新たに登場したカリナンも、まさにイギリスの至宝と呼ぶに相応しい存在だ。(文:大谷達也)
ロールスロイス カリナン 主要諸元
●全長×全幅×全高=5341×2000×1835mm
●ホイールベース=3295mm
●車両重量=2735kg
●エンジン=V12DOHCツインターボ
●排気量=6749cc
●最高出力=571ps/5000rpm
●最大トルク=850Nm/1600rpm
●トランスミッション=8速AT
●駆動方式=4WD
●最高速=250km/h(リミッター)
●0→100km/h加速=5.2秒
●車両価格=3800万円
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