「シーマ」と「フーガ」の生産終了が報じられた今、はたして、日産の高級車はどうなってしまうのか?
スカイラインは諦めない!?
俳優・時任勇気が選ぶクルマ「スマートフォンのように使いこなしたい」──連載:CAR OBSESSED
今夏、日産が最高級セダンの「シーマ」と高級セダンの「フーガ」、そして「スカイライン・ハイブリッド」の生産を終える。と日経新聞がさる3月31日に報じ、テレビのニュース番組等でも取り上げられた。
マスコミが話題にしたのは、1988年に発売された初代シーマが巻き起こした「シーマ現象」で、日産の高級セダンの生産終了についてはほとんど関心がなかった。バブルってサイコ~。というノスタルジーにふけっただけで。
これら高級セダンの生産終了は、新たに適用される騒音規制に適合しないためで、経営資源を電気自動車(EV)やハイブリッド(HEV)に集中させる。と日経の同記事は伝えている。
現行シーマは2012年、フーガはもっと前の2009年の発売だから、この2モデルのエンジンをテコ入れするとなると莫大な開発費がかかる。だったら、いっそやめちゃおう。と日産の経営陣は判断したわけだ。この2車が消えるとなると、日産の高級セダンは日本市場からスカイラインを除いて消滅する。
日産の社長が乗る最高級車がなくなるわけだけれど、「リーフ」がある。「セレナ」もある。「アリア」もアリや。幸いスカイラインは、ハイブリッド以外は継続する。
というのも、現行型は2019年にビッグマイナーチェンジを受けているから商品力は健在だし、インフィニティ「Q50/Q60」として海外で販売していることもある。熱烈なスカイライン信者の存在もあるかもしれない。日産としても、もうちょっと、この伝統と実績のあるスポーティ・セダンをつくり続けたいところだろう。
実際、日産がスカイラインを含む複数のセダンの開発中止を主要な取引先に通達した、と日経が2021年6月に報じた後、「日産自動車は決してスカイラインを諦めません」と日産の副社長が公式の場で語って、この記事を否定している。
トヨタですら1980年代には爆発的な人気を博した「マークII」3兄弟も、その後継の「マークX」も諦めた。「いつかはクラウン」のSUV化云々すら聞こえてくる。メルセデス・ベンツ、BMWが量産ブランドの高級車とさほど変わらぬ価格で販売されているのだから、淘汰されていくのも致し方ない。
さりとて、いくら日産が過去をスッパリ切り捨てる断捨離体質だとはいえ、自動車メーカーがラインアップからセダンを完全に落としてしまう。というようなことも考えにくい。果たして日産自動車は本当に、決してスカイラインを諦めないのだろうか?
日産の未来
たとえば、本年1月27日に発表された、ルノー・日産・三菱自動車の「Alliance 2030」にはこんなアジェンダが並んでいる。
・2030 年に向けて、アライアンスは電気自動車(EV)とコネクテッド・モビリティに注力
・2026 年までにプラットフォームの共用化率を 80%まで向上させることを目指す
・2030 年までに 5 つの EV 専用共通プラットフォームをベースにした 35 車種の新型 EV を投入
・日産は、CMF-BEV プラットフォームをベースとした、欧州で販売するマイクラの後継となる新型 EV を発表。フランス北部のルノー・エレクトリシティでの生産を予定
・日産は、全固体電池の技術開発をリードし、アライアンスでそのメリットを享受
ざっと読むと、日産を含む3社のアライアンスは、EV化に突き進んでいく、みたいに思える。けれど、そのちょっと前の2021年11月29日に日産が発表した「Nissan Ambition 2030」の内田誠CEOのスピーチ原稿と合わせて読むと、そうともいえないところもある。そこにはこう書いてある。
「今後5年間で、さらに約2兆円を投資し、電動化を加速していきます。そして、お客さまに多様な選択肢と体験を提供するため、15 車種の EV を含む 23の電動車両を投入します。その結果、グローバルの電動車のモデルミックスは、ニッサン、インフィニティの両ブランドをあわせて、2030 年までに 50%以上となる見込みです」
なあんだ。2030年にいたっても、日産は100%EVメーカーになるわけではない。残りの50%弱が電動車ではないとしたら、ピュア内燃機関車ということになるではないか。
このことは、先述した「Alliance 2030」の、2026 年までにプラットフォームの共用化率を 80%まで向上させる、というアジェンダと合わせると興味深い。これは、プラットフォームの20%は共有化しない、という意味でもあるからだ。
おそらく、日産でいえば「フェアレディZ」や「GT-R」といったスポーツカー、後輪駆動ベースの中・大型SUV、トラック、そして高級セダンなど、ルノー、三菱のラインアップにはない商品群がこの20%枠になると思われる。
カギを握るインフィニティ
あくまで筆者の推測ながら、というか、だれが考えてもそうでしょうけれど、シーマ、フーガのような高級セダン復活、スカイラインの存続のカギを握るのがインフィニティ・ブランドである。
インフィニティを高級ブランドとしてさらに成長させる。となると、レクサス同様、プレミアムなセダンの大・中・小があってしかるべき、という話になるからだ。そうした希望がインフィニティのディーラーにあるからこそ、日産自動車は海外名インフィニティG50/G60、日本名スカイラインを決して諦めない、のではあるまいか。
というわけで、筆者の見立てによれば、2030年まで、スカイラインはピュア内燃機関のままであり続ける可能性がある。
さすがにピュア内燃機関の大型セダン、つまりシーマ、「プレジデント」の復活はないとしても、HEV、あるいはEVならあり得る。と筆者は妄想する。日産は2026年までに15車種のEVを含む23の電動車両を投入する。ということは、8車種はe-POWERのミニバンやコンパクトSUVで、もしかしたら、このなかにPHEV(プラグイン・ハイブリッド)の次期GT-Rや次期スカイラインも含まれている、可能性がないとはいえない。
EVの高級セダンは本命とも考えられる。「Nissan Ambition 2030」の発表時には、クロスオーバーSUVのような4ドアのモックアップと、ピックアップ、2シーターのオープン・スポーツカー、そしてSUVのEVのヴァーチャル・コンセプトが3モデル、合わせて4モデルが一挙に披露されている。これらコンセプト・カーに次期「マーチ」のEV、軽自動車のEVを加えても、まだ9車種もベールに包まれているのだ。そこにセダンがあったとしても驚くにはあたらない。アリアのプラットフォームを使って、高級セダンを仕立てるなんてことは、筆者にいわせれば、まことにたやすい。ま、「いうだけ」ですからね、筆者の場合。
しかして日産は全個体電池の開発も進めている。現在のリチウム・イオン電池の2倍のエネルギー密度の全個体電池が実現すれば、バッテリーの小型化、薄型化が可能になり、ピックアップ・トラックなど大型車両のEV化も夢ではなくなる。そうなれば、V8エンジン車に匹敵するような高性能セダンもお茶の子さいさい、となるにちがいない。
EVがグッと近しく感じられる方法を考える
そこで私は思うのですけれど、これら日産の未来のセダンに、新しい名前ではなくて、プレジデントとか「セドリック」「グロリア」、あるいは「ローレル」「セフィーロ」、もうちょっとコンパクトなモデルには「ブルーバード」、ベーシック・モデルには「サニー」、あるいは「チェリー」、ちょっと若いひと向きに「オースター」とか「スタンザ」とか、「レパード」「シルビア」といった昔の名前を与えてみてはどうでしょう、と。少なくとも中高年にはガツンと響くはずで、EVがグッと近しく感じられるのではあるまいか。
考えてみたら、フィアット「500e」とか、BMW「i7」とか、メルセデス・ベンツ「EQS」とか、ヨーロッパのメーカーはみんなやっている。
よくいわれるように、未来は過去とつながっている。過去を大切にしない者に未来はない。ときどき昔のことを思い出す。それがクルマに限らず、名門といわれるブランドのやっていることだ。
私たちユーザーとしては、生産中止になった過去のクルマをときどき思い出して語ってあげる。それが、過去になってしまったクルマの供養にもなる。そんなこともちょっと思う今日この頃です。合掌。
文・今尾直樹
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