トヨタ車のハンドリングのベンチマークになったモデルも!
「人馬一体」とか「意のままに……」とか、クルマの運動性をアピールする美辞麗句は数多くあれども、実際にそれを体感させてくれるクルマはあまりない。今回は「高性能自動車評価ドライバー」として過ごしたこの40年間で、まさに「意のままに操れる」と感じさせてくれた名車を紹介しよう。
レーシングドライバーでも操れない! 運転が難しすぎる市販車3選
1)BMW M5
いの一番にあげられるのはBMW M5だ。それも1991年ごろに生産されていたE34型に限る。BMWの中核をなすセダン5シリーズをベースにM社が作り上げた。3.6~3.8リッターの自然吸気直6エンジンを搭載し、当時としては驚異的な300馬力以上を発揮させられていた。ゲトラグ社製の5速マニュアルトランスミッション(MT)が組み合わされ、モデル末期には340馬力までパワーアップされ6速MTとの組み合わせに進化させられていた。
そのハンドリングはまさに「意のまま」だった。アクセルコントロールで車体姿勢を自由自在に操れ、ドリフトコントロールもおこないやすい。優れた前後重量バランスとシャシー剛性の高さで「人馬一体感」にあふれ、高速での高負荷時でも安定した性能を発揮していた。BMW M社には凄いテストドライバーがいるのだな、とつくづく思い知ったクルマだ。
このM5を仕上げたテストドライバーは、この後BMW社を離れてしまい、後に続くE39型M5はハンドリングポリシーが一変してしまっていたことにも驚かされたものだ。余談だがE34型M5の素晴らしさをトヨタ自動車のテストドライバーであった故・成瀬氏に伝えると、さっそく個人でM5(アルピナ)を購入され、永く愛用しつつトヨタ車のハンドリングのベンチマークとしていたと伺った。
2)BMW Mクーペ
同じBMW社の2ドアクーペモデルであったZ4をベースに、同じくM社がプロデュースしたMクーペも「意のままに操れる」ハンドリングを備えたモデルとして記憶している。
登場年は2006年ごろ。1998年登場の第3世代となるE39型M5のハンドリングが不出来だったため、BMW 車の優れた操縦性はもう過去のものとなってしまったのかと諦めかけていた時期であっただけにMクーペの操縦性を確かめて安堵したものだ。高い限界性能と自由自在に行える姿勢制御は、あのE34型M5の血統を引継がれたものと確信できる走りで、例のテストドライバーの後継者が着任したのだと感じた。
のちに知ったのだが、BMW社のテストドライバーは非常に多く、開発設計エンジニアもテストドライバーを兼任するケースもあるという。グループ毎にリーダーがいてE34型M5を仕上げたグループの仕上げたモデルは総じて「意のままに操れる」走りを授けられていたのだ。
現在は世代も代わり、そのセッティングポリシーはずいぶんと薄れてしまったように感じていて残念でならない。
3)ジャガーXJ
E34型M5のハンドリングを仕上げたメンバーが他社に移って仕上げたのではないかと思わされたのが2003年にフルモデルチェンジを受けて登場した「X350型」のジャガーXJだ。オールアルミの軽量ボディを初採用し、そのハンドリングは黄金期のBMW社製セダンを彷彿とさせる出来だった。フルサイズの大柄なセダンにもかかわらず、人馬一体感にあふれ、意のままに操れた。
オートマティックトランスミッション(AT)の高級セダンながら最高のハンドリングを示していたのを知る人は少ないだろう。当時のジャガーはフォード社の傘下にあり、BMW社でE46型3シリーズを仕上げた優れたテストドライバーがフォード社に移ったと聞いていたので、彼らの影響を受けているだろうことは容易に想像できたのだ。
扱いやすさが際立った安定性の高いモデルも存在!
4)ポルシェ968
同じ独車でもポルシェにはまた違ったアプローチで「人馬一体」感に優れるモデルがあった。それは911ではなく968だ。フロントエンジン、リヤトランスアクスルというFRとしては理想的なレイアウトが採用された2ドア4シーターのスポーツクーペだ。パワーユニットには自然吸気3リッター直4を搭載。6速MTもラインアップされていた。
そのハンドリングはライントレース性に優れていて、エンジンパワーよりシャシー性能が大幅に勝る安定性にあふれていた。前後重量バランスの良さはブレーキングスタビリティに優れ、テールのリバース特性は穏やかでコントロールしやすい。
ABS(アンチロックブレーキシステム)の作動が絶妙で、全天候型の扱いやすさが際立っていた。リヤヘビーの911がスナップオーバーステアが強いことで嫌うアンチポルシェ層を黙らせる完成度だった。
5)ケーターハム
まったくジャンルは異なるが、英国の伝統的なライトウエイトスポーツカーである「ケーターハム」も自由自在に操れる超ご機嫌なスポーツカーだった。試走したのは「群サイ」と並び難コースと称される「修善寺サイクルスポーツセンター」のロードコース。自転車用のコースなだけに路幅が狭くRの小さいコーナーがいくつも連続している区間がある。
そこでケーターハムは「人馬一体」感にあふれ「意のまま」に操れる好特性を発揮した。どちらかというとアンダーパワーな自然吸気直4エンジンをフロントに搭載。MTを介して後輪を駆動する。LSD(リミテッドスリップデフ)も装備していないのに、アクセルターンも高速ドリフトも自由自在にこなせるのだ。これこそ軽さが威力を発揮した証で、ライトウェイトスポーツの真髄に触れることができた瞬間だった。
6)三菱ランサーエボリューション
国産モデルではどうかというと、「人馬一体」をもっともアピールしているマツダ車には該当車がなく、やはりランエボ(またか?)が素晴らしい。なかでもエボワゴンがじつはもっとも秀逸なハンドリングだったのだ。4WDのランエボはI~IIIまではプッシュアンダーステアに苦労させられていた。それをACD(アクティブセンターデフ)やAYC(アクティブヨーコントロール)などの電子制御で曲げる努力をしてきていたのだが、エボワゴンをシェイクダウンしてみると想像以上に良く曲がる4WDとなっていて驚かされたのだ。
ワゴンボディとなって一番変わったのは前後の重量配分で、フロントヘビーなランエボの特性が改善されたのだ。AYCも装備していないのに「意のまま」に姿勢コントロールでき、4輪ドリフトもお手の物だった。あまりに素晴らしいのでエボワゴンのレース仕様を仕立て、S耐レースに参戦させたほど。またエボXの開発に当たりエボワゴンの重量配分に近づける事がマストとなり、重たいバッテリーがリヤトランク内に移設されたりしたが、それでもエボワゴンの完璧な重量配分には及ばなかったのだ。
生産車ではないが、同じくランエボのラリー仕様であるエボWRCは異次元のハンドリングだった。トミー・マキネンのドライブで4年連続世界チャンピオンに輝いたランエボラリー仕様の最終進化モデルではフロント、センター、リヤと3つのデフを電制としてドライバーの意思を見事に反映できた。このシステムがあればミドシップレイアウトも不要と言えるほどに完璧で、ドライバーはどんなコーナーでも意図する車両姿勢で自在に操れる。「意のままに操れる」とはこういうことを意味するのだと具現化していたのだった。
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