■チューニング=走行性能向上…だけじゃない!
自動車用アフターパーツメーカーのHKS(エッチ・ケー・エス)が販売しているサスペンション「HIPERMAX S」と「HIPERMAX R」の体感試乗会が2024年6月15日、観光有料道路「アネスト岩田 ターンパイク箱根」にて開催されました。
「タイヤの価格」なぜ“ピンキリ”? タイヤの「安い・高い」で何が違う? 安いタイヤが適したクルマとは?
この試乗会は、事前に予約した一般ユーザーが同サスペンションを装着したHKSのデモカーに乗って、そのフィーリングを味わえるという趣旨の会です。
今回の試乗会はいわばチューニング車両に乗るということですが、ノーマルの枠を超えた領域でユーザーの嗜好(しこう)・用途に合わせてカスタマイズを行うことが「チューニング」の基本です。と言っても、それには明確な基準はなく、基本的には「自由」です。極論を言えば、自分の好きなパーツをいろいろ付けて満足できればOKなのです。
ただ、正しい知識なしにやみくもにチューニングを行うと、オーナーの満足度とは裏腹にクルマとしての完成度はノーマルよりも劣ってしまうケースもあります。そのため、自分が「何をしたいのか?」「何を求めるのか?」と言った目的に合わせてカスタマイズを行うことが重要となっていきます。
そんなカスタマイズの入り口と言えば、メーカー直系ワークスブランドのアイテムでしょう。
多くのブランドが「ノーマルの潜在能力を引き出す」「クルマ好きのノーマルを目指す」をコンセプトに開発されているため、大きくハズすことはないでしょう。ただ、逆を言えば「伸びしろは少なめ」「個性は控えめ」であることも事実です。
さらなる性能アップを求めるならば、独立系チューニングブランド(サードパーティー)のアイテムのほうがおススメでしょう。ただ、一口にサードパーティーと言っても多種多様です。
■そもそもHKSってどんな会社? どんな歴史がある?
その中でも内容・規模・開発体制を含めて日本トップレベルと言っていいブランドが静岡県富士宮市に本社を構える自動車用アフターパーツメーカーの「HKS」になります。
HKSは1973年の創業以降、わずか2年でターボキットを市販化(当時日本車のターボ車は存在していない)。それ以降、制御系、燃料系、冷却系、吸排気と製品ラインナップを拡大していき、その実力の高さは自動車メーカーも一目置くほどで、レーシングエンジンの受託開発もしています。
1992年には完全オリジナルでV型12気筒3.5リッターF1エンジンの「300E」も開発。ちなみに現在はチューニングの枠を超え、環境対応(天然ガス、ハイブリッド)なども手がけるなど、業務内容は多岐にわたっています。
当然、パワーを上げたクルマにはそれを支えるアイテムも必要ということで、1994年にサスペンション事業をスタート。いきなりレース由来の4Way DAMPER(伸び/縮みそれぞれ2Wayの超ハイスペック)を開発して基礎を作り、1998年に現在のHIPERMAXのご先祖さまと言える車高調整式サスペンションキット「HIPER DAMPER」を発売しました。
多くのチューニングメーカーが構成部品を外注する中、HKSはスプリング/ダンパー共に自社生産にこだわり、今ではHKSを代表とするアイテムのひとつへと成長しています。その最新作となるのが、今回紹介する「HIPERMAX S」と「HIPERMAX R」です。
そのスペックは、当然ながら各車両に合わせた最適な減衰特性/バネレートが採用されていますが、シリーズとしては「単筒式(安定した減衰力特性)、「倒立式(シッカリとした剛性感)」、「全長調整式(ストローク量確保)」、「Dual PVS(素早い減衰の立ち上がり)」、「WRニードル(ワイドレンジ減衰力調整:30段)」、「アドバンスドバンプラバー(急激な動きの変化を抑える」などの技術が採用されています。
ただ、読者の関心は「乗ってどうなのよ?」という部分かと思います。それは筆者(山本シンヤ)も同じです。実はこれまでの経験の中で、サードパーティーのサスペンションキットにはあまりいい思い出がありません(汗)。
なかには「これはすごい!!」という逸品もありましたが、それよりも「えっ、これはちょっと」という商品が多かったのを記憶しています。
それらの多くはサーキットのような特定のシーンでは優れているのですが、一般道では我慢の連続というモノばかりでした。
サーキット仕様ならば割り切ることができますが、カタログには「ストリートでは快適性も損なわず」などと記載しており「言っていることと全然違うよ」と厳しい評価をせざるを得ませんでした。
さらに、ステアリングを切り始めた時の応答性や、コーナリングの一連の流れなど、数値に表れにくい「乗り味」の部分は、むしろノーマルの良さを完全に消してしまっているモノも中にはあります。
そんなことから、今回編集部からの試乗依頼を断ろうとも考えましたが、話を聞くと一般ユーザー向けに体感試乗を行っていると聞き、興味が湧きました。
要するに「買う前に試す→ダメだったら買わない→失敗をしない」というわけです。逆を言えば試乗会を行うということは「HKSの自信の表れ」とも言えるでしょう。
■驚きの連続…これは「ノーマルよりノーマル」だ!
そこで筆者も体感試乗に参加しました。試乗ステージは自動車メーカーの新車取材でも走り慣れた「アネスト岩田 ターンパイク箱根」です。
まずはストリートからワインディングを想定したセットアップが特徴の「HIPERMAX S」をテスラ「モデルY」で試します(タイヤは純正サイズのヨコハマ アドバンスポーツEVを装着)。
車高はノーマル比で30mmダウンされており、モデルYの腰高感はうまく消されていますが、その一方で「この車高で走りはどうなの?」という疑心暗鬼な部分も……。
ただ、走り始めて「えっ、マジです!?」と驚きの連続。もちろん良い意味で…です。
ノーマルはサイズや重さを感じさせない機敏なハンドリングながらも、ノーズの入りが悪く、ある意味“強引”に旋回状態に持ち込む印象でしたが、HIPERMAX Sはステアリングを切るとスーッとノーズが入っていきます。
つまり、ノーマルよりもコーナリングの一連の流れに連続性があり、結果としてより素直、より自然なフィーリングです。
HKSの担当者に話を聞くと「HIPERMAX Sのアッパーは通常は強化ゴムマウントですが、モデルYは ノーズの入りの悪さを解消するためにピロアッパーを採用。それが効いていると思います」と教えてくれました。
また、旋回時の姿勢も上手に荷重が四輪に分散されている印象でした。結果としてフロント外輪への負担が減り、ノーマルよりも少ない舵(だ)角で曲がることが可能です。恐らく、ステアリングを切り始めの応答が良い→素早く旋回姿勢に持ち込める→4つのタイヤのグリップを上手に活用→より安定、より楽に、より速く旋回ができる…というわけです。
ある自動車メーカーの評価マイスターは「旋回は切り始めが勝負」と言っていますが、HIPERMAX Sはそれをサスペンションチューンで実現しているのです。
乗り心地もいい意味で裏切られました。ノーマルは路面からの突き上げや突っ張った足の動き(ヒョコヒョコしてしなやかさに欠ける)が気になっていましたが、HIPERMAX Sは入力にカドがなく優しい印象です。足の動きも30mmローダウンしていることを忘れるくらいストローク感がある上に、スムーズかつシットリとしており、車格に見合った質感です。
実はバネレートはフロント8kg、リア9kgとストリート用としては高めの設定ですが、乗り心地はノーマルよりも確実に良いと感じるレベルです。恐らくバネレートも減衰力もノーマルよりハード側の設定ですが、タイヤをシッカリたゆませる→初期入力をタイヤで吸収→その先はサスペンション側で吸収という連携が上手にできているのでしょう。
要するに乗り心地はバネ、ダンパー、そしてタイヤのバランスが重要となります。
これらの印象から、個人的には「ノーマルよりもノーマル」と言っても過言ではない走りの仕上がりだと感じました。
■最新型のシビックタイプR(FL5)のMAX Rの走りに感動を覚える
つづいてサーキットからワインディングを想定したセットアップが特徴の「HIPERMAX R」をホンダ「シビックタイプR(FL5)」で試します(タイヤはノーマルの19インチから18インチにインチダウンされたヨコハマ アドバンA052を装着)。
シビックタイプRには純正でZF製のアダプティブサスペンションが装着されています。
その実力は「わざわざ変更する理由があるのか?」と思うくらい高いレベルなので、がぜんハードルは上がります。
HKSの担当者は「サーキットスペックではありますが、多くの人はストリートを走る機会が多いです。そのためHIPERMAX Rは『究極のマルチパフォーマー』として開発しています」と自信を見せます。
「それ、本当なの?」と思いながら走り始めますが、こちらも驚きでした。実はバネレートはフロント14kg、リア14kgと完全にサーキットスペックなのですが、乗り心地はスッキリした足の動きと人の感覚に合わせた減衰感の相乗効果で、かなり引き締められてはいるも不快な感じはありません。
イメージ的には「タイプRユーロ」FN2型を思い出す「しなやかな硬さ」といった印象かな…と。
ハンドリングはセンター付近がノーマルより穏やかに感じる所はあるも(恐らくインチダウンの影響が大きい)、そこからステアリングを切り込むと、切れ味の鋭いノーマルに対してリニアに旋回Gが高まっていく印象です。
人によっては刺激は少なめかもしれませんが、筆者はむしろコントロールの幅や精度が高まっていると評価しました。恐らくサーキットではより高い速度域でコントロールする必要が出ますが、この特性が確実に生きるはずです。
旋回時は当然、ノーマルより姿勢変化は少なめで前後左右方向ともに無駄な動きは抑えられています。となると、ハンドリングの特性はタイヤの性能依存、もしくはよりピーキーな方向かなと思いましたが、実際はその逆でむしろ乗りやすくなっていました。
ノーマルはFF(前輪駆動)ながらもアンダーステア(カーブで外側に膨らむ挙動)知らずでノーズがインに吸い込まれるように旋回しますが、HIPERMAX Rはより自然に旋回していきます。
要するに、ステアリングで曲げるのではなく、4輪全体で曲がっている感覚があるのです。
結果的にステアリング舵角はノーマルよりも少なめでコーナリングできるので、しなやかな足の動きでありながらも無駄な挙動は出にくく「意のままの走り」を「安心感高く」実現しているということになります。
ちなみにコーナリング時に旋回軸はFFながらもよりドライバーに近く感じましたが、これはリアに荷重がかかりやすくなるようなセットアップになっているからのはずです。加えて、HIPERMAX R専用開発されたLVS(LOW Vibration Spring:レスポンスと雑味のない乗り味を両立)やダンパーオイル(Super Response Fluid:微低速から減衰が立ち上がるうえに熱ダレに強い)、さらには「スプリングリテーナー(低フリクション化により追従性向上)なども寄与していると考えられます。
もちろん、万能性ではノーマルのほうが間違いなく上でしょうが、HIPERMAX Rに乗ってみて、どこか昔のタイプRを思い出したのも事実です。ただ、勘違いしてほしくないのはハードかつ武闘派になったわけではなく「ピュア」で「ダイレクト」なフィーリングがそう感じさせるのでしょう。もしかしたら、タイプRよりタイプRらしいフットワークと言えるかもしれません。
■「ノーマルより良いのでは」体感試乗会で聞けたユーザーの声
今回は筆者の印象に加えて、この体感試乗に参加した一般ユーザーにもお話を聞いてみましたので、いくつか紹介したいと思います。
「ノーマルよりも乗りやすい上に走行中のバランスの良さに驚きました。乗り心地もノーマルよりも良くなっており、アフターのサスペンションは『硬い』というイメージはなくなりましたね。値段はそれなりにしますが、購入対象になるモノだと思います(モデルY×HIPERMAX Sに試乗)」
「買う前にモノを見て試乗できるのはいいですね。自分のクルマにもHKSのサスペンション(従来モデル)を付けていますが、HIPERMAX Rの進化度合いは大きいですね。乗り味は減衰力の収まりの良さが印象的で、これならサーキットでも楽しいだろうなと。乗り心地は日常領域でも全然気にならないと思います。買い替えようか悩み中です(トヨタ GR86×HIPERMAX Rに試乗)」
「HIPERMAX Sに乗りましたが、正直ここまで乗りやすいとは思っていませんでした。ある程度速度域が高い状態で曲がっても安心だし、乗り心地は『ノーマルよりいいのでは』と思ったくらいです。普段使いでのデメリットはないですね。試乗前はHIPERMAX Rがいいかなと思っていましたが、試乗して考えが変わりましたね(スバル BRZ×HIPERMAX Sに試乗)」
「コーナーでの踏ん張りや走りやすさなど、とてもいい足回りだと感じました。乗り心地は大きな段差ではゴツゴツする部分もありますが、サーキット向けとは思えないくらい快適なので日常でもOKですね。HIPERMAX Sも気になるので、次は試乗して購入を決めたいと思います(シビックタイプR×HIPERMAX Rに試乗)」。
■「マルチパフォーマー」ぶりと「走り心地へのこだわり」
そろそろ結論に行きましょう。HIPERMAX S/HIPERMAX Rともにノーマルを超える性能が備わっていることを実感しました。それは絶対的な性能でなく「乗り味」の部分も含めてです。これは体感試乗を行った一般ユーザーも同じような印象だったことがわかります。
実は今回2つのサスペンションを体感して、共通する「味」を感じました。
それは何か? 1つは「マルチパフォーマー」であることです。HIPERMAX Sは一般道~ワインディングを想定していますが、サーキットもイケるだろうという「骨太さ」、HIPERMAX Rはサーキットからワインディングを想定していますが、一般道も許容する「優しさ」を感じました。つまり、HKSとして必要な総合性能を備えた上で「より注力したい性能を高める」という考え方で開発されているのでしょう。
もう1つは「走り心地へのこだわり」です。走り心地とは、たのしいだけでも、快適なだけでも終わらないというHKSのサスペンションに共通する価値になります。要するに性能だけ良ければOK、タイムが出ればOKではなく、数値にはなかなか出ないが、ドライバーが感じる部分での扱いやすい、安心感、懐の深さ、走りやすさといった官能性能の部分にまでこだわっているところです。
それにしてもサードパーティーのサスペンションで“乗り味”について語る日がやって来るとは、なんとも感慨深いところです。性能のためだけでなく乗り味のためにサスペンションを変える、これはアリだと思います。
ちなみに「サードパーティーのサスペンションは耐久性が…」と言う人もいますが、その点も心配なしです。HIPERMAX Rは2年間4万km以内、HIPERMAX Sはなんと3年間6万kmの保証がついています。さらにオーバーホールや仕様変更も可能なので、長く使えるのも特徴のひとつと言えるでしょう。
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みんなのコメント
オーバーホールは、オーリンズなんか替えるくらいかかる事を考えたら
バネもへたるし買い替えたほうが早い、また新製品に帰ることも出来る。
保証も長いから、HKSで十分と思う
同じ様な年式の車高調でテインがオーバーホール受け付けるけど、HKSは「部品が無いのでOH無理です。」とか結構あって性能は良いのだろうけど 車高調はHKSは私的には無しです。
あとHKSでは無理だけど、HKS関西だとできるとかもあって、HKSの看板同じく背負ってるんだから共有してもらいたい。