3年前の1月10日、69年間の生涯を閉じたデヴィッド・ボウイ。その彼が、クルマのカタチをとって再び地上に現れるとは、どういうことだろう?
いかにも荒唐無稽に聞こえるかもしれないが、「db(デヴィッド・ボウイ)の肖像」と名づけられたこのクルマを現実に目の前にすると、確かにこれはデヴィッド・ボウイ(以下DB)という存在を、クルマという形で表した彫刻作品だということに合点がいく。
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本邦初公開の場として選ばれたのはフランスはパリ、「フェスティヴァル・オートモビル・アンテルナショナル(FAI)」の会場だった。1月末から2月初旬にかけての時期、パリ市内では新旧を問わずエクスクルーシヴなクルマのイベントが、同時多発的に「パリ・オートモビル・ウィーク」という枠組みで開催されている。そのうちのひとつで、直近のモーターショーで話題を呼んだコンセプトカーが集まるのがFAIなのだ。
「アイディア自体は、カーデザイナーになる以前の1997年頃から自分の頭の中にはあったんです。デヴィッド・ボウイと絡むにはどうしたらいいか? 彼とコラボしてクルマを作れないか?って」
と、山本卓身氏は述懐する。2008年にシトロエンのデザイナーとして「GT by シトロエン」を発表し、その後はプレイステーションのキラー・コンテンツである『GranTourismo』シリーズに欧州部門ディレクターとして貢献した、あの日本人デザイナーだ。
なぜ山本氏がこのアイデアを思い立ったかといえば、彼にとってDBは憧れのロックスターやミュージシャンである以上に、クリエイターとしてのメンター的存在だった。フランスでデザイナーとして活動し続けているものの、コヴェントリーの大学院で自動車デザインを修めている通り、英国を経由したのはデヴィッド・ボウイに私淑する気持ちが強かったようだ。
DBの肖像とはいえ、彼の身体的特徴を造形にすることは、最初から考えなかった。まず山本氏は自らのDB観を、いつくかのキーワードに絞り込み、それをクルマとしての造形に盛り込んでいった。
「キーワードは、ピュア/大胆さ/カメレオン(のような多彩さ)/危うさ/クリスタル(のような多面的な美しさ)です。ヘッドライトだけは瞳の虹彩のように意識的に左右非対称にしていますが、全体のシルエットごとアシンメトリーであることは、結果的にそうなったという感じですね」
DBのアーティストとしての、そして人間としての芯の強さと、いっぽうで、作品の発表ごとに次々と新しい仮面をまとうようなゆたかな多面性とを象徴的に造形に落とし込むこと。そのために、60年代の葉巻型フォーミュラのような、クルマとして無駄のないフォルムを、幾重ものレイヤーで包むようなデザインを山本氏は採用した。
ぶっ飛んだ造形と3Dプリンタ
「GT by シトロエンの時も、同じくレイヤード的な手法でしたから、それはぼくのデザイナーとしての作風というか、個人的なタッチなんでしょうね。あの時は、スーパーカーのフォルムの中に削ってもいい部分、なくてもカタチとして機能することを追求しましたが、今回はレイヤード的手法といっても衣装で包むような感覚、まったく別のアプローチです。ただし、包んで重ねていくだけの左右非対称を追及すると、芯の定まらない弱々しいプロポーションになる。体幹の強さを意識しながら、レイヤーを重ねています」
つねに、時代のカッティング・エッジとしてのヴィジュアルをまとっていたDBよろしく、ボディの右側面は、クルマとして見たことがないような大胆なフライング・パネルをまとったぶっ飛んだ造形となっている。逆にボディの左側面には、クリエイターあるいは人間としてのDBのピュアさを象徴するように、荒々しくもどこか脆さを感じさせる、剥き出しのクリスタルがあしらわれている。
「自然に非対称デザインとならざるを得ないのは、こういうことです。逆側のボディサイドとはまったく異なるDBの一面が表れているという。この部分はパラメトリック・デザインを採用し、アルゴリズムを用いて彼のクリエーションを象徴する結晶を配置しています」
3次元と2次元、現実とヴァーチャルの境目を飛び越えてしまう山本氏のデザイン解説は痛快そのものなのだが、なぜ、この個人の想いのたけを込めたコンセプトカーを、3Dプリンターという新しいテクノロジーで実現しようとしたのか?
「これだけ複雑なカタチをしたコンセプトカーですから、CNC切削などでパーツをひとつひとつ成形して……という従来通りのやり方で作っていたら、恐ろしいほどの手間がかかります。ぼく個人のプロジェクトに協賛を求めるだけでなく、そこに技術的なブレイクスルーが必要であったことは確かです」
山本氏のアイディアとスケッチを3次元の世界でカタチにするために、協力の手を差しのべたのはフランスのプロトタイプ制作会社として50年以上の歴史をもつ「Marie Frères(マリー・フレール社)」の子会社で3Dプリンターによる制作を受けもつ「マリー3D」、そしてイスラエルの3Dプリンター・メーカーである「MASSIVit 3D(マシヴィット3D社)」だった。山本氏は3Dプリンターでの製作について、こう述べた。
「3Dプリンターという新しいテクノロジーを十分に使いこなすことは当然、必要でしたが、徐々にカタチを成して生まれてくるニュアンスは、まさしくA Portrait of dbに相応しかったですね。妙な話ですが、これまでのCNC旋盤のように(素材の)塊から削り出してこちらが創り出してやるという他動詞じゃなくて、肖像というか彫刻ですから、生まれてきてほしいという自動詞の方がしっくり来るんですよ(笑)。このクルマをカタチにするための予算規模をいったら、大きな自動車メーカーがショウカーのためのホイール1セットを開発するぐらいのレベルじゃないでしょうか。それだけ、3Dプリンターのおかげで、これまでなら難しいと考えられていた複雑なことが、速く正確にできるようになったということです」
自身の想いとリスペクト、情熱を込めたアイディアを実現させるまで足かけ3年かかったプロジェクトをふり返って、山本氏はこうもいう。
「ぼくにとってプロジェクトは、意気込んで実現させるとか、人を巻き込むというより、ひとつひとつ織っていくものなんです」。妥協のない足掛け3年のプロセスの全貌は、彼の公式サイト(takumiyamamoto.com/)でも公開されている。経糸も横糸も、何も隠すものはないのだそうだ。
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