2018年5月、マツダは「アテンザ」の大幅改良をし、よりフラッグシップに相応しいモデルへと生まれ変わった。幅広い領域にまで踏み込んだ改良は、愚直なまでの品質追求なのかもしれない<レポート:高橋明/Akira Takahashi>
ここ数年、マツダはマイナーチェンジという定期的な商品改良を止め、商品改良ができるタイミングであれば、順次行なうという姿勢でリリースして商品価値を高めていく戦略を取っている。このアテンザも2012年のデビューなので、19年にはフルモデルチェンジが行なわれてもおかしくないタイミングだが、今回の大幅改良は、通常の商品改良では手を入れない領域にまで踏み込んだ改良を行なっており、新しいアテンザを投入してきた。
アウトランダーPHEV試乗記 よりEVフィールを増やして19年モデル登場
そして商品改良のアピールポイントも、単に高性能部品に交換したといったレベルではなく、ユーザーとマツダとのつながりを強めるための商品改良である、という抽象的ではあるが、改良の姿勢は伝わってくる形で臨んでいる。
具体的には、開発主査の脇家満氏の言葉で言うと、「技術とユーザーに対し、誠実でありたい」ということだ。もちろんコーポレートビジョンでもあるのだろうが、つまり、新しい技術やノウハウを得たらすぐに商品にフィードバックし、今持てる最高の商品をユーザーに即座に届けるということであり、『理想を追いかけその実現に向けてモノづくりを愚直に進め、そしてユーザーの生活を豊かにする。これがユーザーとの約束である。これを地道に続けることでマツダというブランド価値が徐々に高まっていくと考えている』というのだ。
したがって「匠」とか「クラフトマンシップ」という言葉も、部品単体の作り込みを表現しているのではなく、機能やユニット間で統一感があり、「同じ方向の上質感」で統一して仕上げるということをクラフトマンシップとしているのだ。それはデザイン、ダイナミック性能、パッケージングや安全性などにも求められているもので、すべてにおいて、クラフトマンシップでつくられることで走る歓びを支えていく下支えであるとしているのだ。
■アテンザの位置づけ
そこでアテンザのクラフトマンシップ、上質の方向性とは何かを見れば、「Mature elegance」だという。成熟した大人の落ち着きを持つ、マツダのフラッグシップに相応しい品格を持つモデルということだ。今回の商品改良は、そこへたどり着くための大幅改良という内容になる。
※参考:マツダ「アテンザ」を大幅改良、走り質感、内外装の仕上げを大幅にレベルアップ
その詳細はすでにお伝えしているが、少し振り返ると、とりわけインテリアの変更点に注目したい。シートやパネル、そしてドア閉め音、静粛性などがマチュア(成熟している)になっていると感じるわけだ。特にマツダの次世代コンセプトであるヴィジョンクーペにつながるデザインとしていることにも注目だ。
東レと共同開発した新素材「ウルトラスエードヌー」や本物の木を使ったパネル、ナッパレザーの採用など艶と滑らかな風合い、大人を感じさせる落ち着きといった、開発の狙いMature eleganceを表現している。そして静粛性も高く、走行中の会話が楽しめ、乗り心地がよい室内空間は、まさに上質を知る大人が納得する出来栄えと言える。
また、インテリアカラーでもオリエンタルブラウンという新色を追加し、落ち着きのある色合いのインテリアにし、新しいアテンザの特徴を現していると思う。
■走行フィールこそ数値化が難しい
こうしたMature eleganceなインテリアは走行シーンにおいては、どんな開発目標を持ったのか。それはEffortless Drivingだと説明する。努力をしない、とか楽な、といった意味になるが、意のままに不安を感じることなく走る。走る歓びや人馬一体へとつながるということだ。こうした操安性能を持つことが、Mature eleganceでもあるわけだ。
実際に走行しても乗り心地の良さと、滑らかに走ることへの満足度は高い。もともと操舵フィールに対してこだわりの強いマツダは、直進の座りの良さからの微小舵域での滑らかさにはさらに磨きがかかり、何の抵抗感もなくスッとステアできる。切り足ししていくときのクルマの動きもリニアで、そして切り戻しでもセルフアライニング・トルクが適度にあり自然とハンドルが戻ってくる。
マツダが行なっている一連の商品改良で共通する、新設計シートと専用タイヤの装着も行なわれており、乗り心地に大きく貢献していると感じる。さらにマツダ独自のG-ベクタリングコントロールが標準装備されているので、直進の安定性が高く、そしてコーナーでのGのかかりが穏やかだから、気づけば疲れていないという具合だ。
特に静粛性では、その静かさから高級さを感じ、滑らかに滑るように走る走行フィールは高級車のまさにそれだ。そこには、人が不快と感じる振動を数値化し、その数値を下げることにより滑らかな走りが実現しているわけだ。具体的には3~7Hzの振動だそうで、その周波数帯の振動がないと人は滑らか、高級に感じるというわけだ。
■エンジン改良の進化
2.0L、2.5Lガソリンに2.2Lディーゼルのラインアップには、いずれも改良が加えられ、環境性能を踏まえ、実用燃費をメインに考えた開発が進められている。特に2.5Lガソリンエンジンは、気筒休止機能を盛り込んだタイプへ換装されたが、ドライバーには気筒休止を知らせる機能はない。クルマ側がエンジン負荷など運転状況から自動で気筒休止させ、結果燃費が良くなっているようにしてあるのだ。
他社の気筒休止エンジン搭載車だと、モニターやインジケーターで気筒休止中であることがわかる表示があるものだが、そもそもMature eleganceであることやEffortless Drivingといったコンセプトを考えれば、ドライバーに気筒休止を意識させること自体がコンセプトから外れてしまう。だから敢えて黒子に徹していると思う。
■セダンとワゴンを重要な位置づけに
そして感心させられるのが、セダンとステーションワゴンのラインアップだ。SUV人気が高まる中、上質を知っている大人にとってセダンやステーションワゴンは人気の車型と言ってもいい。それは輸入車の傾向としてプレミアムモデルのセダン、ステーションワゴンの人気が高いことでも証明できる。フルラインアップするメーカーにとっては重要なタイプであることが分かる。したがって、アテンザはマツダのフラッグシップでありセダン、ステーションワゴンが重要な位置づけであることを忘れず、大幅改良してきているということだ。
こうした抽象的な目標を掲げ、そこに繋げていくための技術投入、そしてセンスの投入をしつつ、仕上がりを見えれば、どの部位、どの分野においても、その抽象的な目標通りに仕上がっていることに感心させられたのだ。
こうした開発目標を掲げ、具体的に商品に落とし込む手法は、マツダが2000年代に初頭に取り込んだ開発ツール『MBD』の影響があるように感じる。開発仕様書が言葉で書かれ、それをC言語に書き換え開発していた手法から、ブロック線図に代表されるモデル言語とも言うべき手法で開発されるようになったことだ。それは、抽象的な目標であっても数値化することで計算式を作ることができ、原理原則にのっとり解を導く手法だ。
取材はできていないので正確なことは言えないが、開発目標が例えば「高級感を高める」だった場合、見た目、触感、音などに分類し、それぞれに具体的な技術を投入する。素材の検討があり、どこで高級と感じるのかを検討する。そして新素材のウルトラスエードヌーなど上質と感じる艶、音、触感などを圧力センサーや脳波形などで数値に置き換え、人が感じる五感を数値化し、その合格ラインへと作りこむことで人は上質を感じ、高級と感じるようになるという手法を使っていると想像する。こうしたMBDという開発ツールを一歩先に進め、数値化できなかった「感覚」を数値化し数式で解を導く手法を使っているかは定かではないが、考え方としてはMBDを基本としているのは間違いない。その思考経路から、新しいアテンザが誕生したと感じる試乗だった。
■価格
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