クルマの自動運転化、もちろん大事です。交通事故をゼロにする可能性があるし、お年寄りや、からだの不自由な人も気軽に移動出来るようになる。クルマの電動化、こちらももちろん大事です。自然エネルギーとの組み合わせで、『風の谷のナウシカ』みたいな世の中が実現するかもしれない。どちらもバンバン進めていただきたい。
一方、事故ゼロや排出ガスゼロがあたりまえになったときに、面白みまで“ゼロ”になっていたら悲しい。趣味のクルマはこれから、音楽や絵画と同じように、興味のない人にとっては役立たずのガラクタだけど、好きな人にとっては何より大事な存在になると予想する。クルマがわれわれのような好きモンをビックリさせ、楽しませてくれる存在であり続けてほしいという願いを込めて、DS 7クロスバックに一票!
1位はアルピーヌ A110!──2018年の「我が5台」 Vol.8 渡辺敏史編
キラキラと輝くフロントグリルのモチーフはルーヴル美術館中庭のピラミッドだとか、レザーシートは高級ウォッチのベルトに着想を得たとか、物かげに隠れた子どもが「ワッ!」と友だちを驚かすような、そんなDS 7 クロスバックにシビれました。
スポーツカーとSUVの“2台持ち”は、クルマ好きのある種の夢だ。白洲次郎を気取ってレンジローバーとポルシェ911とか、あるいはホンダ S660とスズキ ジムニーの“軽コネクション”も味がある。SUVとスポーツカーの両方を乗りこなす男は、異性にも同性にも惚れられる男のような気がする。
とはいえ現実問題、“2台持ち”はかなりハードルが高い……、と思っていたところに登場したのがジャガーのコンパクトSUV「Eペイス」。内外装のあちこちに、ジャガー「Fタイプ」ゆずりのモチーフが散りばめられながら、中身は同胞のランドローバーゆずり。レンジローバー イヴォークやレンジローバー スポーツと基本的なつくりは共通なのだ。
乗ってみれば、ワインディングロードでは猫科の肉食動物のようにしなやかに躍動する一方で、ゲリラ豪雨に遭遇すると4駆システムをはじめとする伝統の技術が絶大な安心感をもたらしてくれる。だからケンカも強い色男、そんな人になれそうな気がする。
最初、このクルマの写真を見た時には“ダメだ”と、思った。1960年代から70年代にかけてのWRC(世界ラリー選手権)で大暴れしたオリジナルと並べた広報写真で、オリジナルを忠実に再現しようとする意気込みはよ~くわかった。
けれども時は流れて衝突安全性を求められるいま、ボディはかなり大柄になってしまい、一所懸命につくったレプリカみたいな雰囲気。現役を退いて肥えてしまったサッカー選手といった雰囲気だった。
でも、実物を見たら写真より断然引き締まっていて、さらに乗るとびっくり! これぞ「アシのいいやつ!」と、思わず言いたくなるクルマだった。たとえば右コーナーでは、荷重がかかる左側のサスペンションがじわーっと沈み込み、コーナーを抜けるとじわーっと元に戻る。この“じわーっ”は、人間の感性に寄り添う温かみのあるもので、扱いやすいうえに、操っている実感が得られる大変すばらしいセッティングだ。
クルマ業界ではよく「猫足」といった言葉であらわすが、猫の足よりはもうちょっと筋肉質で強さを感じる。聞けば、ロール(横方向の傾き)を制御するダンパーが特別な構造とのこと。このアシだったら、電気自動車の時代になっても運転は楽しいのではないか、と思わせてくれた。
2018年に欲しくなったナンバーワン。なぜこんなに欲しいのか。最初に乗った試乗会では乗り心地のよさに仰天したが、あとで広報車両を借りて冷静に乗ってみると、ラダーフレームとリジッドアクスルの本格的なオフローダーの構造を採るがゆえの“揺さぶられ感”は残る。これで出かけるとなると、後席を倒さないとたいした荷物は積めないから、本格的に釣りやキャンプで使うなら実質的に2シーターだ。
というわけで、ジムニーは一般的な意味の「いいクルマ」でもなければ「使えるクルマ」でもない。にもかかわらず、欲しくなる理由は、「頑固一徹、悪路走破性に特化した設計」といったモノづくりへのこだわりだったり、タフさと愛嬌が同居するデザインだったり、生活を変えてくれそうな予感だったり……。
いいクルマや使えるクルマであふれているいま、大事なのは広い意味でのスタイルとキャラクターであると教えてくれたジムニーに○。
ライバルが登場し、あらためて良さに気づく場合がある——。2016年発表のマセラティ レヴァンテが、まさにそうだった。
2018年は、アルファ ロメオ ステルヴィオ、ランボルギーニ ウルスといった、イタリア製の高性能SUVが登場した。レヴァンテを含むこれら3台は、価格帯もパワーも違うが、見ても乗ってもエキサイティングなイタリア車らしい魅力を備えたSUVだ。
で、3台のイタリアン高性能SUVのなかで、見ても乗っても大人っぽいのがマセラティ レヴァンテだった。アルファとランボがともに“カッツンカッツン”と、走るフィーリングを狙っているのに対し、レヴァンテは“しっとり”走る。インテリアもシックだ。
唯一、パワーで劣るのが玉にキズだったが、2018年に550psないしは590psを発揮するV型8気筒ツインターボエンジン搭載モデルがラインナップにくわわり、パワーでも真っ向勝負出来るようになった。
宇野 晶磨選手の登場で、あらためて羽生 弓弦選手のスゴさがわかる、みたいなことをレヴァンテに感じたのであった。
【著者プロフィール】
サトータケシ:1966年生まれ。東京都生まれの文筆業者、編集者。自動車雑誌『NAVI』の副編集長を務めた。その後、フリーランスに転向。自動車関連雑誌やウェブサイトに出演し、活躍する。
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