『10年10万キロ・ストーリー』の著者によるポルシェ968ボクスターから718ボクスターへの買い替え顛末記の最新回は、タイヤ交換の話です。
2年8カ月、3万2000km
なぜかつてのアストンマーティンは、4000万円超もしたのか?
718ボクスターのタイヤを交換した。トレッドパターンのスリップサインが見え始めて来て、交換時期を教えてくれたのだ。新車時から2年8か月と3万2000kmを後にしていた。
購入時に装着していたのは、ピレリのP-ZERO。サイズは、フロントが235/45ZR18、リアが265/45ZR18である。
今度も同じものを履くことにした。以前に乗っていたボクスターでは、ブリヂストン、ミシュラン、ピレリ、コンチネンタルと指定銘柄のタイヤを順番に履き替えていったのだが、今回は最初から代えないことにした。
あえて換えない理由は、P-ZEROが718ボクスターにとても良くマッチしているからだった。クルマが違うので、あくまでも相対的な印象に過ぎないのだが、それぞれのタイヤを履き替えた986型ボクスターの時の記憶を辿ってみても、このP-ZEROのバランスの高さを上回るものはなかった。
Aというタイヤはハンドリングもシャープで、グリップも申し分なく、加速も鋭いがブレーキが素晴らしかった。しかし、路面からのショックやハーシュネスをそのまま伝えているのではないかと思ってしまうほど、快適性に欠けていた。
また、Bというタイヤはショックやハーシュネスは気にならなかったのだが、ロードノイズが大きく、長距離ドライブでは疲れの原因となっていた。
さらに、Cというタイヤは新品時には大変に好ましく、AもBも凌駕していたのだが、その蜜月期間が長くは続かず、ハンドルが左に取られる症状がすぐに出てきたのだ。
もちろん、それらの評価はあくまでもクルマとの組み合わせによるもので、タイヤそのものの評価とはならない。走る道や速度域などの走り方の違いによるところも大きいだろう。クルマ自体の経年変化とタイヤの賞味期限との組み合わせによっても印象は変わる。
しかし、ひとつ断言できるのは、交換時期を迎えたP-ZEROに大きな不満点を感じていないことだ。スリップサインが現れなかったら、もっと乗り続けていても良かったくらいの感じだったのだ。
だから、あれこれ履き替えて、ああでもないこうでもないと考えを巡らせるのも楽しいのだけれども、気に入っているのならば同じものに履き替えて、新品タイヤのパフォーマンスを確かめることも大切なのではないかと思いいたったわけである。
718ボクスターを買った時は、タイヤも新品だったけど、クルマ自体も新車だったわけだから、良さは両方に起因している。しかし、今度はクルマは3万km余りを走っていて、その状態でタイヤを新しくするとどうなるのか?
タイヤの銘柄を交換してしまっては、新品の良さなのか、銘柄の良さなのか混乱してしまいかねない。ちなみに、ポルシェ各車が装着するタイヤには「Nマーク」なるものが刻まれている。ポルシェがタイヤメーカーと協力して開発し、承認した証だ。その「N」の字が、(過酷なコースとして有名な)ニュルブルクリンクの頭文字であることはポルシェジャパンのホームページに記されている。
その「Nマーク」も、ポルシェの車種の増加に伴って、「N1」や「N2」と増えていき、最近では「NA1」や「NF0」などといったものも現れてきている。
ピレリジャパンによれば、最初の「Nマーク」は空冷時代の911用タイヤの共同開発をピレリに依頼したことに始まるとのこと。その後、モデル数の増加に伴って「Nマーク」の種類も増えてきている。と、同時に、ピレリはポルシェ以外のメーカーともタイヤの共同開発を行い、それぞれのマークを刻印しているとのことである。
外したタイヤを眺めていると
前のボクスターにピレリタイヤを装着した時にお世話になった東京・世田谷のタイヤショップ、オートリーダーズに今回も出掛けた。
予約した時間に行くと準備は整っていて、さっそく718ボクスターのホイールが外されていく。手際よくホイールからタイヤが外され、新しいタイヤが組み込まれていく。3人のスタッフはそれぞれ担当が決まっているのか、各々の仕事をテキパキと進める。見ていて気持ちの良くなってくるプロの仕事ぶりだ。
外されたばかりのタイヤが4本積み上げられているのを見てみる。スリップサインが出ているのは外さないでも確認できていたけれども、こうしてホイールからも外されたタイヤを眼にするチャンスはなかなかない。2年8か月と3万2000kmを走った痕跡をいろいろと体現している。トレッド面は白っちゃけているのに対して、サイドウォールやタイヤの内側などが対照的に黒光りしている。
「片減りもせずに、全体的にキレイに削れていますね」
僕がシゲシゲと見ているものだから、新タイヤをホイールに装着し、空気を満たす作業をしていた店員が声を掛けてくれた。
「あれ、何か刺さっていますね?」
トレッド面に、小さな金属片が刺さっているのを見付けた。その5センチぐらい横にも、別の金属片が刺さっているではないか。よくパンクしなかったものだ。
「良かったですね。走っている時に、路上に落ちていた金属片や釘、ビスなどをフロントタイヤが踏んで瞬間的に“立ち上げちゃう”んですよ。倒れる前にそこにリアタイヤが被さるから刺さってパンクするんです。だから、パンクって、ほとんどの場合がリアタイヤで起こるんですよ」
その人が、わかりやすい手振りでパンクの発生メカニズムを教えてくれた。へぇ、そういうものなんだ。
タイヤの裏側を覗き込むと金属片は貫通していないから、幸いにして僕が履いていたタイヤはパンクしなかったのだ。
だが、店に積んであった古タイヤを見ると、太い五寸釘が刺さって貫通してしまっているものもあった。貫通した瞬間に曲げられて、釘の頭がアスファルトで半分ぐらい削り取られてしまっている。かなりスピードが出ていて、ホイールが高速で回転していたのか、刺さってから長い距離を走り続けたのか?
そういえば、前のボクスターに乗っていた時にパンクしたことがあった。自宅から出て狭い路地を進んでいくと、タイヤの回転に合わせてチャッチャッチャッと、金属が路面と擦れ合う音が建物に反響したので、パンクと判明した。そのまま、余地のある路肩に停めてスペアタイヤと交換したが、このタイヤを履いていたドライバーは、スピンとかせずに大丈夫だったのだろうか?
効果テキメン
手際の良い作業でタイヤを新品に履き替えてもらった718ボクスターで、環八に出る。ステアリングの切り始めが滑らかになった。そこから切り込んでいくと、手応えが増していく。換えたばかりなので、まだ、加速もブレーキも穏やかに行わなければならない。第3京浜に乗り、横浜を往復して慣らし運転をした。一定の速度を保って走り続ける。路面の細かな凹凸を柔らかく吸収しながら走っているのが感じられる。ロードノイズは、あまり変わった感じがしない。中速域でも、ステアリングの切り始めの滑らかさが心地良い。
環八に戻り、そこから首都高速3号線を上って少しペースを上げた。追い越し車線にも出て、ステアリングも左右に切り、加減速も意識して行った。グリップは申し分ない。ステアリングを切って、タイヤのサイドウォールがたわんでクルマが向きを変え、戻して直進に移っていくという一連の動きがとてもスムーズで気持ち良い。もともと強力な718ボクスターのブレーキグリップについても、ホンのちょっとしか踏まない時と、強めに踏んだ時との微妙な反応の違いが良くわかる。やっぱり、新しいタイヤは気持ちいい!
偶然にも、その前の週におろして履き始めたニューバランスのM1300に足を入れて走り始めた時の心地良さとうれしさを思い出した。ただ新しいだけでなく、足の裏から始まる自分の身体に馴染んでいく様子が感じられ、それが少しずつ変化していくのがわかるところがイイ。新しい服もワクワクするけれども、タイヤや靴ほど身体との結び付きは濃くない。
タイヤを新しくしたことは、伝えていなくても助手席の人にはすぐに体感できるらしい。いつも、僕の718ボクスターのトップを下ろして、走りながらもう1台のクルマを撮影している田丸瑞穂カメラマンは、交換して最初の撮影で「タイヤ換えましたか?」と気付いた。
「助手席からの撮影の時は、細かい振動や上下の揺れとの戦いです。自分の体で揺れを吸収したり、タイミングを見計らってシャッターを切っていますから、クルマの揺れには敏感ですよ。ホラッ、今のところなんかスッと通過して、ショックをほとんど感じませんよね」
“今のところ”というのは、道路上の舗装のつなぎ目のところだ。ショックはあるが、とても穏やかだ。
「古いタイヤは、ドタッ、ビシッと伝わってきていましたよ。ゴムが新しいから、サイドウォールが良くたわむんじゃないですかね」
たしかに、そんな感じだ。振動と細かな突き上げを、素早く柔軟に吸収している。履き込んだタイヤと新品タイヤの違いは、ゴムの柔らかさと溝の深さによる操作の滑らかさに最も顕著に感じる。そして、P-ZEROと我が718ボクスターの良好なコンビネーションを疑う余地はないことに変わりはなかった。タイヤを交換したら、一気にフレッシュな感覚が戻ってきた。
文・金子浩久
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みんなのコメント
交換せねばならんのは分かっちゃいるけど、交換できないんだよなぁ。