「神社仏閣」のスポーツスタイル!?
バイクメーカーが、同社のエンジンや車体を流用してバリエーションモデルを発売することはよくあるハナシです。ホンダで例を挙げると、「CRF1100Lアフリカツイン」のエンジンとフレームを流用して「NT1100」や「ホーク11」が製作されました。排気量250ccクラスなら、「CRF250L」と同形式のエンジンは「レブル250」や「CL250」にも使用されています。現在では一般的となった同じ車両で個性を分けたバリエーション展開は、いつ頃からあったのでしょうか?
【画像】ホンダ「DREAM CS71」(1958年型)の詳細を画像で見る(11枚)
1958年に登場したホンダ「ドリームCS71」は、スンダードモデルである「ドリームC70」のスポーツタイプです。当時の時代背景を振りかえってみると、「ドリームCS71」が発売された1950年代後半には、日本に2輪メーカーが30社以上ありました。その分、現在と比べると売り出される新型車の数もだいぶ多かった訳ですが、当時はまだ欧州車のデザインを参考にしている段階で、数は多くてもどれも同じような形に見えます。
スクーターやモペットにはユニークな車種もありましたが、排気量が125ccから500ccくらいまでは、概ねオーソドックスな形状で、現在と違い使用できる樹脂素材(プラスチック)も限られていたという理由も考えられます。
そんな中で登場したホンダ「ドリームC70」は独特の角ばったスタイルで、「神社仏閣デザイン」と呼ばれて好評を得ます。この「ドリームC70」は当時のホンダのメイン機種で、そのバリエーションモデルが「ドリームCS71」でした。
この2台は基本的にエンジンと車体は共通です。現代的目線で見ると、「ドリームCS71」はスポーツタイプと言うよりもアバンギャルドなデザイン追求型に見えます。
そんな「ドリームCS71」の特徴は、エンジン左右に広がって後方へ流れるアップマフラーです。バイクのデザインはすべからく機能と結びついていると考えがちですが、このマフラーのレイアウトは性能アップの秘密が隠されていると思いたいものの、視覚的なカッコ良さが採用の大きな理由でしょう。
現在ではアップマフラーはオフロード車の特徴で、路面の凸凹に対して最低地上高を確保するために有効な取り回しになっています。1950年代の世界選手権モトクロスではアップマフラーはまだ少数派で、絶対に必要な装備ではなかった様です。
一方、ロードレースではアップマフラーの方がコーナーリング時にバンク角を深く設定できると考えられていました。レーシングマフラーは細いパイプでも作れますが、当時、消音効果の高い市販車の太いマフラーでバンク角を確保するには、アップマフラーは有効な手段でした。
もうひとつの特徴は、ロングシートです。2人乗りでのツーリングに便利なことは間違いありませんが、スポーツモデルなので高速時の前傾姿勢にも有効とされています。さらに両足をシートまで上げて、全身を伸ばして腹這いになって乗る「フライング」と呼ばれるフォームが容易にできる、と言われていました。フライング姿勢が本当に最高速を伸ばすかどうかは疑問ですが、当時のバイク事情を窺わせる興味深い話です。
車体は鋼板を使用したプレスバックボーンフレームで、足まわりも「ドリームC70」と概ね同じ。ベースになった排気量250ccクラスの並列2気筒SOHCエンジンは、「ドリームC70」の17.7PS/7400rpmに対して、スポーツモデルの「ドリームCS71」は19.7PS/8400rpmへと強化されています。
公道を走るスポーツバイクには実用的な速さだけでなく、伝統的だったり革新的に見える視覚的な魅力が必要なことは、昔も現在も変わらないことを、「ドリームCS71」がそのスタイルで教えてくれます。
まだバリエーションモデルという考え方が一般的ではない中で、よりファンの要望に近いモデルや新しい遊びと用途を提案するホンダのバイク作りが集約されているモデルです。
「ドリームCS71」と同時に、排気量300ccの兄弟車「ドリームCS76」も発売され、その後「CS」モデルは排気量を拡充してシリーズ化されました。
ホンダのモデル名が「CB」へと再編されていく中で、「ドリームCS71」にマイナーチェンジはありましたが、直接的な後継機種はありません。
ホンダ「ドリームCS71」(1958年型)の当時の販売価格は18万2000円です。
■ホンダ「DREAM CS71」(1958年型)主要諸元エンジン種類:空冷4ストローク並列2気筒SOHC総排気量:247cc最高出力:19.7PS/8400rpm車両重量:158kg(乾燥)フレーム形式:鋼板プレスバックボーン
【取材協力】ホンダコレクションホール(栃木県/モビリティリゾートもてぎ内)※2023年12月以前に撮影
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