スズキは2021年モデルとして、1000ccスポーツネイキッド「GSX-S1000」をモデルチェンジした。
エンジンは現在施行されている最新の環境規制「ユーロ5」に適合し、上限回転数が1000rpm上になり、パワーもアップ。最大トルクは減少しているものの、スズキによればトルクカーブは以前よりも滑らかで、トルクは太くなっているという。
また、電子制御機構やメーターパネルを刷新したほか、アップダウン式クイックシフターを標準装備。トラクションコントロールも従来型よりより洗練されたものになり、さらには大胆な新デザインへと生まれ変わった。
【画像15点】新型スズキGSX-S1000の機能パーツ、全車体色を写真で解説
その新型GSX-S1000を、イギリス人ジャーナリストでマン島TTレーサーでもあるアダム・チャイルド氏が公道とサーキットで早速テスト。
「従来型同様、コストパフォーマンスが高いという魅力は健在にもかかわらず、走行性能もアップもしているとは!」
新型スズキGSX-S1000のエンジン「最高出力2馬力アップ」
フルモデルチェンジということにはなっているが、エンジンは改良された……というより微調整が行われたといった感じだろうか。
従来型と基本的には同様で、排気量、ボア・ストロークは変わらず。2005年に発売されたスーパースポーツGSX-R1000(K5)をルーツとするという点も、もちろん変わっていない。
ただし、カムシャフト、カムチェーン、バルブスプリング、スリッパークラッチが変更されたほか、ユーロ5に適合するためにエキゾーストシステムも一新。
電子制御のスロットルボディは軽量コンパクト化され、44mmから40mmに変更されたスロットルボディはスムーズなフィーリングにも貢献するという。
性能面では、最高出力は従来型150馬力/1万rpm(欧州仕様) → 新型152馬力/1万1000rpmへと向上。この高回転化は単純に「高回転・高出力」になったというわけではない点が興味深い。
最大トルクは、11.0kgm/9500rpmから10.8kgm/9250rpmへと下がっているが、肝心のトルクカーブがより滑らかになり、中高回転域での伸びが顕著になっているというのだ。
その結果、新型GSX-S1000のサウンドは「昔のスズキっぽい」ものになった。古いGSX-R1000を彷彿とさせる、特徴あるノイズ交じりの音というか──。
しかし、これは決して「悪い」という意味で指摘しているのではない。私は昔から直4の音が好きで、新型GSX-S1000の音は味わい深い肉厚な感じがするのである。ユーロ5に準拠したバイクとしては、本当になかなかいい音なのだ。
新型スズキGSX-S1000のライディングモード「出力特性が変わるシンプルな3モード」
新型GSX-S1000には、3種のシンプルなライディングモードが用意されており、エンジンの出力特性が変化する。
3種のモードは便宜上A、B、Cと表記されるが、スズキのマーケティング担当者によりそれぞれ「Active」「Basic」「Comfort」と名前がつけられている。
従来型GSX-S1000はスロットルレスポンスが鋭敏すぎで攻撃的だという批判が多かったが、新型車においてはその点が是正されている。
モードA(アクティブ)はまだ少し鋭すぎて、なぜ必要なのか私にはよくわからない(笑)。キビキビしたスロットルレスポンスを好むライダーもいるかもしれないが……。
テストでは公道、サーキット両方を走ったが、結局どちらもずっとモードB(ベーシック)で走っていた。
モードC(コンフォート)は経験の浅いライダーや、路面コンディションが危ういとき、あるいは新品タイヤを履いているときにはアリかもしれないが……結果的に、私はテスト走行中の95%をモードBで過ごした。
新型スズキGSX-S1000の走り「往年のGSX-R1000を思い出す加速感」
最高出力は数値では2馬力上がっているものの、体感ではそこまで違いを感じられない範囲だ。だが、トルクの変化は如実に把握できた。
改めてGSX-R1000をルーツとする4気筒エンジンの素性の良さ、駆動力に驚かされた。
低回転域のトルクはわずかに増加しているといった感じだが、印象的なのは中回転域だ。まるでひとまわり排気量の大きなバイクのような走りで、うなり声を上げながら突き進む。実に気に入った!
アップダウン両対応のクイックシフターは作動性もスムーズで、何度もトルクを活かした加速感とエキゾーストノートを楽しんでしまった。
快適性に欠けるスーパースポーツに乗る仲間をネイキッドモデルで追いかけ回したいなら、このGSX-S1000が最適だろう。
レブリミットまでの回転数が1000rpm高くなったわけだが、数値からイメージする以上に実践的な速さに繋がっていた。ここまで豪快に速いとは──。
GSX-R1000 K5がどんなものだったかを思い出す。往年のリッタースーパースポーツの最高出力は170馬力超だったが、今の時代でも152馬力は十分すぎるほどのパワーを持っていることがわかる。
試しにトラクションコントロールを解除してみれば、1~2速はもちろん、3速でも前輪が勢いよく離陸するほどだ。そんな強大なトルクを活かして走るのも楽しいし、高回転まで使ってもっとスポーティなマシンとタメを張ることもできる楽しいバイクである。
スズキはGSX-S1000の試乗会をふたつのパートに分けて開催した。
英国北部のノース・ヨークシャーを中心にさまざまな道を爽快に走る100マイルライド(約160km)と、ヨークシャーの伝統的なヒルクライムサーキットで11のタイトコーナーを組み合わせた「ハレウッド・ヒルクライム」(1.45km)を走るというものだ。
図体のそこそこ大きいGSX-S1000で、標準的なサスペンションセッティングと、標準装着の公道用タイヤ「ダンロップ・スポーツマックス・ロードスポーツ2」のままヒルクライムさせる……というスズキの決断は勇気あるものだが、果たして自信の現れか。
まずは公道でのテストでの印象から。
フルアジャスタブルのKYB製フォークはきちんとした作動感を示し、リヤショックもしっかり動く。
これら前後サスペンションは従来型とモノとしては同じだが、車重とトルク特性の変化に合わせてセッティングが変更されており、ダンロップ・スポーツマックス・ロードスポーツ2のグリップも従来型より上だ。一般的な速度であれば、ほとんど不満はなく、絵のように美しいノース・ヨークシャーの中を気持ちよく走れることができた。
ただし、152馬力をフルに発揮するようにな走り方をすると、サスペンションの限界が見えてきて少々ツラくなる瞬間もあった。
価格を考えれば、新車出荷時状態のフロントサスペンションはセッティング含め好印象だ。しかし、スピードを乗せて路面に起伏のある場所に入ると、リヤショックは従順な犬のように座り込んでしまう……。
一方、高速でバンピーなコーナーに入ると、ショックが過剰に働くのを感じる。まあ「相当アグレッシブに走った場合」という条件付きでの話ではあるが。
あと、気になったのは重量増の問題だ。
ユーロ5に対応するためのエキゾーストシステム、燃料タンクの容量拡大(2L増えて19Lとなった)などにより、従来型の時点で209kgと決して軽くはなかった車重は214kgとなってしまった。
もしBMW S1000Rやドゥカティ モンスターなどのライバル機種から乗り換える人がいたとすれば、GSX-S1000の物理的な重さを感じるだろう。
しかしそうは言っても、年を取って数kg体重が増えたにもかかわらず、ちゃんとトレーニングは続けていたということだろうか。
車重の重さをハンドリングのしっかり感に生かしているのはさすがだ。
そんなGSX-S1000と言えど、厳しいヒルクライムコースでは手に負えないのではないかと、サーキット試乗前まで心配は止まなかったことを告白しておく。
が、新型GSX-S1000は驚くほど簡単にチャレンジを成功させてくれた。
(ちなみに、タイヤの空気圧を下げるなどの調整もしなかった)
ステアリングは安心感のある正確なもので、激しいブレーキングでもフォークが底をつくことはなく、すべてをコントロール下におけた。
滑らかな路面ではリヤショックの挙動も良く、十分なフィードバックが得られたため、すぐにパワーオンできる。
最終的にはステップが削れてしまったが、決してレース用のバイクではないのでその点は仕方ない。ただ、このバイクの重量、パワー、価格を考慮すると、目を見張るようなパフォーマンスである。
新型スズキGSX-S1000の装備「先進性はないが、基本性能は十分以上」
フロントブレーキは従来型同様、310mm径のダブルディスク+ブレンボ製キャリパーという装備だが、サスペンションと同じくその性能は十分なもの。フィーリングも素晴らしい。
ただし、荷物満載で二人乗りをして、高速道路から出口のインターチェンジがやたらとタイトな下り坂になっており、そこで一気ブレーキング……というような場合は、制動力に少し物足りなさを感じるかもしれない。
ABSは当然装備されているが、バンク角連動システムは無い。なお、参考までにヒルクライムではABSが少し邪魔になったが、これはバイクの限界に挑戦しているからで、一般的な環境での話ではない。
また、新しいスリッパークラッチが採用されたが、エンジンブレーキアシストや他社モデルに見られるような電子制御のライダー補助機能はない。
今やこのクラスのバイクに普及が進んでいるバンク角連動ABSが装備されていないことに不安を感じるライダーもいるかもしれないが、GSX-S1000の価格とターゲット層を考えれば機能的には十分だと思う。
ネイキッドモデルである以上、素晴らしく快適かというとそんなことはないが、スズキはGSX-S1000を従来型よりも多機能で快適なものに仕上げてきた。
ハンドルバーは20mmライダー側に寄せられ、よりアップライトなポジションに。
また、17L→19Lに増えた燃料タンクは航続距離の確保というメリットだけでなく、形状も考慮され、快適性も向上している。
燃費についてスズキは46.3マイルパーガロン(約16.3km/L)と発表されているが、従来型の公式数値である53.3マイルパーガロン(約18.8km/L)よりも低くなっている。
計算上の航続距離は従来の199マイル(約320km)から195マイル(約310km)とほぼ変わらないが、実際、テスト走行時に計測した数値ではスズキの発表値を上回る49マイルパーガロン(約17.3km/L)を記録したので、走り方によっては205マイル(約330km)近い航続距離が得られるかもしれない。
長時間・長距離走行の快適性については、今回のテスト走行で十分には確かめられなかったので、もっと距離を走って確かめてみたいと思う。
というのも、新型GSX-S1000はシートがいいのだ!
スズキが他社のような「レーシーなデザインのシート」ではなく、実用を踏まえたシートをGSX-S1000に装着したのは喜ばしいことだ。
今回のテストでの第一印象に基づく限り、1000ccクラスのスポーツネイキッドというカテゴリーの中で、GSX-S1000のシートは長時間走行における快適性がトップクラスだと思う。
ただし、新型になったとはいえ、他社モデルに比べGSX-S1000が「持っていないものリスト」は、「持っているものリスト」よりはるかに長い。
バンク角を検知するIMU(慣性計測装置)がないため、バンク角連動の電子制御はなく、普通のABSとトラクションコントロールのみ。
エンジンブレーキアシストも、ピットレーンリミッターも、クルーズコントロールも、アンチウイリーシステムも、スライドコントロールも、コーナリングABSも、流行りの美しい大型液晶パネルも無い……。比較的ベーシックな装備のライバル車、たとえばBMWの新型S1000Rなどと比べてもやや遅れをとっている。
スズキが頑張っていないわけではない。
メーターはシンプルで使いやすいし、完璧に機能するアップダウン両対応のクイックシフターは標準装備だし、クラッチを離すとエンジン回転数がわずかに上がる低回転アシストと、セルボタンを押し続ける必要がなくワンプッシュでエンジンがかかるスズキ独自のイージー・スタートが搭載されている。
それに、ヘッドライトもLEDになった。デザインも悪くない。
スズキ GSX-S1000総評
今回、スズキは何か大変更をしたわけではない。だがその狙いは明確だ。
もし排気量を増やしたり、IMUを搭載してバンク角連動の電子制御の採用を行うなどしていたら、価格が上がっていただろう。
それはスズキの目指すところではないのだ。
手頃な価格で、魅力的で、使い勝手の良いスポーツネイキッドを作ることが重要で、152馬力もある高性能なエンジンを搭載し、一般道はもちろん、サーキットでも(ある程度までは)十分な性能を発揮する万能性を持っている。
電子制御は多機能ではないが十分で、ライバル勢と比べた場合、価格はかなり魅力的だ。
ベーシックなバイクであるがゆえに、スペックの高いスーパースポーツを乗り継いできたライダーには敬遠されるかもしれないが、私は多くのライダーがこのシンプルさと日常的な使い勝手の良さを気に入ってくれると信じている。
■スズキ GSX-S1000主要諸元(欧州仕様)
[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列4気筒DOHCC4バルブ ボア・ストローク:73.4mm×59.0mm 総排気量:999cc 最高出力:112kW<152ps>/1万1000rpm 最大トルク:106Nm<10.8kgm>/9250rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2115 全幅:810 全高:1080 ホイールベース:1460 シート高810(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R190/50ZR17 車両重量:214kg 燃料タンク容量:19L
[イギリス仕様価格]1万999ポンド(約168万円)
レポート●アダム・チャイルド 写真●ジェイソン・クリッチェル まとめ●上野茂岐
■編集部註
筆者のアダム・チャイルド氏は「コストパフォーマンスの高さ」に注目しているが、イギリスにおける新型GSX-S1000の価格は1万999ポンドで日本円に換算すると、2021年7月時点の計算で約168万円となる(この数値は一見高く見えるかもしれないが、イギリスにとっては日本車は「輸入車」であり、輸送コストや関税なども含まれる)。
新型ハヤブサのイギリスでの販売価格に対し、新型GSX-S1000はその約66%という価格設定がされているが、物価の違い等を踏まえたうえで彼の言う「コストパフォーマンス」感覚の参考にしてほしい。
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