7月9日、イタリア・ミラノ近郊に位置するモンツァ・サーキットで2023年WEC世界耐久選手権第5戦『モンツァ6時間レース』の決勝が行われた。序盤から荒れた展開、そして激しい接戦が繰り広げられるなか、ポールポジションからスタートしたトヨタGAZOO Racingの7号車GR010ハイブリッド(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ-マリア・ロペス)がトップチェッカーを受け、今季3勝目を挙げた。
2位はフェラーリAFコルセの50号車フェラーリ499P、3位にはプジョー・トタルエナジーズの93号車プジョー9X8が入り、プジョーは昨年途中の参戦開始以来、初めての表彰台獲得となった。
全車がオレカ07・ギブソンのパッケージで争うLMP2クラスは、JOTAの28号車(デビッド・ハイネマイヤー・ハンソン/ピエトロ・フィッティパルディ/オリバー・ラスムッセン)が優勝。
今季限りで終了となるLMGTEアマクラスは、デンプシー・プロトン・レーシングの77号車ポルシェ911 RSR-19(クリスチャン・リード/ミッケル・ペデルセン/ジュリアン・アンドラウアー)がクラス優勝を遂げた。
シリーズ最大のハイライトである第4戦ル・マン24時間から4週間。全7戦で争われる2023年シーズンは、残り3ラウンドへ突入した。今戦では、最高峰ハイパーカークラスに、ポルシェ963の新たなカスタマーチームとしてプロトン・コンペティションの99号車が参戦を開始。ドライバーの面では、フロイド・ヴァンウォール・レーシングチームの4号車ヴァンウォール・バンダーベル680でGT300王者のジョアオ・パオロ・デ・オリベイラがハイパーカーデビューを果たすなど、“新顔”にも注目が集まる一戦となった。
また、ハイパーカークラスではこのレースを前に残り3戦のBoP(性能調整)テーブルが発表されており、モンツァ戦での勢力図変化も注目点のひとつとなった。
現地時間12時30分にスタートが切られたレースは、序盤から荒れ模様に。スタート直後の第1シケインでは、やや出遅れた8号車トヨタの左フロントが、51号車フェラーリの右リヤと接触。51号車がスピンを喫し、大きく順位を落としてしまう。
さらに、ターン8への進入で8号車をドライブするセバスチャン・ブエミは、Dステーション・レーシングの777号車をバリアへと追いやってしまい、これによりセーフティカーが導入。777号車はリタイアとなり、8号車には1分間のストップ・アンド・ゴーペナルティが発出されて大きく後退することとなった。
ここで導入されたセーフティカーでは各陣営の戦略が分かれ、さらにセーフティカー明けには93号車プジョーがトヨタから首位を奪い、続けて50号車フェラーリもトヨタをパスしていく。
2度目のルーティンピットのタイミングで7号車が50号車の前に出て、実質のトップへと浮上した。直後にはLMP2クラスのクラッシュによるセーフティカー導入もあり、各車の間隔がリセット。7号車トヨタ、50号車フェラーリ、5号車ポルシェ、93号車プジョーというトップ4の状態で中盤戦へと突入していった。
※レース前半の詳細レポートはこちら
■緊迫の終盤。8号車ハートレーが鬼神の追い上げ
3時間経過直後、LMGTEマシンの接触・コースオフにより、フルコースイエロー(FCY)が導入される。この時点でのハイパーカークラスの順位は7号車トヨタ、50号車フェラーリ、51号車フェラーリ、93号車プジョー、5号車ポルシェ、6号車ポルシェ、708号車グリッケンハウス、99号車ポルシェ、8号車トヨタ、2号車キャデラックというトップ10になっていた。
序盤のペナルティによりラップダウンとなっていた8号車トヨタはスタートドライバーのブエミからステアリングを譲り受けた平川亮の力走、そしてFCY直前での短めのピットストップなどの戦略も絡め、やがてリードラップ回復間近のところまでポジションを回復してくる。
首位のトヨタ7号車が2番手の50号車フェラーリに40~45秒程度のマージンを築いて走行を続け、5号車ポルシェと93号車プジョーが表彰台の一角を争う展開となっていった。
そんななか、4時間を経過したところで、このレースでデビューしたプロトン・コンペティションの99号車ポルシェ963が、第1シケイン先でストップしてしまう。これによりFCYが導入。ハリー・ティンクネルは一度低速でマシンの再始動に成功するものの、その後もう一度マシンを止めてしまうと、FCYに続きセーフティカーが導入される。
ティンクネルはセーフティカー導入と同時に再度低速での走行を始めたが、三度マシンを停めてしまった。スロットルセンサーのトラブルだった模様だ。このセーフティカーでふたたび各車のギャップがリセットされる。
残り1時間半強のところでレースはリスタート。暫定4番手の708号車グリッケンハウスのオリビエ・プラはスティント終盤でタイヤが厳しくなったかオフコースする場面もみられ、51号車フェラーリがこれをかわしていく。
7号車トヨタの可夢偉はセーフティカー解除後、再度徐々に後続との差を広げていくことに成功。一時その差は20秒弱ほどとなるが、徐々に50号車のアントニオ・フォコも追い上げを見せ、残り1時間の時点では15秒の差に。50号車フェラーリの約20秒後方には93号車プジョー、その約4秒うしろには5号車ポルシェというオーダーで、最後の1時間へと突入していった。
残り46分、首位7号車から2番手50号車までの差は約11秒。ここで7号車可夢偉はラストピットへと飛び込むと、タイヤ4輪をここまでスタートから選択してきたハードコンパウンドから、ミディアムコンパウンドへと交換。可夢偉がコクピットに留まったまま、コースへと戻っていく。
これに反応した50号車フェラーリのフォコは、次の周にピットインし、左側2輪のみを交換。トヨタを逆転できるかに注目が集まったが、7号車可夢偉の後方でピットアウトすることとなった。
これで暫定トップには93号車プジョーが立つが、ほどなくしてこちらも最終ピットへ。ドライバーはポール・ディ・レスタのまま、4輪を交換してコースへと戻ると、3番手をキープすることに成功する。
ピットアウト後、8秒ほどの差だったトップ2台は、最後の争いを展開。可夢偉はファステストラップも刻みながら、50号車をじりじりと引き離していった。
結局、最終ピットでミディアムタイヤへと交換した7号車トヨタが逃げ切りに成功しトップチェッカー。50号車フェラーリが16.5秒差で2位に入り、3位に93号車プジョーが入った。
終盤、4番手を走る5号車ポルシェのフレデリック・マコウィッキに、51号車フェラーリのアントニオ・ジョビナッツィ、8号車トヨタのブレンドン・ハートレーが迫る。とくに51号車と8号車はシリーズタイトル争い上も重要な争いとなった。
残り15分、最終コーナーでバックマーカーに詰まったところで、ハートレーがジョビナッツィにアタック。1コーナーではジョビナッツィがポジションを守るが、第2シケイン進入でハートレーが前に出た。
さらにハートレーはマコウィッキのテールを捉えると、残り11分となった第1シケイン進入でポルシェをパス、4番手にまでポジションを取り戻し、フィニッシュを迎えた。
このあと、ジョビナッツィはマコウィッキをパスして5番手へと上がるが、このオーバーテイクがコース外からのものだったとの報告がスチュワードに上げられており、暫定結果では5号車が5位、51号車が6位となっている。
※追記
レース後、8号車トヨタには最大パワーの超過があったとして、競技結果に50秒加算というペナルティが科せられた結果、正式リザルトでは5号車が4位、51号車が5位、8号車が6位へと順位が改訂されている。
■LMP2:JOTAが激戦を制す。WRT31号車に無念のトラブル
スタート直後は予選2番手だった28号車JOTAのデビッド・ハイネマイヤー・ハンソンがトップに浮上したが、クラス最後尾スタートだったユナイテッド・オートスポーツ23号車のギド・バン・デル・ガルデが力走を見せて序盤からポジションを上げ、やがてレースをリードする展開に。
3時間経過時点では、ユナイテッドの23号車に続き、WRT31号車、JOTA28号車というオーダーになっていた。
4時間が経過する頃には、首位23号車のギド・バン・デル・ガルデにWRT31号車のフェルディナンド・ハプスブルクが迫り、両車は激しい接近戦を展開する。
ここでは23号車が順位を守ったが、その後FCYの直前にピットインしていたWRT31号車、JOTA28号車がアドバンテージを手にし、反対にユナイテッド23号車は首位争いから脱落してしまう。
終盤、首位31号車ロビン・フラインスと2番手の28号車ピエトロ・フィッティパルディは接近戦となるが、残り35分を切ってからのラストピットで、28号車が逆転に成功しトップに躍り出る。実質の2番手には、ピットタイミングがオフセットしているアルピーヌ・エルフ・チームがつけることに。
ところが残り22分、31号車はふたたびピットにマシンを向けると、トラブルかガレージへと入れられてしまう。さらに3位争いも白熱。ユナイテッドの23号車に41号車WRTのルイ・デレトラズが迫り、最終盤の第2シケインで2台ともにコースを外れるなか、デレトラズが前へ出た。
これにより、JOTA28号車が優勝。2位にアルピーヌ・エルフ・チームの36号車、3位にWRT41号車が続いている。
■LMGTEアマ:4位のコルベットが早々とタイトルを決める
LMGTEアマクラスでは、序盤はクラスポールスタートだったアイアン・デイムスの85号車ポルシェ911 RSR-19がレースをリードするが、3時間経過時点ではデンプシー・プロトン・レーシングの77号車ポルシェが首位、アイアン・デイムス85号車、コルベット・レーシングの33号車シボレー・コルベットC8.Rが続く展開となっていた。
しかし3時間経過直後のセーフティカー明け、33号車コルベットのニコラ・バローネが85号車ポルシェのミシェル・ガッティングを第2シケインで捉え、実質の2番手へと浮上する。
さらに4時間経過を前に、GRレーシングの86号車ポルシェと77号車ポルシェを立て続けにパスしたコルベットはこの時点での実質トップへと浮上するが、あとはピットタイミングがオフセットしているデンプシー・プロトン77号車との争いとなる。
最終的には最小ピット回数でレースを走り切った77号車が首位を守り切ってクラス優勝。2番手にはアイアン・リンクスの60号車ポルシェが続き、GRレース86号車がル・マンに続き3位表彰台を獲得した。
4位に入った33号車コルベットは、2レースを残し、ベン・キーティング/ニッキー・キャツバーグ/ニコラ・バローネの3人がGTEアマクラス最後のドライバーズタイトルを決めている。
日本勢では、11番手スタートのDステーション・レーシング777号車アストンマーティン・バンテージAMRの星野敏が序盤、前述のとおり8号車トヨタに幅寄せをされる形でアスカリ・シケイン進入でバリアに大クラッシュを喫し、わずか7周の走行でリタイアとなってしまった。
また、クラス9番グリッドからスタートしたケッセル・レーシング57号車フェラーリ488 GTE Evoはスタートから木村武史が力走を見せるも、レース中盤にテクニカルトラブルに見舞われてしまう。ピットでの修復を試みたものの最終的にはリタイアを選択している。
WECの次戦第6戦は9月8~10日、静岡県の富士スピードウェイで6時間レースが行われる予定だ。
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