スペシャリティと呼ぶにふさわしい至高の2+2クーペ
スバル史上もっともラグジュアリーなスペシャリティモデルといえばアルシオーネSVX(以下、SVX)だろう。巨匠ジウジアーロ率いるイタルデザインが手掛けた、美しい2+2のグラスコックピットを持つ3ナンバー専用のクーペボディに、3.3L水平対向6気筒エンジンを搭載。当時の先進メカニズムを積極的に搭載するフラッグシップモデルであった。
「ソアラ」「レパード」「プレリュード」! クルマ好きが心底憧れた「国産80年代スペシャリティクーペ」
専用エンジンの3.3L DOHC水平対向6気筒を全モデルに搭載
SVXの前身にあたる初代アルシオーネ(AX型)は、当時国産車初のCd値(空気抵抗係数)0.30の壁を超えた0.29(VRターボのFFモデル)の空力性能を実現。くさび型のクーペボディにはフルタイムAWDとFFの駆動レイアウトが設定され、組み合わされるエンジンは水平対向4気筒ターボに続き、水平対向6気筒などがラインアップに追加された。
2代目アルシオーネとなったSVXは1991年9月にデビューした。エンジンはDOHC化され排気量は3.3Lへと拡大。EG33型のエンジンはSVXのみ搭載の専用エンジンで、6気筒エンジン+AWDという組み合わせのみの設定であった。また登場時は4WS(4輪操舵)を備えるバージョンLと標準モデルのバージョンEというシンプルな2グレードを展開する。
スバルの真骨頂であるAWDシステムは、2代目レガシィ以降のターボ×ATモデルではお馴染みのVTD-4WD(不等可変トルク電子制御4WD)をスバル車として初搭載したことも、スバルの最新のテクノロジーを惜しみなく投入したという点は共通だ。
専用装備の追加で商品性を高めた特別仕様車を次々に投入
1993年11月には、バージョンEをベースとした富士重工業(現SUBARU)40周年記念車としてアルシオーネSVX S40というモデルを限定300台で発売した。シルバーのインパネやジャガードファブリックシートなどの専用装備が多数採用された。1994年7月にはS40のシートをファブリックからモケットへ変更したS40IIが300台限定で発売されている。
同年11月にはバージョンEをベースにBBS製鍛造アルミホイールや高級オーディオを標準装備した特別仕様車のS3を限定500台で販売。このようにSVXは台数限定の特別仕様車が数多く設定されていたことでも知られる。 そして1995年7月には後期型が登場する。フロントグリルのデザイン変更がエクステリア面のトピックとなったが、同時に4WS搭載車が廃止されたほか、BBS製鍛造アルミホイールを装着したS4グレードを新たに設定。以降、販売終了までS4のみの単一グレードで販売された。
イベント会場では黒山の人だかりで色褪せないインパクトはいまも健在
初期型の登場してから今年で30年となるSVXだが、その流麗なフォルムは30年という歳月をまったく感じさせない美しいフォルムだ。2018年の大阪オートメッセではスバルマガジンブースに編集部所有の後期型アルシオーネSVX S4を展示したが、スバルファンはもちろん、それ以外の来場者からも熱い視線が注がれていた。 来場者のなかには当時を懐かしむ元オーナーをはじめ、SVXが輸入車だと勘違いするほど、発売から四半世紀が経過してもクルマ好きの若者に強烈なインパクトを与えたモデルでもあった。
「スバリストの聖地」までSVXの美味を味わい尽くした
スバルマガジン編集部所有のSVXは、ガレージに18年間保管されていたいわゆる「納屋物件」であった。当時の走行距離はなんと3.5万kmだが、長きにわたり不動のまま保管されていたため、スバリストの聖地として知られる岐阜県中津市の「中津スバル販売」にてレストアを敢行。内外装からパワートレインまで見事に復活したSVXは、現在も編集部のスペシャル過ぎる「足」として稼働中だ。
幸運なことに昨年、SVXで東京の編集部から中津スバルまで車検を受けるために長距離ドライブする機会があった。あらためてじっくり味わいながら走らせると、「500mils a day」(1日に800km)という当時のキャッチコピーのとおり、刻々と変化する路面状況や気象条件でも快適で官能的なドライブを享受することできた。
なかでも3.3L水平対向6気筒エンジンは軽やかながらも、ほどよくしっとりとしたフィーリング。決してスポーティではないが、アクセルを踏み込めば自然吸気らしい乾いたボクサーサウンドを奏でながら1.6t弱のボディを軽やかに加速させてくれた。
とくに最高出力240ps/6000rpm、最大トルク31.5kg-m/4800rpmというスペックは発売から四半世紀が経過した現在でも十二分に通用するもの。ただし10.15モード燃費の8.0km/Lという数値から察することができるように、気持ちの良い加速とともに燃料計の針がみるみる下がっていくさまは、最新のクルマではなかなか味わうことができない貴重な体験でもあった。
理想のダンピング性能を得てさらにスペシャリティ感が際立つ
水平対向エンジンと言えは、EJ20ターボのようなドロドロ音を想像するかもしれないが、走れば走るほど基本設計が30年前のクルマとは思えないほどの高い静粛性に驚かされる。それはフラット6の快音を聴きたいがために、ウインドウを少し下ろしてしまうほどであった。
加えて、編集部のSVXの足まわりにはNEOチューンと呼ばれる純正ダンパーのまま、好みの粘度にブレンドしたダンパーオイルに交換するチューニングが施されているため、SVXのキャラクターに見事にマッチした走りを披露してくれた。
特筆すべきは、路面の荒い場所でも決してバタつくことがなく、4輪がきっちり路面を捉えてくれること。乗り心地はもちろんハードではなく、しなやかにいなしてくれる印象。純正のダンピング特性をそのままワンランク上に引き上げたイメージといったらわかりやすいだろうか。
道中、大雨に見舞われることがあったが、自慢のAWDシステムのおかげで安心感はやはり高い。
唯一、弱点があるとすれば、LEDヘッドライト全盛期のクルマに慣れ過ぎたせいか、ハロゲンヘッドライトでの夜間走行はさすがに暗いと感じたぐらいだ。もちろんそれも味ではあるのだが……。
手に入れるならいまが最後のチャンスか!? 迷ったら「買い!」が正解
2021年8月現在で、SVXは中古車サイトに27台掲載されていた。今回紹介したスバルマガジン号のようなミントコンディションのモデルには、300万円台の値付けがされている。なかには70万円台という個体も存在するが、もちろん格安の個体は年式を考えると、それなりに手を加える必要がありそうだ。純正部品も手に入りにくい状況を考えると、少し高くてもレストア済みの車両を手に入れたい。
人気グレードはバージョンLだが、6気筒ならではのフィーリングや美しいデザインはそれ以外のモデルでも手に入れることができる。レザーシートなどにこだわらないのであればバージョンEやS4といったグレードもオススメだ。 コレクションとしての要素が強い年代のモデルではあるが、まだまだ現役として走らせることのできる実力をもつSVX。ネックは自動車税と燃費、故障時のパーツ調達の難しさ。これらをクリアできるのであれば、注目度も抜群なラグジュアリークーペを今こそ所有してみてはいかがだろうか?
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みんなのコメント
排気量3.3リッターの自動車税なんて、年間数万円程度。
燃費も、まさかこれ買って毎月何千キロも走るつもりじゃなし、リッター8キロ走るなら全然問題ないでしょう。
マスゴミのこの手の煽りのせいで、旧車も大排気量車も日本からは全滅ですわ。
かくして日本人誰もが、経済的で便利なクルマばかりを車検のたびに乗り換えるようになりましたとさ。