■過激な乗り味ではない世界最速FFモデル
シビックタイプRの試乗と聞いて、そわそわと興奮するのだから僕(木下隆之)はまだ衰えていなようです。いや、むしろかつてのタイプR神話の数々を知るからこその興奮なのか、そのあたりは曖昧ですけれど、赤バッジのタイプRが古今東西、走り好きの琴線をブルブルと振るわせるのは間違いがなさそうです。
新型「シビック」9月29日発売 「TYPE R」は450万円 ホンダ(写真95枚)
新型シビックタイプRは、外観の印象が物語るように攻撃的な性格の持ち主です。世界一過激なサーキットとされているニュルブルクリンクで「7分23秒8」というタイムを記録したことで世界をアッと言わせたのです。
ニュルブルクリンクはドイツの片田舎にあるサーキットです。タイム計測が行われたのは1周20.8kmで、コース幅は狭く路面は荒れており、アップダウンも激しく、「カーブレイクコース」といった異名が与えられているほど、クルマにとって難所なのです。
そんなコースですから、世界の走り自慢のマシンが集結し、タイム合戦が繰り広げられるわけで、ニュルブルクリンクのタイムが運動性能を表す指標にもなっているのです。そこでシビックタイプRが前輪駆動車として世界最速タイムを記録したわけですから、速いことに異論はありません。
搭載するエンジンは2リッターターボであり、最高出力320馬力、最大トルク40.8kg-mを炸裂させます。組み合わされるミッションは、6速MT。そんな攻撃的なパワートレーンが、ワイドトレッドかつロングホイールベースのボディに詰め込まれているのです。リアサスペンションはマルチリング式とよばれる複雑で高性能な形式が採用されています。つまり、驚くほどパワーがあり、腰を抜かすほどコーナリングが安定しているというわけです。
エンジンは、いまどき珍しいほど吹け上がりがよく、7000rpmという高回転域までバチンと弾けます。しかも、地を這うかのような低いドライビング感覚なのです。FF(フロントエンジン・フロントドライブ)世界最速記録を叩き出したことは当然の結果かもしれません。
ただし、そんな武勇伝から想像するほど、走り味は激辛ではありません。エンジンは低回転からトルクフルですので、エンストの心配をするほど神経質ではありません。マニュアルミッションですから、二の足を踏む人もいるかもしれませんが、そんな心配は無用です。
ちなみに、変速時のヒール&トーを代行してくれる「レブマッチシステム」が備わっています。減速時に空吹かしでエンジン回転を合わせるのがスポーツドライビングでは要求されますが、このシビックタイプRならその必要はありません。システムがプロドライバー並みに完璧な操作をしてくれました。
■過去のタイプRを知る人には物足りないかも?
乗り心地も優しいとおもえます。シビックタイプRは電子制御サスペンションを始め、ステアリングやミッションやエンジン制御等が、好みにより3段階でチョイスすることができます。乗り心地のいい「コンフォート」モードでは優しい乗り味に終始します。もっともハードな「+R」はニュルブルクリンクで最速を叩き出した仕様ですが、それでも閉口するような乗り心地の悪さはありませんでした。
もともとが軽量ボディであり、パワーは十分すぎるほど備わっています。レーシングカーのようにガチガチにしなくても、早く走れるのでしょう。いい車とはそういうものです。優しいとか激辛ではないと言った感覚的な表現は、人によって受け取り方が異なるはずですがリポートとは難しいものです。
かつての激辛シビックタイプRを知るものにはとてもマイルドな感覚だと言えるでしょう。触れるだけで火傷をしそうなあの感覚が良かったというのなら、ちょっと物足りないかもしれません。
ただ、最近の乗用車に慣れた人には、この激しい走り味は激辛に思うかもしれません。世界最速なのですから、もちろん軟弱であるわけもありません。
つまり、きわめて現代的に味つけされているのがシビックタイプRだといえるのです。
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