2005年の東京モーターショーで展示され、「日本で最初の新世代クリーンディーゼル乗用車、2006年内に日本市場導入予定」と話題を呼んだメルセデス・ベンツE320CDI。Motor Magazine誌では、正式日本導入発表を前に、東京モーターショーへの展示と事前テストのために上陸したこのクルマの試乗を行なっている。その後、2006年8月にEクラスのマイナーチェンジとともに正式発表となる、メルセデス・ベンツE320CDIの導入先行インプレッションを振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年4月号より)
ヨーロッパで驚異的な進化を遂げたディーゼル
その違いを知るのには、さほど時間は掛からない。ATをDレンジに入れ、アクセルペダルに乗せた右足に軽く力を入れる。メルセデス・ベンツの常で走り出しはゆったりしているが、それでも気分的には半拍も待たないうちに車体がスッと前に進み出す。かと思ったら、そこから先はトルクが潤沢に沸き出しはじめ、エンジン回転の高まりを待つまでもなく、みるみる速度が乗っていく。タコメーターを見ると、まだ2000rpmも回っていないのに……。
【くるま問答】トヨタ2000GTのサイドにある四角い部分には、いったい何が入っているのか?
これは、昨年2005年10月に開催された東京モーターショーのプレスデーにて日本への導入が発表された、メルセデス・ベンツE320CDIのファーストインプレッションである。走り出してすぐに明らかにガソリン車とは違うテイストを体感させてくれるヨーロッパの最新のディーゼル乗用車に乗れる機会が、日本にもいよいよ再びやってきたわけだが、ここから先の走りの詳細な印象をお伝えする前に、まずは現在のディーゼル乗用車を取り巻く状況に簡単に触れておきたい。
日本では、あの石原東京都知事による粉塵入りペットボトル振りのパフォーマンス以後、すっかりダーティなイメージとなってしまったディーゼル乗用車だが、この失われた月日の間に、実はヨーロッパでは驚異的なまでの進化を遂げている。
「うるさい・汚い・遅い」というイメージは完全に過去のもの。今ではむしろ「静か・クリーン・速い」、そしてもちろんエコなのがディーゼルだという認識が完全に定着している。そして実際、乗用車販売の実に半分以上をディーゼルが占めているのだ。
まず、もっとも注目なのはクリーンという要素だろう。たとえば、昨年2005年に施行されたEU4排出ガス基準における光化学スモッグなどの原因と言われるNOx(窒素酸化物)とHC(炭化水素)、黒煙の原因となるPM(粒子状物質)の排出量は、1990年代初頭のEU4施行前に較べて、それぞれ95%減、91%減とされている。しかも、ご承知のようにディーゼルは燃費に優れる。つまり地球温暖化の原因であるCO2排出量は圧倒的に少ない。これがクリーンとされる所以である。
もちろん、単にクリーンで燃費が良いというだけでは、ヨーロッパでの高いシェアを説明するには足りない。そこで出てくるのが、静か、速い、エコ、という要素。これについては、あれこれ説明するより実際の印象をお伝えした方がいいだろう。というわけで、冒頭の続きと行こう。
右足操作に即応するディーゼルエンジン
このE320CDI、エンジンは最新のオールアルミ製V型6気筒4バルブDOHCである。排気量は2987cc。ピエゾ式インジェクターの採用で1行程に複数回のきめ細かな燃料噴射を可能にした、噴射圧1600バールの最新式コモンレールシステムを搭載し、さらに可変ノズル式ターボチャージャーを採用することなどによって、本国仕様で最高出力224ps/3800rpm、最大トルク510Nm/1600~2800rpmを発生している。最高出力はガソリンのE350より48ps劣るものの、最大トルクは逆にE500をも凌駕しているのだ。なお、トランスミッションは7Gトロニックを組み合わせている。
冒頭に書いた発進時の豊かなトルク感も、この数字を見れば納得だが、本当の驚きはさらにその先にある。次に感嘆させるのは尋常ならざるレスポンスの良さ。前が開けたところでやおらアクセルを踏み込むと、間髪入れずに後ろから大きな手で押されるような加速が始まる。最初に2000rpmも回っていないのに… と書いたが、スペックを見ると、そこはもはや最大トルク発生回転域なのだから、それも当然。この打てば響くようなドライバビリティの良さは、ストップ&ゴーの続く場面では力強い味方となること請け合いだ。
ちなみにレスポンスが良いというのは、空吹かしした時の回転上昇の速さのことではなく、右足の動きに対して即座にトルクが沸き出すその特性のことを指す。とにかく操作に対するツキが良いのだ。
そのトルク感をさらにダイレクトに味わいたいと思ったなら、いよいよ全開にしてみれば良い。グイッと踏み込むと、7Gトロニックがショックなしに素早くギアを2段落とすや、一瞬の溜めのあと、1.7トンの車重を忘れてしまうような、まさしく怒濤の加速を開始するのだ。
レブリミットは4000rpmほどと低めだが、そこまでの盛り上がりは一気で、思わず身体が仰け反りそうなほどだ。7Gトロニックの滑らかな変速感と相まって、矢継ぎ早にGの連続が襲ってくるような、その加速は「凄まじい」の一言。E350だって十分速く爽快だと思っていたのに、この迫力を知ってしまうと戻れなくなりそうだ。
トルクがあるだけにギア比は高めの設定で、100km/h時のエンジン回転数は1450rpmほどでしかない。しかも、ディーゼルにつきものと思われたカラカラ音や振動はまったく気にならず、おかげで高速巡航時は静粛そのもの。実は以前にアウトバーンを200km/h超の速度で巡航したこともあるのだが、速度が高まるほどに、そのメリットは如実に感じられたのである。
参考までに燃費は、その時でリッターあたり9kmを記録した。つまり「静か、速い、エコ」の各要素はすべてハイレベルで満たされているとうことになる。これこそが、ヨーロッパでディーゼル乗用車が爆発的な人気に至った理由と言っても差し支えないだろう。参ハイブリッドと較べると、システム重量は軽いし、パワーフィールにいかにもエンジンらしい味がある。高速燃費も、おそらくこちらが上だろう。
今後の排ガス規制にはまだハードルがある
市街地などで感じる際立ったドライバビリティの高さと、安楽な高速巡航を実現する特性は、メルセデスというクルマに非常によく合っている。それは乗ってみれば誰もが納得のはず。そういう意味でも、ユーザーメリットは十二分にあると言っていいのではないだろうか。
もちろん、無責任に賞賛しようというつもりはない。誰もが一番引っかかるのが、クリーンになったとは言え、NOxとHC、PMの排出量は依然ガソリン車より多いという事実だろう。しかし、実は過去に経済産業省の方にうかがった話では、仮に2020年に乗用車の3割がディーゼルになるという前提で計算しても、2010年の時点での自動車全体が排出するNOxとPMの総量は、2000年比0.2~0.3%増しと、現時点よりむしろ少なくなるという。むしろCO2削減に無頓着過ぎる現在の国策こそ、バランスを欠いているとも考えられる。どちらかが絶対的な正義ではない。ガソリン車とディーゼル車が共存して互いのメリットを活かしていけばいいはずだ。
さらに、E320CDIは現状では2005年10月から施行された日本の排出ガス新短期規制をクリアできない可能性もゼロではないという点も挙げられる。だとすると、継続販売車と輸入車に与えられた2年の規制猶予期間を利用して行われる販売も、わずか1年かそこら後の2007年9月には新規制をパスする新たなモデルへの切り替えが必要となる。かつての自動車NOx法のように、ある年数を超えた自動車の継続車検が取れなくなるという事態はもう起こらないし、現状のE320CDIも十分クリーンだとは言え、これがどう解決されるかは興味深いところである。
いずれにせよ、これまでのイメージが覆ること必至のパワフルさを誇り、そして静かでクリーンな、つまりは上質きわまる走りっぷりは、確実にプレミアムな個性と認知されていくだろうと確信できるE320CDI。販売開始はおそらく秋頃、Eクラス自体のマイナーチェンジとほぼ同時になるに違いない。期待して待つことにしよう。(文:島下泰久/Motor Magazine 2006年4月号より)
メルセデス・ベンツ E320CDI 主要諸元
●全長×全幅×全高: 4818×1778×1449mm
●ホイールベース: 2854mm
●車両重量:1740kg
●エンジン:V6DOHCディーゼルターボ
●排気量:2987
●最高出力:224ps/3800rpm
●最大トルク:510Nm/1600-2800pm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
※欧州仕様
[ アルバム : メルセデス・ベンツ E320CDI はオリジナルサイトでご覧ください ]
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近所でそこそこ見かけるのはこちらだが。