ポルシェが理想とするフル電動スポーツカーであり、次世代モビリティであるタイカンの日本での試乗がついに叶った。今回の試乗は、電気自動車では異例の京都→長野→東京→栃木→東京という約1000kmほどのロングドライブも実施、そこでわかったターボと4S、2台のタイカンで詳細をたっぷりお届けする。(Motor Magazine2021年2月号より)
内燃機関でないのにターボ・・・。グレード名のワケは
アクセルペダルを踏み込むと、ポルシェタイカンは流れるように走り始めた。大きく、重い物体が動くときには、なにかしらの音や振動が起きるもの。ところが電気自動車(BEV)は、時として2トンを超す車重があるにもかかわらず、音も立てずに滑らかに走り出す。その様子があまりに現実離れしていることもあり、「BEVは未来からやってきた乗り物」という幻想をしばしば抱いてしまう。
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都内で初めてタイカンを走らせた時にも似たような感慨を抱いた。いや、それだけではない。これまで経験のない、新たな感動も同時に味わっていたのだが、その正体が何であるかに気付くまでには少しばかり時間がかかった。これについては、後ほど改めて説明しよう。
現在、タイカンには、3つのグレードが用意されており、価格が高い順番にターボS、ターボ、4Sとなる。「内燃機関でもないのにターボとは、いったいどういうこと?」という疑問が多く投げかけられたが、もはやターボはポルシェにとって過給器を意味するのではなく「パフォーマンスが高いモデルに与えられるグレード名」となっているのだ。
BMWの作るMINIが、もはや小さくないのにMINIを名乗っているのと、ちょっと似ているかもしれない。いずれにしても「BEV時代になってもポルシェはポルシェ」であることを訴えるために、このグレード名を用いたのだろう。それは4Sを追加したことでさらに明確になった。
4S/ターボ/ターボSでは出力とトルクが違っている
ターボとターボSの主な違いは、モーターの出力と最大トルク値にある。ターボの最高出力680ps/最大トルク850Nmに対してターボSは最高出力761ps/最大トルク1050Nmとなる(出力はオーバーブースト時)。この結果、0→100km/h加速は、ターボの3.2秒に対してターボSは2.8秒とはっきり差がつけられた。
ただし、バッテリー容量は93.4kWhで共通である。このため航続距離(WLTC値)は、ターボの383−452kmに対してターボSは390−416kmとなる。ターボの方が航続距離の幅が広いのは謎だが、回生ブレーキの効率などが影響しているのかもしれない。いずれにせよ、最高出力が大きくなると決まって燃費が悪化する内燃機関とは、また違ったファクターがありそうだ。
いっぽうの4Sは、オーバーブースト時の出力が530ps、最大トルクが640Nmに抑えられているが、それ以上に大きな違いがバッテリーの容量で、ターボ/ターボSより15%ほど少ない79.2kWhとなる。そのおかげもあり、価格は1448万1000円と、ターボの2023万1000円やターボSの2454万1000円に比べて割安感がある。しかし、航続距離は335−408kmに留まる。
ところが、4Sにパフォーマンスバッテリープラスというオプション(108万6000円)を追加すると、バッテリー容量はターボ/ターボSと同じ93.4kWhとなり、航続距離も389−464kmまで伸びる。オーバーブースト時の出力も571ps、最大トルクも650Nmにアップ。つまり、ターボ/ターボSほどのパワーが必要なければ、4Sとパフォーマンスバッテリープラスの組み合わせは、かなり魅力的な選択肢なのだ。
今回は、その4S+パフォーマンスバッテリープラスとターボの2台で高速道路、一般道、ワインディング路で試乗したので、その様子をリポートしよう。
先に試乗したのはターボ。これが面白いことに、先日試乗したタイプ992の911ターボSと極めて近い印象だった。とにかくクルマの動きがどっしりしていてスタビリティ感が極めて強い。しかも、アンチノーズダイブがかなり利いているらしく、強めのブレーキをかけてもほとんどノーズは沈まない。
これは加速時も同じで、スクワットが意識されることはほぼ皆無である。850Nmの大トルクを受け止める足まわりだから、こうせざるをえなかったこともわかるが、おかげで荷重移動をしている実感が湧かず、しかもロールもほとんどしないため私にはコーナリングの限界点が掴みづらかった。
ただし、タイカンはコーナリングの際に荷重移動なんかしなくても、ハンドルを切れば切っただけ自動的にノーズの向きは変わっていく。この点も、911ターボSと実によく似ていると感じた。
一方の4Sは、ターボよりも足がしなやかに動く。絶対的なストローク量は決して大きくないものの、ある程度以上の加速や減速であればピッチングを看取できるから、自分で荷重移動している実感はターボより強い。
おかげで前輪にしっかり接地圧をかけて曲がっている感触が味わえ、足がよく動くクルマでドライビングのイロハを学んだ世代には扱いやすい。もっとも、ハンドルさえ切れば荷重移動をさぼってもグイグイと曲がっていく点はターボとよく似ていた。
そんな、あまりにも簡単にノーズの向きが変わるところは、あたかもブレーキ トルクベクタリングばの利きが強いクルマのようだが、タイカンには、PTV(ポルシェトルクベクトリング)プラスの文字は見当たらない(ターボはPTVプラスを標準装備)し、トルクベクタリング特有の不自然さも感じない。それでもタイカンは本当によく曲がる。しかもコーナリング性能が恐ろしく高く、公道ではコーナリング限界まで追い込めなかった。これもまた、驚くべきことだろう。
4Sであっても動力性能にまったく不満を覚えなかった
加速もまた凄まじい。ターボの分厚いトルク感はまさに911ターボを彷彿とさせるが、加速の様子というか印象は、内燃機関を積んだクルマとはひと味違う。BEVの方がアクセルペダル操作に対するレスポンスが鋭いのもそうなのだけれど、発進直後の加速度の立ち上がりがこれまでのエンジン車とはまったく違っていて、そのせいでSF映画に出てくる宇宙船のワープやテレポーテーションを連想する感覚を味わえる。これもまた、BEVが未来的だと思うもうひとつの理由である。
ターボと4Sの比較でいえば、やはりターボの方が力強く、加速力も一段上だが、ほとんどのドライバーにとっては4Sのパフォーマンスで十分以上だろう。
というわけで私は4Sに惹かれた。乗り心地のしなやかさ、荷重移動している実感が得られる点、そして動力性能にまったく不満を覚えなかったからだ。それに比べればターボは過剰な性能と言っていいが、過剰だから惹かれるという感覚もよく理解できる。したがってターボか4Sかはあくまでも好みの問題と結論づけられる。
徹頭徹尾、ポルシェの血統を受け継いだスポーツカーである
取材を終えて都内に向かう高速道路を走りながら、ふと気付いたことがあった。一般的にいって高回転域ではモーターの効率が低下するため、BEVは高速走行が苦手とされる。そうでなくとも、ここ数年ヨーロッパからやってきたBEVはいずれもSUVタイプで車高が高く、空気抵抗が大きい。
ところがタイカンはスポーツカーらしく全高は138cmである。そのおかげで空気を無理やり切り裂きながら走っている感覚が少なく、高速クルージングにもストレスを感じにくい。おまけに、電気で走るスポーツカーに乗るのはこれが初めて。つまりBEVの刺激とスポーツカーの刺激が重なり合って私はこれまで体験したことのない特別な高揚感を味わっていたのだ。これもまた冒頭に記した未来からやってきた乗り物、という幻想を抱いた理由のひとつでもある。
そう、やはりタイカンは徹頭徹尾スポーツカーであり、ポルシェの血統を正しく受け継いたモデルなのである。だから、タイカンはもちろん環境に優しいクルマではあるけれど、そこを第1に考える必要はない。ポルシェが作る刺激的なスポーツカーのパワープラントがたまたまモーターだった。それで十分ではないか。
おそらくタイカンのことが本当に気に入れば、充電環境をはじめとするさまざまな問題は些細なことにしか思えなくなるだろう。BEVにスポーツカーを掛け合わせたタイカンには、それくらい強烈な魅力があると思う。(文:大谷達也/写真:永元秀和)
ポルシェ タイカン ターボ<4S>主要諸元
●全長×全幅×全高=4965×1965×1380mm
●ホイールベース=2900mm
●車両重量=2340kg(2280kg)
●モーター最高出力=460kW(625ps)<320kw(435ps)>
●モーター最大トルク=850Nm<640Nm>※
●駆動方式=4WD
●車両価格(税込)=2023万1000円<1448万1000円>
※ローンチコントロール時
[ アルバム : ポルシェ タイカン はオリジナルサイトでご覧ください ]
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