はじめに
昔ながらのワゴンは、いまや絶滅危惧種のように言われるが、よくよくみてみると、いまだに新型車が多く市場に出回っている。
【画像】写真で見るフォルクスワーゲン・パサートとライバル 全4枚
たとえば、BMW5シリーズやメルセデスEクラスはフルモデルチェンジして間もないし、アウディA5アバンとは数週間前に新型の試乗をした。ボルボも、少しの間だけ英国で販売していなかったV60とV90を再投入している。少なくとも、欧州市場ではまだまだかなりポピュラーなジャンルだ。
ワゴンの失われることのない実用性や人気、そしてパサートの名跡がゴルフよりも1年早く登場したフォルクスワーゲンの現行車としては最古参であることを考えれば、世代交代せずに消えるとは考えられない。そうして登場した新型パサートは、セダンを設定せず、ワゴンのみのラインナップとなった。
とはいえ、この9代目は、これまでとまったく異なる起源を持っている。開発はスコダ主導で、スパーブと並行して行われた。もっとも、以前にはアウディA4ベースで開発されたこともあるのだが。
われわれはディーゼルのスパーブをすでにテストしており、その際には満点をつけた。果たしてパサートは、チェコ生まれの兄弟車と共存するに足る存在感を示すことができるだろうか。
意匠と技術 ★★★★★★★★☆☆
スパーブをはじめとするフォルクスワーゲングループのほかのクルマと同じく、B9型パサートはおなじみMQBエヴォプラットフォームの最新版を採用。その進歩した点は主にふたつだ。
ひとつは車内テクノロジーで、これは後ほど説明する。もうひとつは25.7kWhと大型化したハイブリッド駆動用バッテリーが、荷室への影響を最小限に抑えながら搭載できるようになったことだ。その理由は、まずバッテリーの組成が改良され、エネルギー密度が上がったこと。次に、バッテリーを後席下に、45Lの燃料タンクを荷室床下に、それぞれ積んだことだ。
ドイツ本国では、ガソリンとディーゼルの幅広いラインナップを用意し、FFと4WDが選べるが、英国ではかなり仕様が限られる。エンジンは全車1.5Lの4気筒ターボで、エントリーレベルはマイルドハイブリッドのeTSI。ISGによりわずかなアシストが入るのみで、150psを発生する。
そのほかにPHEVが2車種あり、どちらも同じエンジンに、116psの電気モーターを組み込んだ6段DCTを組み合わせる。テストするのは下位仕様で、システム性能は204ps/35.7kg−m。上位仕様はエンジン出力が27psアップし、システムでは272ps/40.8kg-mだ。これにより、この2台の0−100km/h加速タイムは1秒の差がついている。
拡大されたバッテリーは、充電時間が短縮された。交流普通充電は3.6kWから11kWへ引き上げられ、40kWの直流急速充電も可能となった。
ボディサイズは、全長が先代より144mm伸びた。そのうち、ホイールベースが占める分は50mm、残りはオーバーハングだ。
内装 ★★★★★★★★☆☆
先代パサートは2015年の登場で、フォルクスワーゲンの現行車種とは世代が異なる。そのため、新型のインテリアはまったく違うフィロソフィに基づく。たくさんのボタンやアルミのトリムは姿を消し、大きなディスプレイや複雑なムード照明が備わった。
ありがたいことに、MIB4と呼ばれるフォルクスワーゲンのディスプレイを用いたインターフェイスの最新版はじつにうまく機能してくれる。見慣れたボタンがステアリングホイールを飾り、車内温度調整用のタッチバーは夜間用のバックライトがついた。メインのタッチ画面は、常時表示やカスタム可能なショートカットが並ぶ。運転中に頻繁に使う機能のほとんどは、1度か2度のタップで呼び出せる。
そうは言っても、グラフィックの欠陥もいくつか目につき、テスト車のコネクティッド機能はうまく働かなかった。また、兄弟車のスパーブよりモダンでハイテク感は強いが、必ずしもより高級感があるわけではない。
エレガンス仕様のテスト車は、アップグレードされたエルゴアクティブことマッサージ機能付きコンフォートシートを装備。手動と電動が入り混じった調整機能はやや風変わりだが、快適性やサポート性はかなり高い。
後席スペースは並はずれていて、レッグルームはメルセデスEクラスを65mm上回る。荷室は、ハイブリッド用バッテリーによる妥協が明らかというほどではない。マイルドハイブリッド車の高さ調整式フロアは備わらないが、床下に充電ケーブルを収めるスペースはある。フック類も備わり、後席はレバー操作でフラットにフォールドできる。
走り ★★★★★★★★☆☆
テスト車のパサートに積まれたプラグインハイブリッドのパワートレインは、少し前にゴルフでも試乗している。ゴルフをテストした際は路面が濡れていたが、今回はドライコンディションのおかげで、より車体の重いパサートでも、0−97km/h加速はゴルフと同じ7.2秒だった。
パフォーマンスはなかなかだが、このパワートレインはそこに積極的ではない。1.5Lガソリンユニットは、回転を上げるとかなり苦しそうな音を出す。
しかしながら、電力のブーストにより、エンジンを3000rpm以上回さなくても活発に走ることができる。そういう走り方をすると、このパサートはゆったり走れるクルマになる。スポーツモードやマニュアルモードもあるが、期待したような働きはしないので、使わなくてもいいだろう。
EVモードでは、0−97km/hが11.2秒、0−113km/hが15.2秒。とくに速いわけではないが、交通の流れに乗るには十分以上で、そこそこ慎重に走れば高速道路の制限速度をキープするのも問題はない。
ブレーキはかなり効き、ペダルでもスロットルオフでの回生でも、予測できるレスポンスを得ることができる。回生ブレーキはいく通りものセッティングが用意されていて、空走モードも含めて調整可能だ。
272ps版のティグアンに試乗した経験からすれば、われわれのおすすめは今回の204ps版だ。272ps版はちょっと速いだけで、ダイナミックさやドライビングの熱中度は変わらない。
操舵/安定性 ★★★★★★★★☆☆
常にいい走りが期待されるフォルクスワーゲンだが、それはパサートも例外ではない。ドライでもウェットでもグリップレベルは良好で、ボディコントロールはリラックスしているがルーズではなく、ステアリングのペースは直観的で、コーナーでの手応えは徐々に重くなる。ドライビングは特別スポーティでもファンでもないが、うれしいくらい調和がとれている。
最近のフォルクスワーゲン車がそうであるように、アダプティブダンパーのDCCは装着をおすすめしたい。テスト車はサイドウォールの厚い17インチ仕様だったが、低速時には路面の穴や波打ちをややハッキリと拾ってしまいすぎる。乗り心地は、速度が上がればスムースになるが、市街地ではアダプティブダンパーによる高級感がほしくなる。
静粛性は、高速道路ではかなりのものだが、新たなスタンダードとなるほどではなかった。
車線内運転支援のトラベルアシストが付随するACCはパサート全車に装備される。かなり熟成されたシステムで、他車線の車両にやすやすと惑わされることはないし、減速もスムースで急ブレーキを掛けるようなものではない。
発進と停止を繰り返す渋滞では唐突な動きをすることもあるし、通常のクルーズコントロールに切り替えることはできない。レーンキープと速度超過警告は平均して上々で、オフにするのは簡単だ。
購入と維持 ★★★★★★★★☆☆
新型パサートの最安値は、マイルドハイブリッドのライフグレードの3万8505ポンド(約735万円)で、PHEVのeハイブリッドは4万4105ポンド(約842万円)から。ライフでも装備内容はかなり充実しているが、重要度の高いオプションも用意されている。テスト車と同じエレガンスでは、パノラミックサンルーフなどの豪華装備が加わり、Rラインはスポーティなスタイリングになる。
Eハイブリッドの価格は、かなり競争力のあるもの。スコダ・スパーブと同等で、プジョー508より安い。ボルボやBMW、メルセデスなどのプレミアム勢よりはさらに安価だ。
EV走行距離は公称129kmで、これに並ぶ競合車はほとんどない。高速道路中心でのテストでは、エンジンがかかるまでに117kmほど走った。電費は5.8km/kWhと、なかなか良好だ。充電時間が短くて済むことを考えると、EVとして使うことも可能だ。もっとも、テストで計測したツーリングや日常走行の燃費が示すように、バッテリーが尽きても経済的だ。
EVモードに入れていても、バッテリーがエンプティになるよりだいぶ前にエンジンがかかって、航続距離テストの試みが妨げられたことも何度かあった。普通に使うなら、そこそこ気になるポイントだろう。しかしこれは、このクルマのコントロールシステムの修正が進めば解決できそうに思える。5分ほど走り出そうとしないことも2度あった。いずれの場合もバッテリーが空だったのだが、それにしても起きてはならないことだ。
車両の保証は3年もしくは9.7万kmで、ハイブリッドバッテリーは8年か16万kmまで容量70%維持が保証される。ほかのメーカーはこれを上回る保証を提供しており、信頼性調査によればMQB使用車はトラブルフリーとは言えない。
スペック
エンジン
駆動方式:フロント横置き前輪駆動
形式:直列4気筒1498ccターボチャージャー、ガソリン
最高出力:150ps/5000-6000rpm
最大トルク:25.4kg-m/1500-4000rpm
ハイブリッドアシスト:永久磁石同期式モーター
モーター最高出力:116ps
モーター最大トルク:35.7kg-m
駆動用バッテリー:25.7/19.7kWh(総量/実用量)
システム総合出力:204ps/-rpm
システム総合トルク:35.7kg-m/-rpm
馬力荷重比:115ps/t
トルク荷重比:20.0kg-m/t
エンジン比出力:100ps/L
ボディ/シャシー
全長:4917mm
ホイールベース:2841mm
オーバーハング(前):957mm
オーバーハング(後):1119mm
全高:1497mm
足元長さ(前席):最大1130mm
足元長さ(後席):最大855mm
座面~天井(前席):最大1015mm
座面~天井(後席):950mm
積載容量:530~1760L
構造:スティール、モノコック
車両重量:1774kg(公称値)/1836kg(実測値)
抗力係数:0.25
ホイール前・後:7.5Jx17
タイヤ前・後:215/55 R17 94W
ハンコック・ヴェンタス・プライム4
変速機
形式:6速DCT
6速・70/80マイル/時(113km/h/129km/h):2172rpm/2482rpm
燃料消費率
AUTOCAR実測値:消費率
総平均:30.5km/L
ツーリング:15.8km/L
日常走行:23.5km/L
動力性能計測時:10.5km/L
メーカー公表値:消費率
低速(市街地):-km/L
中速(郊外):-km/L
高速(高速道路):-km/L
超高速:-km/L
混合:258.8km/L
燃料タンク容量:45L
現実的な航続距離:1371km(平均)/708km(ツーリング)/1059km(日常走行)
サスペンション
前:マクファーソンストラット/コイルスプリング、スタビライザー
後:マルチリンク/コイルスプリング、スタビライザー
ステアリング
形式:電動機械式、ラック&ピニオン
ロック・トゥ・ロック:2.6回転
最小回転直径:12.0m
静粛性
アイドリング:-dBA
全開時(3速):75dBA
48km/h走行時:59dBA
80km/h走行時:63dBA
113km/h走行時:68dBA
発進加速
テスト条件:乾燥路面/気温11℃
0-30マイル/時(48km/h):2.8秒
0-40(64):4.0秒
0-50(80):5.4秒
0-60(97):7.2秒
0-70(113):9.2秒
0-80(129):11.7秒
0-90(145):14.7秒
0-100(161):18.6秒
0-110(177):23.2秒
0-402m発進加速:15.6秒(到達速度:148.4km/h)
0-1000m発進加速:28.1秒(到達速度:190.4km/h)
0-62マイル/時(0-100km/h):7.6秒
30-70マイル/時(48-113km/h):6.4秒(変速あり)/10.1秒(4速固定)
ドライ制動距離
30-0マイル/時(48km/h):8.7m
50-0マイル/時(64km/h):27.2m
70-0マイル/時(80km/h):53.2m
60-0マイル/時(97km/h)制動時間:2.69秒
ウェット制動距離30-0マイル/時(48km/h):9.9m
50-0マイル/時(64km/h):27.5m
70-0マイル/時(80km/h):54.7m
60-0マイル/時(97km/h)制動時間:3.08秒
結論 ★★★★★★★★☆☆
フォルクスワーゲンは進歩している。マルチメディアの問題点は解決し、使い勝手は向上し、新導入されたPHEVシステムは超長いEV航続距離を実現する。電費も燃費もみごとなものだ。
とはいえ、問題がすべて解消したわけではない。信頼性は心配が残るし、同じ価格でスコダ・スパーブという、もっとくつろげて使いやすいインテリアを持つクルマが手に入る。
それでも、この大きくて無駄のないワゴンの好ましい部分は、枚挙にいとまがない。
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