レース終盤、デグナーにおいて典型的“漁夫の利”で松浦孝亮は2番手のボジションを得た。「前の周のシケインで大湯(都史樹)のインを突こうかと思ったんですけど、(鈴木)亜久里さんのチームだし、あんまり無理していくのはよくないなと」自重。しかし前の2台の間で何か起きそうな雰囲気があったので間合いを詰めたのだという。長年お世話になった亜久里さんのチームだからと引くのも彼らしいが、何か起きそうなのに距離を取らずに詰めていくのも彼らしい。
結果、タイヤが終わりかけたジョアオ・パオロ・デ・オリベイラに大湯がデグナーのブレーキングで追突するような形で絡み、松浦の進路は開けた。“漁夫の利”とは書いたが、何もせずに幸運が舞い込んだわけではない。オリベイラの56号車が2分4秒台にペースを落としている状況下、2分2秒台でコンスタントに走れていたからこそ、形をつくることができた。終盤のペースはGT300全体のなかで確実にトップだった。
想定外の2位表彰台。一夜にして息を吹き返したRAYBRIGの“ビッグチェンジ”《第3戦GT500決勝あと読み》
55号車の大湯もまたオリベイラほどではなくともタイヤが厳しいのは背後からみてとれたと松浦。55号車はブリヂストン、松浦の18号車UPGARAGE NSX GT3とオリベイラの56号車リアライズ 日産自動車大学校 GT-Rはヨコハマタイヤを履く。一発、ロングとも現状はブリヂストンをヨコハマが上回るのが定説ながら、このレース終盤で逆転する状況がつくれていた。
しかも、56号車に対して、18号車は3ランクもソフトなタイヤを選んでいた。ここにはチャンピオンエンジニア移籍が大きく貢献しているとみて間違いない。
今年から18号車はメンテナンスを55号車ARTA NSX GT3をチャンピオンに導いたセルブスジャパンに変更。セルブスジャパンに所属し55号車を昨年担当した一瀬俊浩エンジニアが18号車を担当することになった。
「普通なら、そんなこと許してくれないですよね。その点でも亜久里さんに感謝しています」と松浦。同じNSX、同じヨコハマタイヤで苦しんだ去年と何が違うのか?
松浦と組む小林崇志は「去年のメンテナンスに対して不満の言うつもりはありません」と前置きした上で「一瀬さんはけっこうトリッキーなセットアップをします」と評する。
「順番を追っていくと、ボクがヨコハマさんのタイヤを使うのが始めてだったので、まずはボクが考えるベースのクルマをつくるのがテストでやったことです。そこから開幕戦はそれの進化バージョンでいって、普通に考えるエンジニアのベストはラウンド1で完成しました。でもそれだとプロが乗るのに対しては、乗りやすくそこそこパフォーマンスは出るのですが速いクルマではない。他社メーカーさんのタイヤを履くチームも速いですし、そこと戦っていくためにも、いま使っているタイヤを活かすために、少しセオリーと違うことを第2戦でやり始めました。第2戦は外したんですけど、第3戦今回持ち込んだセットは当たりました。柔らかいタイヤを使えるようなクルマをつくっています」と一瀬氏。
ソフトタイヤを使いこなすその状況から、一瀬氏はGT3の弱点をつかんでいるのではないかと想像する。多くのGT3車両は生産車のサスペンションをベースとしており、レーシングカーとしてはジオメトリーが理想とはかけ離れている。
それを理解した上でどのようにタイヤを活かすのかイメージができているからこその、終盤の活躍であり、もしかするとそれとの相反関係で一発は少し出にくい方向性にクルマがあるのかもしれない(18号車は予選9位)。
GT500級ドライバーふたりではないとポイント獲得も難しいコンペティションレベルとなり、タイヤウォーズも過熱しているGT300にあって、独自のアプローチは注目される。
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