新東名・東北道の一部区間で引き上げ
2019年3月1日、ついにニッポンの高速道に制限速度120km/h区間が出現する。これで120km/hで巡航できる、高速道がスムースに流れる、とうっかり調子に乗ってアクセルを開けると速度違反で捕まることにもなりかねないからご注意を。さて、今回120km/hに制限速度が引き上げられる路線は限定的。新東名高速道の新静岡IC~森掛川IC間の上下線約50km、東北道花巻IC~盛岡南IC間の上下線約27km、まずはこのふたつの区間のみだ。
「煽られる原因」を知っておけばトラブルは防ぎやすい、その代表例3つ
クルマの進化に速度制限が対応できていない
今回、制限速度の引き上げられる新東名高速道路の区間をよく利用されている静岡県に住む自動車ジャーナリストの山本シンヤさんに現状をたずねてみた。
「同じ区間で前回は2017年11月1日から制限速度は100km/hから110km/hに引き上げられたのですが、静岡県警高速隊の発表によると、その前後を比較すると人身事故は半分近く減少したそうです。元々、新東名の設計速度は120km/hなので当然と言えば当然なのですが、この結果は『速度を上げても事故は増えない』という裏付けになったわけです」。 続けて「クルマはこの数十年で大きな進化を遂げてきたのに、『なぜ制限速度は昔のままなののか?』とドライバーであれば一度は考えたことがあると思います。その理由は様々ありますが、そもそも『速度を上げると事故が増える』と言う固定概念を崩すことができなかった事が大きいでしょうね。しかし、その流れは少しずつ変わり始めていますね」。
すなわち、さかのぼること約1年前から制限速度110km/hでの試行を実施してきたわけだが、事故状況や実勢速度といった調査の結果、好状況が読み取れることとなり、120km/hに引き上げてまたしてもの試行を続行する、というわけだ。ただし、これはあくまで1年間をメドとした「試行」となる。
また、今回の速度引き上げは大・中型乗用自動車や中型貨物自動車、準中型自動車、普通自動車、125cc超の自動二輪車のみ。大型トラック、トレーラーは最高速80km/hのままなので、こちらの速度差には充分な注意が必要だろう。
ますますルールやマナーが問われる時代
この速度差について山本シンヤさんは警鐘を鳴らす。
「40km/hの速度差がどのように影響するのか気になる所ですが、どちらのドライバーにも言えることは、今まで以上にマナー違反をしない事を心掛けることだと思います。私は毎日のように高速道路を走っていますが、追い越し車線を走り続ける人や、後続車が接近しているのに追い越し車線にフッと出てくるトラックを良く見かけます。これらが『あおり運転』を誘発してしまう要因の一つかもしれません。あおり運転に巻き込まれないためには、『自分は制限速度を守っているから相手が悪い』ではなく、まずは『空気を読む運転』を心掛けてほしいと思います。ちょっとした心配りで嫌な思いをせずに済むのですから」。
ちなみに山本シンヤさんいわく、高速道路では「バックミラーを頻繁に見る」を意識して運転しているという。後ろのクルマの動きが解ると、おのずと「上手い抜かれ方」も分かってくるのだとも言う。
「鉄道は朝のラッシュ時でもシッカリ整列乗車、エスカレーターでは歩く人のために右側を開けることができる国民なのに、なぜ高速道路でそれができないのか不思議でなりません。今回の速度引き上げをキッカケに、今一度『運転マナー』について考えてみる必要があると思っています」。
制限速度と実勢速度が乖離している
『なぜ制限速度は昔のままなのか?』と山本さんが抱く疑問は当然だが、関係の統計資料などを探ってみると、1992年から『規制速度決定手法に関する調査研究』なるものが実施され、2006年からは同検討委員会(委員長/太田勝敏 東洋大学教授)により本格的な調査に着手。実に13年も前から最高速度に関する調査研究が行なわれていたのが分かった。
そこで導き出されたひとつの解決策が“85パーセンタイル”という数値。これはどういうものかというと、だいたい85%の人が選択する速度領域を指す。つまり、現場で実際に走っている「実勢速度」を測り統計をとることにより、大方のドライバーが出している速度により道路状況等を勘案して、もう少し円滑な交通を実現しようじゃないか、というために使われる数値である。
この新しい数値により改善されるであろう速度規制は、高速道に限らず一般道にも及んでくるようだ。中央分離帯のあるバイパスなどは現状の制限速度よりもスピードを出せるように設計されているし、広く整備された国道などももう少し速度を出してもいいはずだ。
「みんな飛ばし始めたらアブナくないか?」との疑念も湧くが、安全が維持されている現状の85パーセンタイル実勢速度がすでにその速度域になっている。逆に住宅地やスクールゾーンは30km/h制限に引き下げるなどする、メリハリのある速度規制体系を再構築する方向に時代が動き出したということだろう。
警察庁は2009年に全国県警察・行政機関に「交通規制基準の一部改正について」を通達。ここ数年で、一気に全国規模で制限速度の引き上げが行なわれている。気付いている人はいると思うが、一般道でも、ついこのあいだまで40km/hだった国道が50km/hに変わった、という体験をしている人も少なくないはずだ。
実際、普段の生活でのドライブで制限速度が40km/hである時、アクセルをコントロールして40km/hを維持して走るのは軽自動車でも至難の業。40km/hで頑張って走っていると、「おりゃ、もっと速く走れよ!」と煽り運転のターゲットにされてしまうことにもなりかねない。これが50km/hになるだけで軽快感がまったく違うし、わずか10km/hの速度アップだが、ドライバーのストレスは半減しているのではないだろうか。
交通の流れが安定し、ドライバーのイライラも減り、交通安全性も高まる。速度取締りの速度域も10km/h高くなるとすれば大歓迎の規制見直しだ。もちろん安全運転は引き続き心掛けたい。
全国約2万キロの路線が制限速度見直し対象に
さて、この制限速度見直しだが、2016年度末時点で、全国2610区間5000kmで制限速度の引き上げを実施。それでも計画の約25%に過ぎず、見直し対象区間は全国8006区間1万9337kmにものぼっているという。順次見直しと引き上げが実施されていく予定だ。
また、最初から設計速度や安全性を高めた高規格道路については、一般道の法定速度60km/hを超える速度制限も進められていくだろう。たとえば千葉北道路には70km/h区間が、宇都宮北道路や国道1号浜名バイパスなどでは80km/h区間がすでに実施。全国のバイパスなど、高規格路線では70km/hに引き上げられた路線も多い。
記憶に新しいところでは、古屋圭司国家公安委員長が「取締りのための取締り」に疑問を呈し(2013年6月4日閣議後の記者会見での発言)大きく報道されたことがある。古屋委員長は前日の全国警察本部長会議で取締りの実体調査を求めており、国民感情との乖離を埋める方向へと動いた要因のひとつになったと言えるだろう。
というわけで、ニッポンの交通体系をもうすこし円滑・高速化しつつ、実勢速度に合わせた制限速度を実施し、これまでの速度違反の取締りにも、いまいち納得いかない国民感情とのズレも解消できるといいのだが….。
※図表の出展は警察庁および静岡・岩手県警察より引用
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