フルモデルチェンジした新しいニッサン「ノート」に設定された「オーテック・クロスオーバー」に小川フミオが試乗した。
完成度の高い“シティカー”
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日産「ノート」シリーズは、よく出来た“シティカー”だ。“シティカー”とは、街乗りを中心に快適に使えるクルマである。10月に発売されたばかりの「オーテック・クロスオーバー」は、スノースポーツなどを趣味とするひとにも勧められる、やや車高が上がったバリエーションだ。
シティカーといえば、好例は、1960年代、ロールス・ロイスやベントレーのオーナーが、混雑したロンドン市内で乗るためにとミニを購入したことが頭に浮かぶ。ザ・ビートルズのお歴々もロンドンではミニに乗っていた(ジョージ・ハリスンはメルセデス・ベンツ600を自分で運転していたけれど)。
ノートは、ほぼ4045mmの全長に、1695mmの全幅、それに立体駐車場にもおさまる1505mmの全高と、街中で使いやすいサイズだ。
そのうえ、エンジンでバッテリーを充電しながら電気モーターを駆動力に使う「e-POWER」は、発進時も加速時もトルクをたっぷり感じさせ扱いやすい。
私は、2020年12月にノートがモデルチェンジしたとき、ナチュラルな操縦感覚に感心した。そののち、今年8月に上級の「ノート・オーラ」に乗った際は、スムーズさにパワフルさが加わり、ハンドリングもよいのが、驚きといっていいほどだった。
日産自動車グループ内で特装車などを手がけているオーテックジャパンが、ノートをもとに開発したSUVのオーテック・クロスオーバーも、同様に、よく走るクルマだ。
クロスオーバーならでは
試乗車の「FOUR」という4WDの場合、モーターを2基搭載する。フロントは100kWの最高出力に300Nmの最大トルクで、リアが50kWに100Nmだ。
クロスオーバーをクロスオーバーたらしめるには、ゆとりのあるグラウンドクリアランスが重要。また、オフロード走行のために、専用のサスペンションシステムを採用したという。車高を25mm持ち上げるとともに、操縦安定性を確保することが狙いだったという。タイヤサイズも、185/60R16から195/60R16に変わった。
きびきびとした走りの感覚は通常のノートと同等に感じられ、いっぽう足まわりは、鋭い突き上げなどをうまくこなしていた。
車高を上げると、サスペンションストロークが制約を受けて、乗り心地が悪化していくケースが多いなか、クロスオーバーの開発陣はよくやっていると思う。
オーテックジャパンによると、車高を上げたことに応じて、サスペンション・システムのスプリングレートを最適化。ダンパーは伸びがわで減衰力を高めて、きびきびしたハンドリングとしなやかな乗り心地の両立をはかったと説明される。
フロント・サスペンションにはさらに、リバウンドスプリングを採用。コーナリング時に荷重がかかりにくい内側のスプリングが伸びすぎるのを抑制する働きを担わせ、内輪が浮き上がるのを防いでいる。それによって、カーブを曲がっていくとき車体が傾く(ロールする)バランスを最適化して、安定感を生み出しているのだ。このように、各所にていねいに手が入っているのも、クロスオーバーならでは特徴である。
試乗した4WDシステムは、ベースのノートとおなじだ。カーブを曲がるときの回頭性のよさを目指して、前後とも内がわのタイヤに適宜ブレーキをかけて、クルマのノーズ部分がすっと内側を向くような設定だ。専用チューニングされた車速感応型ステアリングシステムも、おそらくすなおなコーナリング感覚に貢献しているだろう。
やや残念なことに、高速で速度を上げていったとき。さまざまなノイズの高まりが意識にのぼる。それが、痛快な加速感という楽しさを殺いでしまっている。日本の法定速度内では許容範囲だけれど、以前、テストコースで速度を上げていったときは、130km/h程度から少々ツラくなった。
そのかわり、市街地では、充分すぎるほど速い。ドライブモードは車内のスイッチで「エコ」「ノーマル」「スポーツ」と選べるなかで、市街地ではもっぱらエコモードで充分なほど。首都高であれば、エコよりはノーマルのほうが加速を楽しめる。でも、スポーツに入れる必要は感じられないほどなのだ。
魅力的な価格
スタイリングは丸みを帯びた面を強調し、エッジなどを極力廃することで、逆に、内部からみなぎる力を感じさせてくれる。年齢に関係なく受け入れられるデザインであると思う。インテリアも、ぜいたくではないものの、大型液晶パネルといい、独自のデザインのギアセレクターといい、クオリティをうまく高めている。
シートは、専用の合成皮革張り。表面処理のおかげで滑りはなく、座り心地にすぐれる。レザーを排する動きが自動車界で大きなトレンドになってきているいま、合成皮革の採用は、この点でも評価したい。
パッケージングも上手で、前後ともに身長175cm以上の乗員が無理なく座っていられる。後席はヘッドクリアランス(頭上の空間)をかせぐために、背もたれ部分をやや強めに寝かしてはあるものの、まずまず許容範囲だ。
サスペンションやステアリングシステムにくわえ、グリルやLEDやホイールアーチまわりのガーニッシュといった外装品、さらに、さきに触れたシートやステアリングホイールなど、専用パーツは多い。これらもお買い得感を増してくれている。
279万6200円(前輪駆動車は253万7700円)の価格は、このクルマのもうひとつの大きな魅力だ。
輸入車に乗っているひとも、ふだんはこんなクルマと付き合うのは悪くないのではないだろうか。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)
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