過去最も野心的で実験的な大型SUV
少し聞き飽きた感のある、プレミアムという表現。だいぶ曖昧なワードだと思う。アウディやメルセデス・ベンツ、ランドローバーといった自動車メーカーは、プレミアム・ブランドだと認識されているが、具体的な特徴は何かと聞かれても、即答が難しい。
【画像】プレミアムSUV ランドローバー・ディフェンダー アウディQ8 e-トロン キアEV9 写真で比較 全101枚
アウディは、四輪駆動とデザインを強みとしてきた。完璧を求めてきたメルセデス・ベンツは、近年は高度な技術を売りにしている。ランドローバーは、機能性を重視したオフローダーを提供してきた。これらが、プレミアムの示すところなのかもしれない。
キアやマツダなども、プレミアム・ブランドを目指しているようだ。特に韓国の自動車メーカーは、ここ10年で大きく変化している。以前は、洗練されつつも一般的なスタイリングを展開していたが、近年は大胆で個性的なものへシフトしている。
スポーティさにも、焦点が向けられてきた。上級サルーンのスティンガー GTなどは、好例といえるだろう。
そんなキアが、再び大きな一手を打った。欧州市場では、過去最も野心的で実験的なものかもしれない。EV9という、斬新な見た目の上級・大型SUVを投入したからだ。
全長5m以上あるボディは、相当に人目を引く造形で仕立てられている。大きい寸法がゆえに車内空間は広く、7シーター・レイアウトを備える。加えて、不足なくパワフルな電動パワートレインを実装する。これほどキアが話題を集めることは、今までなかった。
カイエンやX5、XC90からの乗換え希望多数
同社によれば、英国市場での反応は上々らしい。古くなったランドローバー・レンジローバー・スポーツやポルシェ・カイエン、BMW X5、ボルボXC90などから乗り換えたいという顧客も、少なくないとか。
そこで、EV9の実力を確かめるべく、今回は競合の2台を用意した。1台は、バッテリーEVのQ8 e-トロン 55クワトロ。他方は、プラグイン・ハイブリッドのランドローバー・ディフェンダー 110 P400eだ。どちらも、動力性能で近いグレードを選んでいる。
従来までのキアなら、アウディへ近い雰囲気の電動SUVをリリースしていただろう。充分に洗練され魅力的でも、スタイリングはコンベンショナルで、インテリアは高級車の教科書通り、といった内容で。しかし、EV9は明らかに違うようだ。
3台の価格差は、約2万5000ポンド(約465万円)と小さくない。EV9は、エントリーグレードのシングルモーター仕様以外なら、7万5000ポンド(約1395万円)前後。キアとしてはお高めの設定だが、相応の動力性能や航続距離、実用性や存在感を宿すようだ。
ディフェンダー 110は、機能性や走破性、路上での視覚的な訴求力などで、EV9以上を備えることが求められる。Q8 e-トロンは、高級車としての特別感や、バッテリーEVとしての能力で勝りたいところ。
プレミアム・ブランドを目指すキアは、EV9でこの2台に伍することはできるだろうか。英独のプレミアムが、一日の長を証明するだろうか。
ディフェンダー 110に負けない存在感
さて、EV9は大きい。直線基調で四角いカタチは、SF映画に登場するような乗り物にも見える。ボディサイドは肉厚だが、オフローダーというより、ステーションワゴンのような雰囲気もある。
その存在感は、ディフェンダー 110の隣に並んでも負けていない。確実に凌駕するには、更なる何かが必要だとは思う。それでも、低めのボンネットやルーフライン、シンプルな面構成によって、堅牢さや重厚感などで明らかな違いを生んでいる。
ディフェンダー 110の方が、アイコニックなスタイリングで訴求力は強いだろう。同時にEV9は、大胆な造形と思い切ったライトなどで、上級モデルだと主張している。どちらが好ましいと感じるかは、見る人によると思うが。
EV9の運転席からの視界は、アウトドア感の漂うインテリアの仕上げに強みがある、ディフェンダー 110に届いていない。しかし、Q8 e-トロンと大差はない。
車内は広々としていて、用いられる素材は魅力的だ。いずれも過度に飾されることなく、機能性へ配慮してあるという共通点がある。現代のSUVらしく、知覚品質は高く居心地が良い。
EV9は、高級感を演出しようという試みが散りばめられている。アンビエントライトが仕込まれ、ゆったりしたフロントシートにはマッサージ機能を内蔵。電動で動くオットマンも備わる。充電が終わるまで、背もたれを倒し気持ち良く昼寝できそうだ。
この続きは、ランドローバー・ディフェンダー アウディQ8 e-トロン キアEV9 3台比較(2)にて。
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