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いろいろ分かってきた…トヨタ水素エンジン、その速さの秘密【前編】

掲載 更新 23
いろいろ分かってきた…トヨタ水素エンジン、その速さの秘密【前編】

ただ走っただけじゃない。バトルも演じた!

スーパー耐久シリーズ第3戦「NAPAC 富士SUPRE TEC 24時間レース」に出場したトヨタの水素エンジンを搭載したレーシングカーが見事、完走を果たした。豊田章男社長がチームオーナーのプライベートレーシングチームである「ROOKIE Racing(ルーキーレーシング)」に託された「ORC ROOKIE Corolla H2 concept」は、途中、水素とは関係ない箇所のトラブルに見舞われるも無事に24時間を走り切り、合計1634kmを走破したのである。

課題は燃費、と思いきや?伸びしろが大きい…トヨタ水素エンジンの秘密【後編】

水素充填に多くの時間が割かれるなどの事情もあったから、順位としては特筆すべきものではない。しかしながら、以前お伝えしたように、まだ人間で言えばよちよち歩きの技術であるにも関わらず、こうしてレースに出場して、しっかり走り切ってみせたのだから、これはもう勝利にも値する結果だったと言っていい。しかも使った水素は福島水素エネルギー研究フィールドで製造された再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」であり、CO2その他の排出量は限りなく少なく済まされたのである。本当に、本当に称賛すべきことだ。

こうして24時間を走り切ったことで、技術的にも非常に多くの、有益なデータが得られたことだろう。しかし、それだけじゃない。このレース、私は現地に取材に赴いて実際に走行するマシンをつぶさに観察していたのだが、大いに感心させられたのは、単に走っているだけだったり他車の邪魔になったりなんてことはまったくなく、それどころか随所で光るスピードを見せていたことだ。水素エンジンならではの小気味良いサウンドを響かせ、バトルまで演じていた姿には、モータースポーツの明るい未来を見るようだった。

そう、水素エンジンはしっかり戦える「速さ」を持っている。以前のイメージからすると、これは考えられないことだ。古い例になるが、2006年に登場したマツダRX-8ハイドロジェンREは、ガソリンでは210psの最高出力が水素では109psに留まっていたし、やはり同じ年に販売されたBMWハイドロジェン7も、V型12気筒6Lエンジンを搭載しながら、最高出力は260psに過ぎなかった。

開発陣があげた、3つのポイント

それに対して「ORC ROOKIE Corolla H2 concept」が積む直列3気筒1.6Lターボエンジンは、4月28日に行われたテストの時点で、開発陣によれば市販車つまりGRヤリスRZの272psに、ほぼ匹敵する出力を発生していたという。今回はさらにレブリミットを500rpm引き上げてきたというから、より以上のパワーが得られていた可能性が高いのだ。

かつての水素エンジンのイメージを覆すパワーは、一体どのように得られたのか。今回、さらに突っ込んで話を聞くことができたので、その秘密に迫ってみよう。

「ポイントを3つ挙げるとすれば、過給機、筒内直接噴射、そして燃焼室内をいかに冷やしてやるかというところだと思います」

簡潔にそう答えてくれたのはトヨタ自動車 パワートレーンカンパニー 第2パワートレーン選考開発部 主査の小川輝氏。他社のことはわからないながら、との前提で教えてくれたパワー獲得の秘訣である。

まず過給機。じつは水素は理論空燃比では要求する空気の量が大きい。言い換えれば空気の量が決まっている場合、ガソリンより少ない量しか混ぜ合わせることができないから、パワーが出ない。そこで出番となるのが過給機。空気を強制的に押し込むことができれば、一緒に燃料も多く突っ込める。つまりパワーを出せるというわけだ。

過給機は今後リーン燃焼化を狙っていく上でも大きな頼りになる。水素は着火性に優れるため空気をたくさん押し込んでも、しっかりよく燃えてくれる。つまり圧倒的なリーンバーンにより燃費を稼ぐことができる可能性、大きいのである。

続いて筒内直接噴射、いわゆる直噴。水素の着火性はガソリンの12倍と言われ、つまり12倍早く着火してしまう。従来のポート噴射だと、吸気ポートに燃料を吹いた瞬間、意図せず着火してしまうといった異常燃焼(プレイグニッション)への対処が課題となっていたが、直噴ならば必要な瞬間に必要なだけの燃料を吹くことができるため、プレイグニッションを防ぎやすくなる。これにはトヨタがD4として展開してきた直噴技術、特にデンソーのインジェクター技術が大いに貢献しているとのことだった。

じつは質疑応答の際には、プラグ点火となってはいるが、実際には燃料噴射のタイミングがイコール点火時期なのではないかという質問が出た。それに対する小川氏の答えは「鋭い、という以上は控えさせてください」というものだったが、あとで改めて聞いたところでは、あくまでプラグ点火であり自着火はさせていないとのことだった。プレイグニッションが起きない、プラグ点火とほぼ同時のタイミングを狙って、ぴたりと燃料=水素を吹いている。そんな風に解釈するのがよさそうである。

長くなってきたので、今回はまずはここまで。残る燃焼室内の冷却についての話、そして燃費への考察などについては、続編でお伝えしたい。

【後編に続く】

〈文=島下泰久 写真=難波賢二〉

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みんなのコメント

23件
  • トヨタの開発力は凄い。
    金があるからというもあるだろうけど。

  • エンジン技術を生かしながらのカーボンゼロは期待したいですね。
    ただ一定期間ごとのタンクの耐圧試験などの新たな費用はいくらかかるんだろう。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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