14ブランドの未来どうなる
ステランティスは2024年10月10日付のプレスリリースで、現CEOのカルロス・タバレス氏が2026年初めに退任することを発表し、自動車業界で注目を集めている。ステランティスは、フィアット・クライスラー(FCA)とプジョー・シトロエン(PSA)の合併により2021年に設立された。現在、14ブランドを傘下に持つ世界第4位の自動車メーカーだが、タバレスCEOの退任により大きな転換点を迎える。
退任まで1年余りとなったタバレス氏は、今後2、3年間でブランドポートフォリオの見直しを行うことを示唆しており、14ブランドの統廃合が進む見通しだ。
本稿では、ステランティス傘下の各ブランドの成り立ちや今後の戦略を考察し、どのブランドが生き残るかについて探る。
タバレス氏はどのような人物か
タバレス氏の主な経歴は、1981年にルノーにテストドライバーとして入社したことから始まる。その後、ルノー日産アライアンスでは日産の北南米事業を担当した。2011年には当時のCEOカルロス・ゴーン氏のナンバー2である最高執行責任者(COO)に就任したが、CEO職を目指していたタバレス氏は2014年にPSAに移り、CEOに就任した。
その後、FCAとの合併によりステランティスを設立し、発展させてきた。しかし、オランダに本社を置くステランティスがフランス色が濃いとやゆされるのは、タバレス氏がルノーやPSAで培った実績が影響している部分もある。
タバレス氏はこれまでコスト削減や電動化をリードしてきたが、CEO退任を控えた今も、経営陣の刷新やさらなる企業改革、各種戦略の見直しを進めるようだ。特に注目すべきは、傘下にある14ブランドの統廃合が検討されている点である。自動車業界が電動化や自動運転技術に向けた過渡期にあるなか、複数のブランドを持つステランティスが競争力を維持するためには、ブランド再編が不可欠である。
度重なる合併によって形成された14ブランドは、それぞれ多様性を持ち、長い歴史や特色がある。各ブランドの源流をさかのぼると、フィアット(アバルト、アルファロメオ、フィアット、ランチア、マセラティ)、クライスラー(クライスラー、ダッジ、ラム、ジープ)、PSA(プジョー、シトロエン、DS)、GM(オペル、ボクスホール)の四つの系統に分類できる。
これらのなかで、ジープやプジョーのように今後のステランティスの成長をけん引するブランドと、統廃合の対象になり得るブランドを明確に区分していくことが、今後のステランティスの戦略において重要な意味を持つと考えられる。
歴史と株主が与える影響とは
販売不振やブランド力の弱いブランドは統廃合の対象になるが、フィアット傘下の6ブランドが再編されるのは避けられないだろう。
フィアットは創業125年の歴史を持ち、イタリア北部の実業家たちによって設立された。かつてはトリノ市内に六つの工場があったが、現在残っているのはフィアット500eやマセラティを生産するミラフィオーリ工場だけで、ほとんど稼働しておらず、瀕死(ひんし)の状態といっても過言ではない。
一時は6万人を雇用し、年間100万台を生産していたミラフィオーリ工場が衰退したのは、FCAがステランティス傘下となったことでフィアット部門がないがしろにされているとの批判も出ている。
フィアット傘下のブランド再編は避けられない状況だが、ステランティスの会長ジョン・エルカーン氏はフィアット創業に関わったアニェッリ家の一員であり、ブランドの統廃合は一筋縄ではいかないだろう。なお、アニェッリ家が支配する持ち株会社Exorは、ステランティス株式の約14%を保有する最大株主でもある。
ステランティス傘下で、日本での販売台数が最も多いブランドはジープだ。ジープは1940年に米陸軍の要請で開発された小型四輪駆動車をルーツとしており、戦後にはオフロード車の代名詞となった。
ジープのグローバル生産能力は年間約105万台だが、ステランティスは2027年に150万台まで拡大する方針で、最も注力するブランドのひとつである。旧クライスラー傘下にはラムやダッジもあり、米アリゾナ州のテストコースを売却するなど、北米事業の再編を進める動きが今後加速するか注目される。
ジープに次いで日本での販売台数が多いのはプジョーであり、日本でもなじみのあるブランドだ。プジョーは1882年に設立された世界最古の自動車量産メーカーで、コンパクトカーを中心に販売を伸ばしている。
プジョーは1974年にシトロエンを吸収合併し、後にPSAが設立された。シトロエンは前輪駆動方式を早くから採用し、独自の油圧制御サスペンション「ハイドロニューマチック」を開発したことで知られ、特に欧州市場で高いシェアを持っている。また、シトロエンの高級サブブランドとして始まったDSは、2015年に独立したブランドとなった。
これらのPSA傘下の3ブランドのうち、プジョーにはフランス政府が株式を保有していた経緯があり、現在もステランティス株式の約6%を保有している。また、プジョーの創業家も約7%の株式を持っており、プジョーの背景にある勢力は大きな影響力を持つため、プジョーが生き残る可能性は極めて高いと考えられる。
生き残るブランドはどれか
ステランティスが発足した2021年以降、14ブランドが効率的に運用されているかは疑問であり、今後も存続できるかは不透明な状況だ。
ステランティスは各ブランドの業績や市場でのポジションを再評価し、生き残りをかけたブランド再編を進めると考えられるが、創業家との兼ね合いからフィアット本体とプジョーは残さざるを得ないだろう。
また、ステランティスの収益を支えるジープやラムも、今後グローバルで強化されるブランドと考えられており、これら四つのブランドはコアブランドとして残る可能性が高い。
残る10ブランドについては、販売が低迷しているブランドを中心に統廃合の検討が進められるだろう。GMから買い取った2ブランドを手放すのは比較的容易だと考えられ、ブランドの統廃合は完全な廃止か、中国メーカーなどへの売却のいずれかで進められるだろう。
過去にも、英国ブランドのロータスやMGが中国メーカーに売却された例があるが、譲渡されたブランドが次世代EV市場に対応する形で存続する道は残されている。
リープモーターとの提携
忘れてはいけないのは、ステランティスと提携関係にある零ホウ(足へんに包)汽車(リープモーター)の存在だ。ステランティスは2023年10月にリープモーターの株式21%を取得し、資本提携を結んでいる。
EV分野で急成長しているリープモーターは、パリモーターショー2024で世界初公開のCセグメント電動スポーツタイプ多目的車(SUV)「B10」を含む4車種を出品した。B10の中国での販売価格は1万4110ドル(約212万円)で、非常に競争力がある。将来的にはステランティスのポーランド・ティヒ工場で生産される計画で、欧州市場での販売拡大が期待されているモデルだ。
両社の協業は、単なる技術提携にとどまらず、両社のノウハウを融合させることで新しい市場を開拓し、より革新的な製品を生み出す化学変化をもたらすことが期待されている。
今後のブランド再編の動きに注目
ステランティスはこれから大きな転換期に突入する。14ブランドの統廃合を進めるなかで、長年にわたって愛されてきたブランドを切り捨てるかどうか、苦渋の選択が迫られる。また、生き残ったブランドには、さらに厳しい競争に勝ち抜くことが求められるだろう。
タバレス氏は、PSAを立て直し、FCAとの合併を成功に導いたことで、ステランティスの成長に大きく貢献した。次期CEOがどのようにブランド再編を進め、電動化戦略を押し進めるかが注目される。
ステランティスが直面する課題は、単なるブランド再編にとどまらず、未来のモビリティ市場でどのようなポジションを占めるべきかということでもある。生き残るコアブランドは重要な役割を果たさなければならない一方で、統廃合されるブランドの運命は依然として不透明だ。
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