高級、上質、贅沢、豪華など、いわゆる「良い」と言われるものの表現の仕方にはいろいろある。しかし、それを理解して自分のものにするには、そこにどういう違いがあるのかをわからなくてはいけない。価格とは、あくまでも目安だ。DSが挑戦する独自の世界観を、2台のモデルから描いてみたい。(Motor Magazine 2022年11月号より)
極めて都会的なモデルラインナップを持つDSブランド
「DS」の語源はどうやら定かではないようだ。フランス語読みで「デ・エス」ゆえ、深読みの解釈(女神とか)もあれば、開発コンセプト絡みのイニシャルだという話もある。けれども、今となってはそんなことなどもうどうでもいい。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
なぜなら我々クルマ好きにとって「DS」のふた文字は「その後の歴史」において特別なものへと昇華したからだ。
その後の歴史とはまず、1955年に登場したシトロエンDSの評価にある。シトロエン2CVの対極に位置するその乗用車はしかし、決して高級車というわけではなく、農家向け大衆車と同様にむしろ大量生産を目指したモデルだった。ただ、そのスタイルがあまりに奇抜で前衛的であったうえ、最新のメカニズムをも贅沢に搭載する意欲作であったことが、世界の自動車史に残る特別な歴史のスタート地点になった。
それからおよそ60年が経って、改めて「DS」という名を持つ新たなブランドが誕生する。DSとしては2番目の歴史の始まりだ。
当初はシトロエンのサブブランドとして始まった現代のDSは、2014年6月1日から独立したブランド=DSオートモビルとして機能し始めたのだった。
DSオートモビル最新のラインナップ、すなわちDS3、4、7、9の4モデルをこの順番に眺めてみれば、発表年次は前後しながらも結果的に、現代社会における極めて都会的なモデルラインナップのツボを押さえているな、と妙に納得してしまう。
サイズの小さなモデルからDS7=欧州Cセグメント相当までは全世界的トレンドでマーケット人気の大部分を占めるクロスオーバーもしくはSUVスタイルとして、もうひとつ上のクラス=欧州Dセグメント用にはまだしもコンサバティブなサルーンルックスとしているからだ。
現在では、すでに上級セグメントにおいてもクロスオーバー&SUV志向は強まっているはずだが、(C5 Xを投入したシトロエンとは違って)今のところはあえてサルーンとしたあたりにDSオートモビルのブランドとしての「立ち位置」が透けて見えた気がした。
それゆえだろうか。さらにステランティス内における旧PSAグループブランドを見渡せば(本当にそういう感じになってきた)、日本未発売のオペルを除くフランス勢にははっきりと個性が振り分けられていることもわかる。
次世代商品への転換期に精神の原点回帰で創出
プジョーはスポーツ志向であることがデザインやドライブフィールにはっきりと現れているのに対して、シトロエンは伝統を守りながらどちらかというと「おっとり系」に仕立てられていると思う。
そしてDSオートモビルはといえばパフォーマンスの発露、そのドライブフィール的には既存2ブランドのちょうど間に割って入りつつも、ファッション性に大いにこだわったという点で、他のフランス勢ともまるで異なる個性を持ちえるまでになった。
自動車ブランドとしては非常に難しい領域をあえて狙った戦略と言っていいが、そこはフランス・パリの生まれであることを強調するDSオートモビルゆえ、もっとも得意な分野で直球勝負したと考えることもできよう。
そもそもフランス、いやパリがファッショントレンドの中心という立ち位置を得た理由をものすごく端折って説明すれば、そこで「王家の服飾」をベースとしたオートクチュール(特注)が発展し、多くのメゾン(店)が立ち上がるに至り、服飾デザイナーがアーティストとして認知されたことに始まる。その好ましい影響がプレタポルテ(既製)にまで及び、大衆への理解が大いに進むと、パリはファッションの一大聖地としてその地位を確立することとなった。
そこには革命の精神にも似た独立心旺盛な芸術的活動と、人々の行動(マーケット)を冷静に見つめて流行りを的確に生み出す先見性が共存しており、そのふたつの精神が自動車産業へもものの見事に引き継がれたと言えなくもない(おそらくフランス産の物事すべてにあまねく共通する)。
創業者アンドレ・シトロエンは他と同じクルマを決して作りたがらなかった。同時に使い物にならぬクルマ=非実用品を生み出すつもりも毛頭なかった。これぞ、まさに「サヴォア フェール=匠の精神とその技の発露」というべきで、DSという名車が生まれた最大の理由だろう。
大量生産品(プレタポルテ)としての完成度が極まり、さらに次世代商品への転換期を迎えた百年産業としての自動車製造。その最新場面において、いま一度、DSを生み出した精神の原点=パリで生まれた強いファッション性を全面的に持ち出すことで新たなブランドを創出しようという試みは、言ってみれば「彼ら」にしかできなかったことでもあったのだ。
突き抜けた個性の数々とスタイリングの妙味に感心
そういう目線でDSオートモビルの最新ラインナップを見つめ直してみれば、前述したような「都会の流行り」という凡庸な喩えだけでは説明しきれない、突き抜けた個性の数々が各モデルには散りばめられていることがわかる。
もっともコンパクトなDS3クロスバックには、小さい体躯だからこそめいっぱいの個性が詰め込まれ、ミッドサイズSUVのDS7クロスバックには無骨になりがちなセグメントにおける個性豊かなデザイン提案を成し遂げた。
そして今回、誌面の主役として選んだもう2台のDSはというと、ハッチバックとサルーンという、言ってみれば欧州車の超定番にして、もはややり尽くされた感のあるカテゴリーにあえて切り込んだあたりに、サヴォア フェールの堅牢先取な精神を思い出したのは筆者だけではあるまい。
DS4には、ブランド最新モデルであるがゆえ、デザイン的な未来予想ディテールが組み込まれている。フロントマスクに目立つL字型のデイタイムランニングライトなどはその代表的なものだろう。それにしてもすでにデザインも出尽くしたと思っていた伝統的なCセグメントハッチバックスタイルの枠組みにあって、これほど「違う」形がまだあったものかと、そのスタイリングの妙味には感心するほかない。
大径のタイヤ&ホイールとサイドのロワセクションによっていくぶんクロスオーバースタイルに寄せつつ、そこを強調しすぎない程度に前後フェンダーやフード、ルーフラインを彫刻的に仕立てた。さらにサイドウインドウ面積を狭めてクーぺ的な雰囲気さえ漂わせていることで、巷のハッチバックとはまるで違う存在感を放つ。実際、車高は標準的なハッチバックモデルに比べて5mmほど高くなっているに過ぎず、全高は1600mmに収まっている。
ディテールを見れば、これぞDSオートモビルの真骨頂というべきで、レーザーエンボス加工の施されたテールランプなどは現代のDSらしさに溢れるデザインだ。
インテリアはさらに見どころが多い。個人的にはエクステリアよりもインテリアの美しさが際立っているクルマではないかと思う。全体的なデザインも非凡なものでこれまたディテールが凝っている。クロムパーツに施された「クル・ド・パリ」の装飾などはいろんな意味でおよそ現代のDSモデルにしか似合わない文様だろう。
取材車両は真ん中のトリムレベル「リヴォリ」のピュアテック=1.2L直3ターボエンジン搭載で、8速ATが組み合わせられる。ディーゼルグレードに比べるとここ一発の力強さには欠けるものの、実用域においては十二分なパフォーマンスを発揮する。
そのドライブフィールはシトロエンでもなく、かといってプジョーでもない「新種」の心地で、基本的にはフラットライドを演出しつつも異なる環境下でさまざまなフランス車的特色(柔らかかったり、滑らかだったり)を断片的に表すあたり、DSオートモビルが現代的で新しいライド感を模索した結果というべきかもしれない。
潤いのあるドライブフィール真っ当なクルマづくりの肝要
一方のDS9はどうか。少しだけややこしい話をすると、このモデルはひと世代前のプラットフォーム、すなわちDS4と同じEMP2といってもバージョン2(旧タイプ)を使っている。
DS4やプジョー308、シトロエンC5 Xなど最新モデル群の使うバージョン3がクロウト筋には大変好評だから、ひょっとして今、それも最新モデルのDS4と比べるようにしてDS9に乗ったなら、ちょっとガッカリしてしまうのではなかと試乗前には危惧していた。ところが・・・。
取材車両は「オペラ」のピュアテックで、1.6L直4ターボに8速ATを組み合わせたグレードだが、これが思いのほかナチュラルかつ思いどおりに走らせることができて驚いた。最新モデルにありがちな機械からの「でしゃばり感」がまるでなく、しっとりとよく手に馴染む。
ドライブフィールに潤いがあるとはこのことで、300Nmのトルクを余すところなく使いながら街中から高速、カントリーロードを気持ちよくこなす。噛めば噛むほどに味わいの出るモデルで、なるほど長い付き合いになることの多いセグメント及びカテゴリーゆえ、こういう真っ当なクルマづくりこそ肝要だと改めて思い知る。
とはいえ、そこはDSオートモビルのフラッグシップモデルだ。美しいサルーンスタイルには随所にクラシックもしくはアバンギャルドな装飾が施されており、誰が見ても「何かが違う」という雰囲気を醸し出す。インテリアに至っては、これはもうセグメント最高レベルのラグジュアリーぶりで、しかも見栄えも個性的だから、こちらも見れば見るほどに惚れてしまうという類の空間だ。
デザインだけじゃない。レザーやステッチなどマテリアルの質感やカラーも上等で、このインテリアだけで「買う理由」になると思う。あからさまに新しいギミックに頼りがちなドイツ系のサルーンよりある意味コンサバティブでもあって、新しいモデルに脇目も振らず、長く付き合おうという気にもなるだろう。
最先端パワートレーンとの融合でDSは進化し続ける
今回はいずれもピュアなガソリンエンジンモデルでの試乗となったが、各モデルには他に「Eテンス」と総称される電動グレード(BEVもしくはPHEV)の用意もあり、こちらも注目に値する。
なぜならパワートレーンテクノロジーの最先端と融合させて初めて、サヴォア フェールによって生まれたファッション性際立つ自動車=DSオートモビルが成立すると思うからだ。デザインスペシャルなポジションの確立である。
果たして、DS第2の歴史はこれからどんな物語を紡ぎ出してくれるのだろうか。
これまで以上のデザイン面における挑戦もさることながら、自動車の根幹に関わる場面(ハードウエアのみならずソフトウエアも含む)での革新にも大いに期待したい。それこそが自動車界における最新のメゾンであるDSオートモビルの果たすべき、もっとも大きな役割であると思うのだ。(文:西川 淳/写真:伊藤嘉啓、赤松 孝)
■DS4 リヴォリ ピュアテック主要諸元
●全長×全幅×全高:4415×1830×1495mm
●ホイールベース:2680mm
●車両重量:1420kg
●エンジン:直3DOHCターボ
●総排気量:1199cc
●最高出力:96kW(130ps)/5500rpm
●最大トルク:230Nm/1750rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・52L
●WLTCモード燃費:17.7km/L
●タイヤサイズ:205/55R19
●車両価格(税込):449万円
■DS9 オペラ ピュアテック主要諸元
●全長×全幅×全高:4940×1855×14605mm
●ホイールベース:2895mm
●車両重量:1640kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●総排気量:1598cc
●最高出力:165kW(225ps)/5500rpm
●最大トルク:300Nm/1900rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・60L
●WLTCモード燃費:15.0km/L
●タイヤサイズ:235/45R19
●車両価格(税込):728万円
[ アルバム : DS9 オペラ ピュアテック × DS4 リヴォリ ピュアテック はオリジナルサイトでご覧ください ]
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