35年前のグッドウッドでのクラッシュ
執筆:Andrew Frankel(アンドリュー・フランケル)
【画像】スーパースプリントとスーパーセブン オランダとドイツの派生車も 全93枚
撮影:Luc Lacey(リュク・レーシー)
翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)
1986年、20歳になったばかりの筆者は浅はかだった。サーキットを走るのは、その日が2度目。
コースはグッドウッド。英国で最も容赦ないサーキットの1つだ。クルマはケータハム・スーパースプリント。運転経験の浅い筆者にとって、正確に挙動を掴み取ることは難しい。ピットレーンには、走りを見守る大勢の仲間がいた。
威勢よくコースアウトし、最初の1周目。最後のシケインが迫る。スーパースプリントにはどんな走りが可能なのか、筆者は披露することにした。
ここは高速で侵入しバンク角が変化する、クルマとドライバーの本領が試される場所。案の定、不運が待ち構えていた。
もしヘルメットがなかったら、頭を地面にぶつけていただろう。古いロールオーバー・バーは充分な強度を備えていない。ケータハムが横転した勢いで、頭蓋骨は割れていたに違いない。
今から35年前のできごとだ。それ以来、ケータハムは所有してこなかった。だがキットカーとして3台を組み立て、レースへも4度は出場している。そのトラウマから抜け出せる気がしていた。
2020年の夏、英国のロックダウンが明けた時に、最新のスーパーセブンを運転した。見た目はクラシカル。最高出力は控えめな137psだ。
ジェンビー社製のスロットルボディが、エンジンから姿を覗かせる。古いセブンのボンネット横から誇らしげに突き出した、ツイン・ウェーバーキャブレターのように見えた。
シンプルで巧みに操縦できるクルマが好き
やはり、筆者はセブンが大好きだった。パワフルなだけでなく見た目は精悍で、サウンドも偽りない。反応も常に直感的。信じられないほどに速かった。
ロックダウンで自由に外出できなくなり、つぶさに気付かされた。筆者は、シンプルで巧みに操縦できる、素直なクルマが心から好きだということを。
記憶を上塗りし、正直な思いを叶える唯一の方法は、ケータハムを購入すること。必ずしも古いセブンである必要はなかった。でも、過去の体験を超えるために、クロスフロー・エンジンは必要だった。
年配の自動車ファンにとって、クロスフローという響きには特別な印象があると思う。進化するケータハムにとって、クロスフローといえばフォードのケント・ユニットのこと。エンジンの片側から混合気を吸い、反対側から燃焼ガスが吐き出される。
ロータスがケント・エンジンを採用したのは60年ほど前。まだ排気量は1.0Lで、最高出力は39psしかなかった。
ケータハムがセブンの製造販売権を取得すると、クロスフロー・エンジンへ改良。セブン・スプリントの排気量は1.6Lになり、最高出力は111psまで高められた。
1985年には1.7Lへボアアップ。ビッグバルブとホットカムが組み合わさり、最高出力は137psへ上昇。セブン・スーパースプリントとして販売された。筆者がグッドウッドで壊したクルマだ。
そのエンジンを再び手に入れる必要があった。反面、今ではケータハム並みに運転が楽しいクルマも何台かある。どのセブンを買うべきかは、かなり悩んだ。
理想的なクロスフローのセブン
古いケータハムのフロント・サスペンションは、コーリン・チャップマンの哲学に習っている。アッパー・ウイッシュボーンの半分は、アンチロールバーが担っている。だが、想定以上に横方向の負荷が強く、うまくは機能していない。
リアのリジットアクスルは、骨に染みる振動を伝える。コクピットは狭く、4速MTだ。筆者が本当に欲しかったのは、本物のダブルウイッシュボーン・サスペンションを備える、現代的なケータハムだった。
リアにはドディオン・アクスルが組まれ、S3の長いコクピットが良かった。トランスミッションは、5速がイイ。
そんな組み合わせが存在するのか謎だったが、見事に発見できた。ブランズハッチ・セブンス&クラシックスで。筆者が古くから知る、ケータハムの営業マンをしていた人物が立ち上げたガレージだ。
理想的なシャシーとサスペンション、5速MTが載り、ボディはポリッシュ・アルミとダークグリーンで仕上げてある。1997年式で、もちろんエンジンはクロスフロー。これ以上のケータハムはないと感じた。
ケータハムから距離をおいていた筆者は、その年代までケント・エンジンを登用していたとは知らなかった。恐らく、最後のクロスフロー・セブンなのだと思う。
エンジンはリビルドされ、状態は完璧。感触はソリッドで、新車のケータハムのように走る。快適で、ルーフを閉めてヒーターを入れれば冷えた朝でも居心地が良い。
現代的なケータハムより見た目も魅力的。小さな丸いヘッドライトが、フロントノーズの先端に並ぶ。
中古のケータハムを超える存在とは
この印象をまとめ上げているのが、クロスフロー・エンジンだ。実用目的で生まれたフォード・ユニットだが、ケータハムのエンジンルームを見事に彩る。プッシュロッドの鉄の塊でも、心に響く個性がある。
寒い朝には、エンジンを生き返らせる儀式がある。正しい量の燃料を、大きなウェーバー・キャブレターに送り込むと、咳払いしながら目を覚ます。ほかのエンジンでは聞けないような大きい唸り声を上げて、落ち着いたアイドリングに入る。
アクセル・レスポンスは並外れて鋭い。パワーバンドはワイドだが、常に意欲的。レブリミット付近では、素晴らしい咆哮を放つ。アクセルペダルを放せば、アフターファイヤーの破裂音が混ざる。
しかも軽い。エンジンは鋳鉄製でも、重たいツインカムの16バルブ・ヘッドは載っていない。セブン・スーパースプリントの車重は530kgだ。
筆者の家へ来た、1997年式のケータハム。最初にしたことは、日曜日の夜明け前に起床し、ウェールズの山岳地帯を目指すことだった。
人影すらまったくない、暗がりの道でケータハムを飛ばす。筆者にとっては走り慣れたルートだ。2万ポンド(300万円)未満で、ここまで運転が楽しいと感じることは可能だろうかと、脳裏をよぎった。
しばし、久しぶりのスーパースプリントとの時間を楽しみたい。この金額で手に入るクルマの中で、運転好きのドライバーにとって、中古のケータハムを超えるものはないだろう。今後も恐らく。
スーパースプリントとスーパーセブン 2台のスペック
ケータハム・スーパースプリント(1997年/英国仕様)のスペック
英国価格:−
全長:−
全幅:−
全高:−
最高速度:180km/h
0-100km/h加速:5.6秒
燃費:7.1km/L(予想)
CO2排出量:−
車両重量:530kg
パワートレイン:直列4気筒1690cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:137ps/6000rpm
最大トルク:16.8kg-m/4500rpm
ギアボックス:5速マニュアル
ケータハム・スーパーセブン(2021年/英国仕様)のスペック
価格:3万9665ポンド(594万円)
全長:3180mm
全幅:1575mm
全高:1090mm
最高速度:196km/h
0-100km/h加速:5.0秒
燃費:10.6km/L(予想)
CO2排出量:−
乾燥重量:540kg
パワートレイン:直列4気筒1595cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:137ps/6800rpm
最大トルク:16.8kg-m/4100rpm
ギアボックス:5速マニュアル
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みんなのコメント
馬力は大したことなくてもその軽重量じゃ、普通のクルマの馬力が2倍になったって感じかな???
くわばわくわばら。