運営元:旧車王
著者 :TUNA
祖父から孫へ受け継ぐクルマ。日産・ブルーバードSSS(1991)
年式が古くなるにつれ、90年代車にもスポットが当たるようになってきたと感じる昨今だが、もう何年も前からそのカッコよさの虜になり続けている人たちも少なくない。
そのなかでも特に"極まっている"……と思う人物に今まで何度か出会うことがあった。
今回紹介するTetsuGTさんはアラサー世代のなかでも、特に90年代のトヨタ車への造詣が深い人物だと感じる。
そのエピソードは枚挙にいとまがないのだが、個人的に感心させられるのは、氏が20代の頃から続けている東南アジア各地へと旅をし、日本から輸出された中古車のカリーナやコロナ、カローラにカムリ他、現地仕様車などの姿をも追い求めて歩き続けていることだ。
そのひたむきな愛情と興味は自身で所有する車両にも色濃く現れている。
なんと、現在所有する台数はなんと14台(ナンバープレートがついていない車両や部品取り車含め)、歴代車歴を併せると20台以上!
その事実だけを伺うと、一瞬、映画スターのようなガレージを想像してしまったが、その多くはトヨタの、しかも平成に作られたモデルで多くが占められている。
並々ならぬその原動力、そしてそのなかでも特にお気に入りのクルマについて今回はスポットをあてていくことにした。
■クルマはライフワーク。当たり前のようにクルマが側にいる毎日TetsuGTさんは御年34歳。
生まれてから現在に至るまで、徹底した自動車への愛と興味を注ぎ続けているそうだが、そのルーツには2台のトヨタ車の存在があるという。
「1台は母方の祖父が所有していたカローラワゴン(90系)です。祖父は自動車部品の配達をしており、幼少期の自分はよくその仕事についていっていてその姿を目の当たりにしておりました。もう1台は父親が新車で購入したカリーナ(17系)のスーパーロードで実家で所有していたクルマです。こちらも強い原初の体験になっているものです」2台との出会いはごく自然にTetsuGTさんの生活に浸透していったことだろうが、それらが30年以上の時を経ても一貫して「好き」であり続けられることは純粋にすごいことだ。
しかし、さらにすごいのはその行動力にあるといえる。
「現在所有している17系カリーナはストック含め、全部で6台あります。自分にとってクルマといえばコレ!といえるほどの存在で、本当に好きなクルマですね。恐らく、すでに一生のなかでカリーナを維持するために必要なだけの部品、およびストックを手に入れているのではないかと思っています」今回紹介するカリーナは自身のなかで3台目のカリーナ。
26歳のころに購入し、現在8年の月日が経過した「Gリミテッド」。
現存する個体がそもそも少ないカリーナのなかでも珍しい部類といわれるグレードだ。
エンジンはトヨタの1.6リッターエンジンの名機4A-G、出会いは業者オークションで発見し、その後中古車サイトを経由して購入したという。
「元々4A-G搭載のカリーナGT(21系)を所有していたこともあり、そのエンジン特性やフィーリングそのもののファンでした。そのエンジンが大好きな17系に搭載されているというのですから迷わず買ってしまいますよね」世界を放浪して海外に輸出されていった数々の中古車を眺めてきたTetsuGTさん。
そんななか、8年前の中古車市場でもGリミテッドの出物は皆無だったそう。
購入後、九州から船便で送られてきたカリーナの状態を見て非常に驚いたとか。
「色んな個体を見たなかでも非常に奇麗なクルマだったんですよね。パッと見てわかるくらい手入れが行き届いているクルマで、元オーナーさんがこの個体に対して並々ならぬ愛情を注いでいるたのがよくわかったんです」購入時ですでに23年経過、しかしワンオーナーで距離は48000km。
レコードブックなどの情報を頼りに歴代オーナーを辿って連絡をとると、そのカリーナの生きてきた痕跡を辿ることができてきたという。
「元オーナーさまはご高齢だったのですが、非常に丁寧な方でした。実はこのカリーナを手離すときは当初、廃車にする予定で解体屋に持って行ったそうなんです。ところが、その解体屋からは引き取るなら逆にお金を貰うという提示をされ、中古車買取店にもって行ったとのことでした」クルマの運命は不思議なものだ。乗り手によってコンディションの維持が左右されるのは当然であるが、その個体の行き先が決まるのは偶然やさまざまな出会いからなるからだ。
このカリーナは幸運にも解体の運命を逃れ、九州から関東へ。
それも熱狂的なまでの青年の元に収まるのだから、その軌跡を聞くだけで見えない縁のようなものを感じざるを得ない。
TetsuGTさんのもとに嫁いでから走行距離は現在92000km。
すでに初代オーナーと歩んだ距離を上回っている。
「これまで2回ほど、関東から自走で九州の初代オーナーさんの家に"里帰り"しています。オーナーさんはこのカリーナがすでに廃車になっているものだと思っており、その再会には涙を流して喜んでくれたのが嬉しかったです。現在では年賀状のやり取りをするほどの仲になりました」クルマと通じた出会いが、遠く見ず知らずの誰かとの繋がりを生む。
それも人生単位で関わる様な深い繋がり。
これもまたライフワークといえるのではないだろうか。
■「クルマを維持していく」ということ複数台を所有しているTetsuGTさんだが、日々、車両のコンディションを維持していくにはどんな心がけをしてるのか伺ってみた。
「週一回エンジンをかける、ボディカバーをかける、汚したらすぐ掃除……と、基本的なことをやっていると思っています。もちろん古いクルマなので修理する箇所は出たりするのですが、このGリミテッドに関しては本当に修理をしたことが一度もないんです。時々、仕事に行く際にも使用していますが、頑丈なクルマであることを実感しますね」"トヨタは壊れない"と都市伝説的にいわれるが、これも眉唾でもないことを思わせる。
現在までこのGリミテッドはオイル交換など、日常の整備程度でここまでやってきたそうだが、生活をともにするなかで最も気を使っていることは「安全運転」であるという。
「自分がどんなに気を使っていてももらい事故などはありますが、そもそも自分がスピードを出し過ぎない、など基本的なことを守るようにしています。この個体に関してはガーニッシュやリアスポイラーなど、樹脂で出来た部品は二度と同じコンディションのものは手に入らないと思っています。とはいえ、そんな気遣いをしながらも楽しくドライブができるカリーナのことがやはり大好きですね」最後にこのカリーナとTetsuGTさんの今後についての目標を伺ってみることにした。
「自分が運転できなくなるまで添い遂げたいですね。しかも手離すときはどこかに寄贈できるような、そんなカタチを迎えられれば本望だと思っています。そんな目標を目指すためにも、そろそろガレージハウスみたいなものを建てられればいいな、なんて想像している最中ですよ」原風景のなかにあったクルマ達を心ゆくまで堪能する。人生のなかでそんな経験はなんて素晴らしい時間だろうか。
そんな経験のなかでまた新たな繋がりが生まれ、拡がっていくエピソードたち。
クルマたちが運んできたかのようなワクワクするようなできごとが、TetsuGTさんの行く先にまだまだあることだろう。
カリーナとともに進んでいく未来を、この先も楽しみにしていきたい。
[ライター・撮影/TUNA]
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