2021年3月8日(イギリス現地時間)、アストンマーティンの「ヴァンテージ(Vantage)」と「DBX」がF1(FIAフォーミュラ1世界選手権)のオフィシャルセーフティカーおよびメディカルカーに採用されることが明らかになった。アストンマーティンは今シーズンからコンストラクター/レーシングチームとしてF1に正式復帰するが、レースをサポートする重要な役割も担うことになった。2020年シーズンまではメルセデスAMGの車両が採用されていた。
カラーリングはF1マシンと同じアストンマーティンレーシンググリーン
オフィシャルセーフティカーは安全で公正なレースを行うために必要に応じて介入を行いペースをコントロールするという役割を担うものだが、世界最速のレーシングカーであるF1レースでは、低速走行が続くとタイヤやブレーキの温度が下がってしまうことから極端に速度を落とすことができないため、オフィシャルセーフティカーも相当に速いラップでサーキットを走行できなくてはならず、レーシングカー並みの高性能が要求される。ふつうのクルマではとてもその役を果たすことはできない、というわけだ。
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またオフィシャルメディカルカーは緊急事態が発生した場合、医療チームを現場に安全に急行させる任務を持つ車両で、そのパフォーマンス、ハンドリング性能、快適性、安全性などが問われることになる。FIAによって厳しい規格が定められているのはもちろんのことだ。
今回のオフィシャルセーフティカー/メディカルカー採用にあたっては、英国ゲイドンのアストンマーティン本社に在籍する経験豊かなチームが開発を担当。「ヴァンテージ」と「DBX」にはシャシや空力性能など、大きな改良が加えられているという。その内容を見てみよう。
セーフティカーはヴァンテージ
セーフティカーに選ばれたのは、アストンマーティンのラインアップ中でもっともパワフルなヴァンテージで、そのパフォーマンスを限界まで引き上げている。
標準で510psを発生する4L V8ツインターボエンジンは535psまでパワーアップされ、0→60mph(約96km/h)加速はわずか3.5秒。最大トルクこそ685Nmと変わないが、トルクの最大発生域を広げ、トランスミッションを改良したことで、シフトアップ時、シフトダウン時の両方でダイレクト感、精度およびコントロール性能を大きく向上させている。
またサスペンション、ステアリングホイール、ダンパーなどにも改良が施され、これにアンダーボディのブレーシングなど細部にわたる手直しが加わり、構造剛性も向上している。
エアロダイナミクスではベーングリルと新しいフロントスプリッターを組み合わせることで、200km/h走行時に155.6kgのダウンフォースを発生。これは、量産バージョンのヴァンテージが同じ速度で発生する値を60kg以上も上回っているという。
さらにピレリ製のロープロファイルタイヤ、高性能なカーボンセラミックブレーキを装着、速いラップでのサーキットを走行を可能としている。
セーフティカーが持つ独自の要件として、トップスピードからクールダウン時にラップすることなくピットレーンでアイドリング状態に戻ることが重視されるが、ここではレースで培われた、信頼性が高く堅牢なアストンマーティン独自の熱管理システムが生かされているという。
インテリアではFIA認証のレーシングシートとF1マシンと同じ6点式ハーネスを装備。ダッシュボードには2つの画面が取り付けられており、ドライバーとコ・ドライバーに対してライブのテレビ映像と、最新のラップタイムや走行する車両の位置などのカスタマイズ可能な情報が提供される。センターコンソールも大幅に変更され、サイレンの起動、無線通信、ライトバーのLED制御といったさまざまなスイッチが追加されるほか、サーキット上で何色のフラッグが出されているかを表示するLEDの「マーシャリングシステム」も装備される。
ボディカラーはアストンマーティンのレーシンググリーン。アストンマーティンが61年の時を経てF1の世界へと戻ってきたことを記念したもので、F1のセーフティカーとして、専用のグラフィック、無線アンテナ、SAFETY CARの文字が浮かび上がるLEDリアナンバープレート、そしてルーフマウント式のカスタムLEDライトバーが備わる。このライトバーはエアフローを整えて大型リアウイングへと導くように設計されている。
このセーフティカーはレース中の平時ピットレーンで待機するが、F1のセーフティカーのドライブを担当するベルント・マイレンダー氏は「このオフィシャルセーフティカーは美しく、高いパフォーマンスを備えたクルマであり、アストンマーティンのエキサイティングな新時代を示すものです」とコメントしている。
メディカルカーはブランド初のSUVのDBXに決定
オフィシャルメディカルカーは、アラン・ヴァン・デル・メルヴェ氏が運転するアストンマーティンDBX。セーフティカーと同様、ライムグリーンを配したアストンマーティンのレーシンググリーンを纏っている。
搭載エンジンはDB11やヴァンテージにも採用される4L V8ツインターボ。550psの最高出力と700Nmの最大トルクを発生し(セーフティカーのヴァンテージよりも強力)、0→100km/h加速は4.5秒、最高速度は291km/hに達すると公表されている。これらの要素により、FIA医療チームは緊急事態に迅速に対応することができる。
インテリアトリムは基本的に市販車両から変更はないが、リアシート中央席はなく4人乗りとなり、それぞれに6点式セーフティハーネスを備えたスポーツバケットシートが装着されている。メディカルカーにはFIAのメディカルレスポンスコーディネーターであるDr. イアン・ロバーツと地元の医師が乗り込む。
セーフティカーと同様、ダッシュボードには2つのスクリーンが設置されており、レースのライブ映像や「マーシャリングシステム」などを表示するほか、最先端テクノロジーを駆使したレーシンググローブ(手袋)によって計測されたドライバーの生理学的データをリアルタイムに表示するシステムが備えられている。
また、メディカルカーには大型の医療バッグ、AED(自動体外式除細動器)、消火器2台、火傷対応キットなどといった大量の装備類が搭載されるが、632Lのラゲッジスペースを備えたDBにはまだ十分な余裕があるという。もちろん、専用グラフィック、LEDリアナンバープレート、LEDライトバーなどメディカルカーに必要なものが装備されるのは言うまでもない。
アストンマーティン・ラゴンダ最高経営責任者(CEO)のトビアス・ムアースは「60年の時を経て、アストンマーティンがモータースポーツの頂点であるF1に復帰したことを誇りに思っています。そして、ヴァンテージがF1のオフィシャルセーフティカーに、DBXがメディカルカーとして、世界中のサーキットで重要な役割を果たすのを目にする体験は、私たちにとって誇り高い瞬間となるでしょう」と語っている。
いずれの車両もシルバーストーンにあるアストンマーティンの施設において高速耐久性評価やアグレッシブなサーキット走行などを初めとするテストが繰り返し行われており、その合計走行距離は1万5000kmにも上ったという。
アストンマーティンのオフィシャルセーフティカー/メディカルカーは、3月12日から14日までの3日間、バーレーンで行われるプレシーズンテストで初公開。レースデビューは3月26日から28日の日程で同じくバーレーンで開催されるF1開幕戦「バーレーンGP」となる。
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