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R35GT−R再発見 15年を生き続けるゴジラ 高まり続けた性能と価格 まだまだ現役を張れる実力

掲載 更新 14
R35GT−R再発見 15年を生き続けるゴジラ 高まり続けた性能と価格 まだまだ現役を張れる実力

15年目の『ゴジラ』

日本国外では、よくゴジラにたとえられる日産GT−R。それは巨大で、恐ろしげで、モーレツなクルマだから。けれども今では、もうひとつ理由が増えている。R35型は、映画の中の怪物のようにすっかり古ぼけたからだ。なにしろ、登場から今年で15年も経つのだ。モデルライフとしてはきわめて長い。

【画像】写真で見るGT−Rニスモ 全17枚

デビューは2007年の東京モーターショーだった。そのときから数えて、英国の首相の座には4人が就いた。この年の半ばに代わったぶんも含めれば5人だ。もしかしたらR35が新車で買えるうちに、もう一回くらい交代劇があるかもしれない。

F1だと、R35登場年のチャンピオンはフェラーリに乗るキミ・ライコネンだった。iPhoneが発売されたのも、ハッシュタグやツイープなどという新語が生まれたのも、世界金融危機が起こったのもこの年だ。どれもずいぶん前のことに感じられる。

そもそも、主要自動車メーカーの新車で買えるモデルに、R35と同期のものがあるだろうか。改良を重ねながら15年も売られているのは、フィアット500くらいしか思いつかない。

もちろん、この長い年月の間にGT−Rは数多くの改良を受けてきた。しかし、2013年にニスモ仕様が追加されて以来、それ以上に目立つ変更は行われていない。600psのVR38DETTは、今もニスモのノーズにそのまま積まれている。

911ターボSより高い価格

筆者は、このクルマの起源を考慮するに、こう思わずにいられない。これは、チーフエンジニアを務めた水野和敏氏に、日産を離れようと決意させたクルマだろうと。水野氏は、彼の作り出すクルマは無駄を省いたほうがいい類のものだと長年にわたり声高に主張してきたという。ところがGT−Rニスモは、その原則と真っ向からぶつかるクルマだ。自身の信念に対し、聞く耳を持たなくなった会社を、彼は去ることにしたのだと、筆者はみている。そうして、水野氏の退社と入れ替わるようにして世に出たのが、GT−Rニスモだった。

そのニスモ、クルマ自体は発売当時から大きく変わっていないにもかかわらず、価格は大幅に上昇した。2015年初頭のオートカーを見ると、およそ12万5000ポンド(約1938万円)ほどの金額がプライスリストに記されている。これは、GT−Rの標準モデルより5万ポンド(約775万円)ほど高い。70psの馬力差に対して、この差額が妥当か否かは、この際、論じないでおこう。

現在、ニスモ仕様の価格は18万95ポンド(約2791万円)だ。物価上昇や原材料費高騰もあるが、日産がニスモを、プレミア価格をつける位置付けのブランドとして確立したがゆえに、このプライスとなったのだろう。標準モデルは、これよりほぼ10万ポンド(約1550万円)は安く買えるのだから。

いずれにせよ、GT−Rがカリスマ的な人気を見せるモデルであることに異論はない。しかし、その人気が販売実績に結びついているとは言い難い。欧州では、本格販売が開始された2009年に2000台ほどがオーナーの元へ嫁いだが、昨年は389台だった。パンデミックや半導体不足の影響も否定できないが、大幅な減少だ。台数を稼ぐようなクルマではないので、GT−Rニスモは最上位モデルにふさわしい値付けをできた、と見ることもできるが。

それでもこの価格は、992型のポルシェ911GT3より5万ポンドほど高い。最新の911ターボSにいたっては、実用面で大差なく、馬力では上回るにもかかわらず、1万5000ポンド(約233万円)は安い。マクラーレンの最新モデルであるアルトゥーラに近いプライスだ。つまり、これだけの大枚をはたいても、手に入るのは現代最高のスペックではない。それでもこのクルマを選びたくなる理由はどこにあるのか、それを探ってみようというのが今回の趣旨だ。

ジキル抜きのハイド

日産から借り受けた試乗車のモデルイヤーは2020年だが、最新モデルと大して違いはない。標準モデルとの違いは、まずはパワーであり、それをもたらす改良版ターボチャージャーだ。さらに、カーボンセラミックブレーキを装備し、ボディパネルやエアロパーツ、シートなどがカーボン素材の専用品となっている。いってみれば、ただのクルマではなく、サーキットで戦うための兵器のようなマシンだ。それも、500年前の投石器のような類の。

これまで、このゴジラに心酔したことはなかった。はじめて乗ったとき、同僚たちは大袈裟すぎる言葉を並べ立ててそのクルマを称えたが、後席に座った筆者は困惑しながら、小声でつぶやいたものだ。「理解できない」と。なにが理解できなかったのか。それは当時、すでに強烈な速さとより俊敏な走りをみせる、はるかに軽量で実用性にも優れる三菱ランサーエボリューションが半額ほどで買えるのに、GT−Rのなにが、それを超えるほどすばらしいのか、ということがだ。その疑問に対して、確信を持てる答えが見つけられなかったのである。

もっとも、それは昔の話。今回はまた、頭を切り替えるとしよう。現在のF1王者が10歳の頃に登場したGT−Rは、当時のマックス少年が目にしたであろう姿とほとんど形を変えずここにある。コクピットはそれほど巧妙に作り込まれた空間ではない。しかしだ。そう思うのは、15年という歳月を経た今だからこそだといっていい。実際のところ、個人的にはかなり好ましい。

スマートで、きらびやかで、タッチ式画面を備えはしても、ほとんど可愛げがない最近のクルマのキャビンに比べれば、滅びへの道を歩んでいる実体スイッチの数々には実直さと確実さを感じられる。かつてはケーブルとロッドを介してボーイング747を操っていたブリティッシュ航空のパイロットたちが、今やのっぺりしたエアバスの操縦席で、トゥールーズのコンピュータープログラマーの望んだ飛ばし方ができるよう再訓練を受けているあわれに思いを馳せてしまった。

エンジンはアイドリングでも荒々しい音を立て、じつに頼もしい。GT−Rニスモは、911ターボSのような、ジキルとハイドみたいなクルマではない。エンジンをかけてから切るまで、ずっとハイドのようなクルマだ。ただし、破滅的な二日酔いで、バットを構えたこちらへ向かってくるハイドといったところ。多少なりとも手がかかる。

言っておかなければならないのは、乗り心地がすばらしいクルマではないということだ。どれくらい乗り心地が悪いかというと、うっかり超ハードなRモードに入れてしまっているのではないかと、無意識に確認してしまうくらいだ。実際には、そんなことはしていないのだが。

走るほどに上がる好感度

もう一度、GT−R初体験の記憶をたどると、あの騒ぎはいったい何だったのかと不思議に思う。1700kgというウェイトはかなりの重量級で、そのパワーもかつては誰もが息を呑むほどだったが、いまやSUVやワゴン、はたまたEVでも達成できるものとなった。筆者はともかく、世の中的にそれは大事件ともいうべきクルマだったわけだが、それは今も通用する話なのだろうか。

しかし、のんびりと山道を走るうちに、以前よりは少しこのクルマが好きになっていた。3.8LツインターボV6が発するサウンドは、みごとなまでに偽りのないものだ。ときおりわずかにかかるブーストは、全開にすればまだまだ侮れない実力の持ち主だということをそれとなく示す。

ステアリングのよさは、想像をはるかに超えていた。きわめてダイレクトで、手応えは完璧。いまどきめったにないくらい、一体感が味わえる。

それゆえ、目的地に着く頃には、このクルマをすっかり把握できたように感じるまでになっていた。そこで、Rモードを選んで、全開で飛ばすことにした。

すべては一瞬の出来事だった。エンジンは雄叫びをあげ、ステアリングは右へ左へクルマを進ませる。指は必死にシフトチェンジを繰り返し、息遣いは荒く、早くなっていく。グリップはとてつもなく強力だ。最新のパフォーマンスカーの基準に照らしても、とくにフロントエンジン車としてはかなりのものだと言える。トラクションも信じ難いほどあり、いったんクルマと格闘するようなドライバー側の混乱ぶりが収まれば、じつに繊細な挙動でスライドさせることもできるようになる。

万人受けはしないが夢中になれるクルマ

頭はいっぱいになり、耳はノイズで聾され、手は車体を正しい方向へ向け続けることに終始する。最初のうちは、すべての感覚がバラバラに襲ってくるように思える。しかし、軽量鍛造ホイールの転がる距離が伸びるにつれ、自分がこのクルマのやり方になじんでくるのを感じる。噛み合ってくる、という感じだ。繊細ではないが、忙しいことには変わりない。常につま先を動かし続け、頭も身体もフルに使ったワークアウトを求めてくるクルマだ。そして、過去の記憶の中にあるGT−Rよりずっと楽しい。

なぜかと考えたが、その答えを導き出すのにそう時間はかからなかった。GT−Rニスモがデビューした当時でさえ、このクルマには先祖返りのようなところがあったのだ。じつのところ、この手のクルマが新たに造られることはもはやない。最新のパフォーマンスカーはこれよりずっと洗練され、クレバーで巧妙だが、ここまで夢中になれるかは疑問だ。個人的な意見をいえば、クルマがもたらす楽しみの大きさとは、どれくらい夢中にさせてくれるかということがダイレクトに表れたものだ。それはヴィンテージのベントレーでも、最新ハイパーカーでも変わらない。いわんやGT−Rをや、である。

正直、これが万人受けするクルマだとは思えなかった。それは自分も含めての感想であり、GT−Rニスモが新型車だったときもそうだった。それからますます時を重ねて、いかなるライバルたちよりも長寿となり、価格も上がった。もはや終わったクルマであってもおかしくない。

ところが、実際には生き残っていてくれてうれしいと思えるクルマだった。観光地に残された古い大きなガレオン船のように、乗ってみるとすばらしく、見渡せばそれがどう扱われていたものだったかを思い起こさせる。そして気づくのだ、進歩は必ずしも正しい方向に進むものではないのだということに。

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みんなのコメント

14件
  • もう15年になるのか。
    そうだよなぁ〜。
    時が経つのは早い。
  • 日本の各メーカー、今までは4〜5 年でフルモデルチェンジか生産終了。

    それがGT-Rは15年間毎年少しずつ進化して、今でも新車で買える。
    これってすごい事だと思うぜ。

    メーカーによっては莫大な開発費を掛けてフラッグシップ車を作っても、思ったように売れないとすぐ止める会社もある。

    これから先、純Eg車が残るのは難しいだろうが、GT-Rにはできるだけ現役でいて欲しいぜ
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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