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【試乗】リヤウインドウもなければホイールまでカーボン! 最強のアルピーヌA110Rはもはやレーシングカーの領域だった

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【試乗】リヤウインドウもなければホイールまでカーボン! 最強のアルピーヌA110Rはもはやレーシングカーの領域だった

 この記事をまとめると

■アルピーヌA110に追加された「R」の名を冠したモデル「A110R」に中谷明彦さんが試乗

究極の1台をベースにした日本限定6台のスペシャルモデル! アルピーヌA110R ル・マンを販売

■パワートレインはそのままに軽量化によってパワーアップを図ったモデル

■軽快な身のこなしと人馬一体感でまるでフォーミュラカーに乗っているかのような印象

「レース」ではなく「ラディカル」を表す「R」

 ルノー(アルピーヌ)の伝統的なスポーツモデルA110に「R」の名を冠したモデルが追加設定された。このRのネーミングは「レース」や「レーシング」といった意味あいからではなく、「ラジカル(radical)」という 「過激な様」、「激烈な」という意味あいを持たせて授けられたものだという。

 とはいえ、そのスペックを見ると、トラックエディションとも言えるサーキット走行に主眼を置いたようなハードなアイテムを多く採用していることに注目させられる。

 早速試乗する機会を得たので走らせてみることにしよう。

 ドアを開けてコクピットに着くと、まず非常にフィット性の高いサベルト社製カーボンバケットシートの居心地がよく、体にうまくフィットしてくれる。

 前後スライドの調整は可能だが、リクライニング機能は持たない。このあたりは従来のA110Sも同様なのだが、A110Rにはさらに5点式のフルハーネスシートベルトが標準装備される。両肩とウエスト、さらに股ベルトの5点をバックルで固定し接合。ベルトの張りを締め上げることで体をレーシングカー並みに高いホールド性で支えることができる。

 ちなみに公道仕様のモデルであるので、このバックルできちんと5点のシートベルトが装着されていないと、シートベルト非装着のアラームが警報を鳴らす仕組みとなっている。

 ステアリングにはもちろんエアバッグが装着され、安全性を確保していて、一般道を走行するうえで問題のない安全装備仕様として成立させているのである。メーターパネルやコンソールの出立ちは従来のモデルとほとんど変わらない。スタート/ストップボタンを押してエンジンをかけるなどの作法や仕組みも同様である。

 エンジン自体は4気筒の1.8リッターターボチャージャー付きエンジンで、最大出力は300馬力/6300rpm、最大トルク340Nm/2400rpmということで、これはA110GTやSと同等の数値となっている。また、トランスミッションも7速DCTツインクラッチが同様に設定されており、パワートレインの構成はA110GT/Sと同じだ。

 しかしながら、 最高速度は285km/hにまで高められていて、260km/hのSよりも速く、差別化されていると言えるのだ。ちなみに、ローンチコントロールを使用しての0-100km/h発進加速は3.9秒と俊足を発揮する。この速い最高速度を可能としているのは、エンジンの出力アップではなく、ボディの軽量化と空力特性の向上によるものだという。

 走り始めると、非常にDCTの変速作動マナーがよく、またエンジンのドライバビリティも低速走行等の市街地レベルでもうまくマネージメントされていて、 なんら違和感を覚えない。スポーツカー特有の気難しさも感じさせない。

 そして、最初のカーブを曲がると、このA110Rが、まるで自分の手足のように自由に扱えるのではないかという気分が湧き上がってくる。それはひとつにはバケットシートとフルハーネスベルトによる体のホールド性やフィット感によるクルマとの一体感の高さによるものであり、また一方で、ミッドシップ で低められた車高のスポーツカーでありながら、非常に前方の視界と車体の見切り性が良く、狭い道などでも不安なく、車体の寸法を気にしないで走ることができる一体感の高さに基づいていると言えるだろう。

 車速を上げていくと、タイヤの転がりに対する路面追従性の高さ、また路面の段差やうねりなどに対する許容度の高さなどが高度であることがわかる。 固められたサスペンションや低められた車高などにより、一見乗り心地が悪そうなイメージを持たれるかもしれないが、実際はそうではない。

 一般道を走ってもタイヤの接地性に優れ、また4輪の接地荷重が均等に感じられる。不快なハーシュやバイブレーションは起こさず、極めて快適性が高く感じられるのが不思議だ。筆者の経験から言うと、 本物のカーボンモノコックのレーシングカーは、一般的には乗り心地が悪いと思われがちだが、じつは低速で走っても非常に快適に感じられるのだ。

 ドライバーの感覚に対して違和感がなく、がっちりとした剛性感に包まれている印象で、路面反力が小さく、瞬時に収束されるので、むしろ快適だ。そんなレーシングカーの快適性に極めて近い乗り味が、このA110Rからは感じられる。

 装着されているタイヤはミシュラン社パイロットスポーツ・カップ2。A110Sでは同じくミシュラン社のパイロットスポーツ4が標準装着されているが、それよりワンランク、グリップレベルの高いものが採用されている。

 また、そのタイヤが装着されるホイールにも注目しなければならない。4輪すべてのホイールがカーボン製で極めて軽量なホイールとなっている。

 後輪のホイールには同じくカーボン製のホイールカバーが装着され、空気の流れを制御している。ホイールをカーボン製とすることで、従来のアルミニウムやマグネシウム合金製に比べて圧倒的な軽量化が可能となり、バネ下重量の低減に役立っている。

 バネ下重量の低減が路面へのタイヤの追従性を高め、また ダンパーの作動も微低速から減衰力が立ち上がる。つまりサスペンションの動きが向上してさまざまな路面への追従性が向上するのである。

「バネ下重量の1キロの低減は、バネ上重量の20キロに相当する」とも言われ、 高性能車にとって非常に重要なことなのだ。A110Rが非常にコストのかかる手法ながら、カーボンホイールの採用にアプローチしたことは、走りに対する熱意のようなものを感じさせるのである。

 サーキットで思う存分に限界域まで試したい

 また、 走り始めて最初に気が付くのは室内のルームミラーがないことである。それもそのはず、従来のA110Sにはあったコクピットとエンジンルームの間のバルクヘッドにある後方確認用の窓が、Rには無いのである。コクピット後ろのバルクヘッドは1枚の隔壁となっていて、後方はまったく見えない。

 リバースギアにセットすればリヤカメラが起動し、モニターで後方を視認することができるが、通常走行をしている限りにおいては、左右両サイドのミラーで後方の様子を伺い知るしか方法がない。

 ルームミラーがなくても自動車登録が可能であることはメーカーの方としても意外なほどの驚きであったとも聞いたが、後退時はカメラが起動することによって、実用上の問題はほぼないと言える。

 車速を高めコーナーを走り抜けていくと、このクルマの前後バランスが非常によく、路面に張り付くようなダウンフォースが発揮されていることがわかる。

 フロントのボンネットフードやリヤのエンジンフードもフルカーボン製で軽量化され、 また空力的デバイスもフロント、ボディ両サイド、リヤスポイラーおよびアンダーボディディフーザーとA110Sから大きく進歩している。これらの空力デバイスは実効空力装置として機能していて、285km/hで走っているときにはフロントで30kg、リヤでは80kgのダンフォースを発生しているという。

 1090kgと軽量化された車体は、バネ下重量の低減と相まり、運動性能が極めて高くハンドリングは軽快なのだが、 こうした空力特性の効果も加わり、路面に張り付くようなコーナリングが可能となっている。今回は一般道での試乗ゆえ限界性能を試すことはできないが、逆にこうした実用速度域においてもさまざまな機能が効率よく性能を発揮し、A110Rの走りを支えているということがわかった。

 ワインディングの長い下り区間ではブレーキも加熱しやすいものだが、A110Rでは フロントブレーキのクーリングダクトが追加され冷却性能を高めている。それはサーキット走行などでのブレーキフェード現象を低減させる効果があり、一般道においてもブレーキの放熱性に大きな余裕をもたらすことにつながっている。

 サスペンションはスプリングのレートやショックアブソーバー特性が見直され、スタビライザーによるロール剛性も高まっている。アルピーヌの考え方で1Gあたりのロール角を係数化(deg/g)しているが、従来モデルでは3.3~2.7であったものが、A110Rでは2.3deg/gまで高められていることも、ロール剛性の高さとフラットな車体姿勢が維持されていることを示しているのがわかるだろう。

 走り込むほどに、その軽快な身のこなしと人馬一体感と言えるような乗り味がドライバーとクルマの一体感を生み、まるでフォーミュラカーに乗っているかのような印象を覚えた。たとえばランボルギーニのウラカンSTOがF1マシンだとすれば、このA110RはF3と言えるような走りだった。

 レーシングカーのドライブで長いキャリアのある人であれば、A110Rの乗り心地をは快適であると感じるだろう。単純にサスペンションの硬い柔らかいだけで言えば硬いのだが、 路面からの衝撃の受け方、そのいなし方、そういったドライバーの感覚として伝わるものが極めてレーシングカーに近い。

 大きな入力があっても、サスペンションや車体の剛性が高く、不快な振動やきしみなども発生しない。こうしたことがむしろドライバーにとって安心感を生み、快適性、快適さとして感じ取れると言えるのである。

 エンジンフードはほとんどカバーリングされていてエンジン自体を見ることはできない。 リヤエンドの小さなトランクルームを開け、 そのなかのボルトをいくつか外すことによって初めてエンジンフードを開くことができる。

 エンジンの上には車体の剛性を高めるクロスメンバーが張られているが、A110RではA110Sに比べてアームが追加されていた。

 フロントのカーボン製フードの下にはトランクルームが備わっていて、実用性能も最低限備えていると言えるだろう。

 さて、このA110Rに装着されているミシュランパイロットスポーツ・カップ2のタイヤは、一般道の日常使用で履きつぶしてしまうのはあまりにももったいない。このタイヤの性能はおそらくサーキットで最大に発揮されるものであり、そうした機会用に取っておくことをおすすめしたい。

 日常ユースにおいてはミシュランパイロットスポーツ4でも十分であり、それはA110Sに標準装着されているもので、サイズ的にもマッチングしているはずである。

 今回はA110Sにも試乗できたが、動力性能的にはほぼA110Rと一緒なのだが、アルミホイール仕様でバネ下重量が重いこと、また空力的なデバイスや最低地上高などが異なり、こちらはより一般道で扱いやすい特性であるセッティングになっている。

 A110Rは車高調整機能付きのサスペンション、ダンパー/スプリングユニットを備えており、 試乗車は一般道に適したライドハイトとなっていたが、サーキット走行を行う際には、さらに10mm前後車高を下げることが推奨されている。

 機会があれば、ぜひこのA110Rで日本のさまざまなサーキットを走らせてアタックしてみたいものだ。

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