新車の評価は、時間の経過に伴って変化することも多い。
最初の評価は高かったのに、少し時間が経つとそうでもなかったり、逆にデビュー直後の最初の評判や売れ行きはいま一歩でも、少し時間が経つと、意外に良いクルマだったということもある。
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そこで今回は、そうした過大評価と過小評価となりそうなクルマを取り上げて紹介する。
文/渡辺陽一郎
写真/トヨタ、日産、ホンダ、スズキ
[gallink]
■過大評価のクルマ1/トヨタヤリス
ヴィッツの後継として販売開始されたヤリス。このハッチバックはヤリスシリーズの中でも、走りに振っている
まず注目したいのはヤリスだ。ヤリスは2020年2月の発売時点では、東京地区以外はネッツ店の専売車種だったが、同年5月にはトヨタの全店で全車を扱う体制に移行した。
そのために設計が新しく価格の割安なヤリスは、トヨタの全店(4300店舗)で大々的に販売されて売れ行きを伸ばした。2020年4~7月は、ヤリスクロスは売られていなかったが、5月と7月にはヤリスだけで小型/普通車登録台数の1位になった。7月の登録台数は1万4000台を超えている。
しかし実際に使うと、不満な点も散見される。ボディスタイルについては、サイドウインドウの下端を後ろに向けて大きく持ち上げたから、斜め後ろの視界が悪い。
居住性では後席が狭い。身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ1つ少々だ。アクアの2つ弱に比べると明らかに狭い。
身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ1つ少々
燃費向上のために転がり抵抗を抑えたタイヤを装着しているので、乗り心地は全般的に硬い。特に14インチタイヤは、指定空気圧も前輪が250kPa、後輪は240kPaと高く、突き上げ感が伴う。
その代わりハイブリッドXのWLTCモード燃費は36.0km/Lと優秀だ。国内で購入できる4輪車では最良の数値を達成したが、機能のバランスはアクアが優れ、装備を充実させて価格は割安だ。
■過大評価のクルマ2/トヨタヤリスクロス
ヤリスクロスはヤリスに対して車高が上がり、また車幅も3ナンバー化(1765mm)されている
ヤリスクロスも、発売直後の2020年11月などは、1ヵ月に1万台以上を登録した(ヤリスを除く)。運転がしやすく価格の割安なSUVとして人気を得たが、後席はSUVとしては狭い。荷室容量も小さく、乗り心地は硬い。
ヤリスよりやや後席の居住空間が広くなったヤリスクロスの室内。ラゲッジルーム容量は5人乗り時で最大390Lで、対するカローラクロスが487Lだ
そのために今では、2021年9月に登場したカローラクロスの販売が好調だ。2021年11月の登録台数は、カローラクロスが7300台で、価格の安いヤリスクロスは6480台だ。
■過大評価のクルマ3/ランドクルーザー300
ランドクルーザーは日本市場でも一定の人気を得ているが、納期が非常に長くなっている
今はSUVが人気だが、大半の車種は、乗用車と共通のプラットフォームを使うシティ派だ。その点でランドクルーザーは、後輪駆動をベースに開発された悪路向けのSUVになる。耐久性の優れたラダー(梯状の)フレームに、ボディ、エンジン、足まわりを搭載している。
走破力を高める電子制御機能も豊富に採用され、路面が極端に滑りやすかったり、デコボコの激しい場所でも確実に走行できる。
しかし納期は極端に長い。販売店では「納車される時期はまったく分からない。メーカーは2年以上としているが、4~5年を要する可能性もある。注文は受けられるが、納期を伝えられるのは、生産時期が近付いた時になる」という。
つまり現時点では買えないクルマだ。そのために先代ランドクルーザーの中古車価格まで高騰している。高年式の車両は、先代型なのに、新車価格を200万円以上も上まわる金額で販売されている。
■過大評価のクルマ4/ホンダシビック
シビックは初代モデルを1972年に発売して以来、ホンダの根幹に位置するクルマであり続けている。しかし近年のシビックは海外指向を強め、2010年には国内販売を一度終了した。それを2017年に復活させて、2021年には現行型へフルモデルチェンジしている。
発売後1ヶ月での新車販売におけるMT比率が3割を超えるシビック。1.5LターボはNA2.4L級の性能を発揮する
全長が4550mm、全幅が1800mmのボディは、かつてのシビックに比べると大幅にサイズアップされた。そのためか前後席ともに居住性は快適で、走行安定性も高い。
問題は価格だ。1.5Lターボエンジンは2.4Lと同等の動力性能を発揮して、カーナビなども標準装着するが、価格はベーシックなLXでも319万円に達する。
ちなみにインサイトLXは、カーナビなどを含めてシビックLXと同程度の装備を装着して、ハイブリッドのe:HEVを搭載しながら価格は335万5000円だ。シビックLXとの差額は16万5000円に収まる。
このように同じホンダ車のインサイトと比べても、シビックは割高だ。走行性能は優れているが、過大評価になっている。発売直後の2021年9/10月には約1200台を登録したが、11月には1000台以下まで下がった。
ホンダの価格設定は、市場ごとに収支を合わせる考え方だ。そうなると販売規模の小さな日本国内では、1台当たりの価格が高まってしまう。その結果、売れ行きがさらに下がる悪循環に陥っている。
■過小評価のクルマ1/トヨタカローラセダン
カローラセダンは販売数こそ少ないが、基本部分はカローラツーリングと共通だから同程度の商品力が備わるという
2021年11月におけるカローラシリーズの国内販売状況を見ると、カローラクロスが7300台登録され、シリーズ全体の54%を占めた。次に多いのがワゴンのカローラツーリングで2570台を登録した。シリーズ全体の19%になる。逆に販売比率の低い車種がカローラセダンで、2021年11月の登録台数は650台だ。シリーズ全体に占める比率も5%まで下がる。
この背景には、セダンというカテゴリーの販売低迷がある。今はカローラに限らずセダンが全般的に下がり、マークX、プレミオ&アリオンなどは生産を終えた。今のセダンの最多販売車種はクラウンで、2021年11月は1619台だ。カローラクロスの22%に留まる。
従ってカローラセダンの売れ行きは、セダンであることによる過小評価だ。基本部分は、2570台を登録したカローラツーリングと共通だから、カローラセダンにも同程度の商品力が備わる。
現行カローラセダンは3ナンバー車になったが、全長は4495mm、全幅は1745mmだから、依然として新車で購入できるセダンでは最も小さい。1.8Lノーマルエンジンを搭載したSは、実用装備を充実させて価格は213万9500円だから割安だ。
欠点として後席の狭さを挙げられるが、セダンを使うすべての人が3名以上で乗車するわけではない。セダンには後席とトランクスペースの間に骨格や隔壁があり、走行安定性、乗り心地、静粛性でも有利になる。カローラセダンはもう少し高く評価して良いクルマだ。
■過小評価のクルマ2/トヨタグランエース
上級ミニバンはアルファードの独壇場で、グランエースは販売が低迷している。しかし大人6名が乗車して長距離を快適に移動できるミニバンは、日本車ではグランエースプレミアムだけだ。
グランエースは全長×全幅×全高が5300×1970×1990mmで、620万円~。「プレミアム」は650万円~だ
アルファードも多人数乗車は可能だが、3列目シートはコンパクトに格納することを重視するから、背もたれや座面が薄く座り心地は良くない。床と座面の間隔も足りず、足を前側へ投げ出す座り方になる。このようにアルファードの3列目は、1/2列目に比べると、居住性が大幅に下がる。
その点でグランエースプレミアムの3列目は、2列目と同じエグゼクティブパワーシートだ。2列目に比べると、頭上空間が少し減って乗り心地は若干硬いが、6名が長距離を快適に移動できる。もっと高く評価されて良いクルマだ。
プレミアムの3列目は、2列目と同じエグゼクティブパワーシート。巨大かつスクエアな車体形状だからこそできる芸当だ
■過小評価のクルマ3/ホンダフィット
売れ筋コンパクトカーの2021年1~11月における1か月平均の登録台数を見ると、ヤリスは約8300台(ヤリスクロスとGRヤリスを除く)、ノートは約7400台(ノートオーラを含む)だが、フィットは約4800台と低迷している。
しかしこの売れ行きは過小評価だ。フィットは全高を立体駐車場が使いやすい高さに抑えたコンパクトカーでは、車内が最も広い。特に後席の足元空間は、ミドルサイズセダン並みだ。ヤリスに比べると乗り心地も優れている。フィットは燃料タンクを前席の下に搭載したから、荷室の床も低く、後席を畳むと大容量の空間になる。
ライバルに比べて販売台数が低迷するフィット。N-BOXと需要が重複しているという
ハイブリッドのe:HEVは、通常はエンジンが発電してモーターを駆動するが、高速巡航時にはエンジンが直接駆動して燃費効率を向上させる。しかも売れ筋グレードのホームでは、1.3Lノーマルエンジンとe:HEVの価格差を34万9800円に抑えた。e:HEVは価格の割安感でも注目される。
それなのになぜフィットの売れ行きは伸びないのか。ホンダの国内における新車販売状況を見ると、N-BOXが圧倒的に多く、ホンダ車全体の30%以上を占める。フィットの価格はN-BOXと重複しているから、需要を奪われている面がある。
■過小評価のクルマ4/スズキソリオ
コンパクトカーではソリオも、フィットと同様に過小評価されている。2021年1~11月の1か月平均登録台数は約3800台だ。少ない台数ではないが、販売が好調ともいえない。
特にライバル車のルーミーが1万1300台売れていることを考えると、登録台数が33%のソリオは過小評価されている。
ライバルに対し商品力に優れているが、売れていないというソリオ。マイルドハイブリッドを搭載したグレードもある
ソリオの商品力は、ルーミーに比べて明らかに高い。ソリオはルーミーよりも、走行安定性、乗り心地、ノーマルエンジンの動力性能、ノイズ、後席の座り心地などで上まわる。ルーミーがソリオに勝てるのは、荷室の床面を反転させると汚れを落としやすい積載性の工夫、ターボエンジンの設定くらいだ。
ルーミーは小型/普通車が中心のトヨタ車、ソリオは軽自動車が主力のスズキ車、という違いにより、ソリオの過小評価とルーミーの過大評価が生じている。
■過小評価のクルマ5/日産アリア
アリアはSUVスタイルの電気自動車で、2020年7月にボディサイズ、駆動用電池の総電力量など、車両の概要を発表した。
アリアは本来なら日産のブランドイメージを高める中心的な役割を担うべき先進的な車種だが、ユーザーに伝わりにくい状態になっているという
ところがコロナ禍の影響もあり、その後の動きは鈍い。2021年6月に予約注文限定車のアリアリミテッドを発表したが、納車は先送りされている。同年11月には正式なグレードとなるB6の価格を発表したが、ほかのグレードは不明だ。
つまりユーザーから見ると、アリアは売っているのかそうでないのか、分からない状態だ。アリアは日産が特に力を入れて開発した商品で、リーフと同様の電気自動車になる。
本来なら日産のブランドイメージを高める中心的な役割を担うべき先進的な車種だが、実際には中途半端に扱われ、過小評価されている。
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