■なぜ急速に利便性が向上した? 最新の車載音声認識機能
ハンドルについている、「人が声を発している」ようなピクトグラム(絵文字)があるボタン。皆さんは、これが何だか知っていますか。もしかしたら、オペレーターにつながる有料サービスとか、110番や119番などの緊急連絡用とか、そんなふうに思っている人も多いかもしれません。
このボタンは、クルマの音声認識機能を使うためにあります。音声認識といえば、日本ではiPhoneのSiri(シリ)が知られていますが、クルマの場合はどのようなシステムになっているのでしょうか。
スマートフォンの音声認識機能は近年普及が進んでいて、最近の若い世代、とくに中学生や高校生はスマホでインターネット検索をする際、文字入力より音声入力による音声認識を使う場合も増えているようです。
車載の音声認識は、スマホが一般化する2000年代後半よりも前から、市場導入が進んできました。
ところが、なかには使用した経験がある人もいるかもしれませんが、かつての車載の音声認識の精度はあまり高くありませんでした。クルマのサービスマニュアルに記載されている、ある程度パターン化した会話をしないと、システムが認識してくれなかったのです。
また車種によって、価格の安いモデルでは認識率が低く、価格の高いモデルでは認識率が高い、といった自動車メーカーもありました。そのため、ユーザーの間では「車載の音声認識は使えない」が当たり前になっていた印象があります。
こうした状況は、最近大きく変わりました。例えば、「ハイ、メルセデス」と呼びかけて操作するメルセデス・ベンツの車載インフォテインメントシステム「MBUX」。少し長めのセンテンスで話したり、やや方言が混じった表現をしても、しっかりと認識してくれるのです。
国内メーカーでは、トヨタは2019年9月発売の新型「カローラ」を皮切りに、トヨタの全モデルで展開するディスプレイオーディオで、音声認識の認識率は一気に上がりました。こうした変化の背景にあるのが、通信によるコネクテッド技術です。
古いタイプの車載型の音声認識は、その名の通り音声認識をおこなうソフトウェアがクルマのシステムに組み込まれています。
自動車メーカー各社は、カーナビ地図の更新時期に合わせるなどで、ディーラーによる定期整備の際に音声認識ソフトウェアのバージョンアップをしてきたのですが、多彩な表現に対応することに限界がありました。
一方、新しいタイプの車載型の音声認識は、車載ソフトウェアと通信によるクラウドシステムとの双方を状況によって使い分ける、いうなればハイブリッド型の音声認識システムを導入しています。
こうした新しいタイプでは、クラウド上で各種言語や方言に対応するだけでなく、かなり長いセンテンスのなかでさまざまな要求があっても対応してくれます。
メーカーによって差はありますが、例えば「明日夜7時半に、銀座で人気のイタリアンレストランを3人で予約して」といったものです。
■収集した音声データの行方は?
なぜ、こうした高度な音声認識が可能なのでしょうか。
筆者(桃田健史)は音声認識技術を開発する米大手企業のシリコンバレーなどの研究所を取材したことがあります。そこで主任研究員が説明したのが、「自然言語理解(NLU)」という考え方です。
人間の言語には基本的に同じ要素があり、日本語、英語、中国語など言語が違っても言語を理解する手法は同じだといいます。
そのうえで、NLUを使って解析したデータをもとに、レストラン検索サイトや天気情報サイトなど、既存のデータソースと連携することで、音声認識の精度を一気に上げているのです。
では、こうして集まられた個人データはどこにいってしまうのでしょうか。
基本的には自動車メーカーが個人を特定しないことを条件に集約しています。こうしたサービスを受ける際、ユーザーは個人情報の取り扱いについて承認をしてから使用することになります。
このほか、スマートフォンと車載器をつなぐ、AppleCarPlayやAndroidAutoがあり、これらの音声認識では個人データはアップルやグーグル(親会社:アルファベット)に管理責任があります。
こうした大手IT企業による個人データ保護については、欧州での独占禁止法との関係性など、さまざまな議論があるところです。
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