オッサンたちの青春ハッチバック! 国産コンパクトカー文化を牽引した1台
日産自動車の業績悪化であらためてクローズアップされた、日産車の高齢化問題。
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日本車のフルモデルチェンジサイクルは、旧来の4年から昨今は5~6年に伸びる傾向に、あることはある。それでも日産の国内ラインアップを見ると、2007年12月発売のGT-Rを筆頭に10年選手がゴロゴロ。古いこと自体が悪いわけではないが、土台となるプラットフォームを含めた全面改良を行わないとデザインや技術における時代分の進化を反映させることは難しく、商品競争力を維持できない。
国内で現役を続ける4代目マーチも、この7月でリッパな10年選手。しかし思い起こせば、もともとマーチはフルモデルチェンジの周期が約10年と、日系乗用車では非常に長い商品だ。安心して付き合える欧州流のロングライフは、少なくとも3代目までは他車にない特長であり、勲章と言ってよかった。
そんなマーチの特別な存在感は、初代(K10型)によって確立された。
「先進のリッターカー」は一般公募により命名
市販予定車「NX・018」として初公開されたのは、1981(昭和56)年の第24回東京モーターショーだ。それに合わせて車名が大々的に公募され、翌82年3月「マーチ」に決定。10月に鳴り物入りのデビューを果たした。近藤真彦をイメージキャラクターに起用した「マッチのマーチ」のCMは、当時を知る人には懐かしいだろう。
初代がコンパクトカーの本場である欧州流のコンセプトを採った理由は、その出自にある。クリーンでスタイリッシュなデザインはジョルジェット・ジウジアーロ氏が手がけたものだが、日産ウェブサイトのアーカイブ(※)によれば、このデザインは日産の依頼ではなく、パッケージングを含めてジウジアーロ氏から売り込みにきたものだったのだ。
新開発のMA10型1ℓエンジンは贅沢な4気筒で、しかも日産初のアルミ製。軽量ボディに十分な57ps・8.0kgmの動力性能(グロス値)を発揮するとともに、軽自動車に肉薄する低燃費を達成していた。
室内は1クラス上に迫る広さを備え、83年には使い勝手のいい5ドアを追加。フルラインアップを持つビッグメーカーの日産が送り出した新基準のリッターカーとして、初代は国産コンパクトにおけるトップアイドルの座に駆けあがる。
ファッションに敏感な女性に向けて、内外装デザインの積極的な新提案が始まったのも、この初代から。「7色シート」(シート地の選択・交換が自由に可能)採用の「パンプス」をはじめ、「コレット」
「i・z(アイズィー)」
これら数々の特別仕様車など、ファッション性と装備を向上させたモデルを次々と繰り出した。87年に追加した「キャンバストップ」にしても、ブラックとベージュの2色を設定するこだわりだった。
怪物「ツインチャージャーエンジン」を生み出したパワー絶対主義時代
80年代は厳しい排ガス規制を克服した日本車が元気を取り戻し、パワー競争に突入した時代。マーチは走りのパフォーマンスでも大いに注目を集めた。
まず、85年に登場したのは「マーチ ターボ」だ。小径ターボを装着したMA10ET型エンジンは、当時の1.5ℓNAに匹敵する85ps・12.0kgm(同)を発揮。丸形イエローフォグを備えたエアロルックもスポーティユーザーのハートを刺激した。
88年には、ラリー用ベース車の「マーチR」が登場。
エンジンにはターボに加えスーパーチャージャーまでドッキングした、日本初となるツインチャージャーのMA09ERTを搭載! 排気量は過給係数を掛けるレギュレーションを考慮し、1.6ℓ以下のクラスに参戦できるよう987ccから930ccに縮小されていた。スペックはネット値で110ps・13.3kgmに到達。ターボのネット換算値は76ps・10.8kgmで、低回転域の過給をスーパーチャージャーが受け持ち、過給ラグを気にせずターボを大型化できるツインチャージャーの威力は絶大だった。
翌89年には、Rのいわばストリート版である「マーチ スーパーターボ」がデビュー。マーチのスポーツモデルはクライマックスを迎える。それ以降、ツインチャージャーエンジン搭載の日本車は出現していない(後付けを除く)。
Rは全日本ラリーを中心に大活躍を見せた。さらに、マーチとモータースポーツといえば、広く知られたのが「マーチカップ」だ。ビギナーはもちろん、女性やファミリーでも楽しめる入門用ワンメイクレース。ベース車両はNAで、ターボ登場前の84年にスタートしている。
以来、3代目K12型の2008年まで四半世紀にわたって開催され、モータースポーツ愛好者の裾野拡大に大きく貢献した。ちなみに、91年に発売されたジュニアフォーミュラマシン「ザウルスジュニア」には、インジェクション化によってレスポンスと出力を高めたMA10E型エンジンが搭載されている。
レトロおしゃれな派生モデルはいまなお根強い人気
そして、初代マーチで忘れることのできないモデルが、「パイクカー」と呼ばれた限定生産の派生車だ。パイク(pike)は槍や尖ったものという意味で、マーチのメカコンポーネンツを共用し、まさに時代の先端をいくレトロモダンな癒し系デザインを提案。第1弾の「Be-1」は87年に発売されるや申し込みが殺到し、その人気は転売車がプレミア価格で取り引きされるほどだった。
第2弾の「パオ」(89年)
ターボエンジンを搭載した第3弾の「フィガロ」(91年)も、女性ユーザーを中心に人気を獲得。パイクカーはカーデザインでも時代をリードしようとしていた日産黄金期の象徴の一つとして、今日まで語り継がれている。
また、前述の「ザウルス」は、もともとパオと同じ第27回東京モーターショーに出展された、オープン2シータースポーツのコンセプトカー。MA10ET+スーパーチャージャーをミッドに搭載した全長3.3mのフォーミュラタイプで、30年後の今でもクルマ好きをワクワクさせる魅力にあふれている。
初代マーチは欧州指向の確かな基本性能と、ユニークかつ多彩な提案によって、コンパクトカーの楽しさや新たな可能性を幅広いユーザー層に伝え続けたのだ。
安全・環境性能に対する要求が厳しさを増し、流行や価値観の変化も急速な現在、大がかりなビッグマイナーチェンジでも入れない限り、商品競争力を10年にわたって保つのは極めて難しい時代になった。現行のK13型マーチは、皮肉にもそれを示す格好の例になってしまった。
国内向けマーチの次の10年は、果たして……。マッチと同世代の筆者としては、やはり気になるところである。
【参考出典】https://n-link.nissan.co.jp/NOM/ARCHIVE/01/
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