近年話題なのが「熟成肉」とよばれるもの。低温であえて「寝かせる」ことで肉の旨みをグッと引き出すという代物なのだ。ワインも寝かせることで……、なんてウンチクはさておき、クルマも熟成させるときっと「旨み」が増しているのではないか!? と思い調べました。条件は発売から約10年が経過している現行車。そう、新車で買えるというのが条件だ。もう脂もいい感じに落ちて、くどくない旨みが満載のはず!! そんな超熟成のクルマたちからジャンル別にオススメの6台をご紹介しよう!!
文:渡辺陽一郎/写真:ベストカー編集部
アンダー400万円!! 今、買いのホットSUV 価格帯で選ぶオススメ車
■超熟成車が新車で売られる理由とそれを選ぶ意味
今の日本車には、発売から10年以上を経過した車種が多い。GT-Rなどは細かな改良を行いながら機能や装備を進化させているが(なのでこの企画ではあえて取り扱わない)、あまり手間を費やしていない車種もある。このような放置された車種が生じる理由は、まず売れ行きが伸び悩むからだ。海外でも売りにくいなど、開発コストを費やせない事情が加わると、改良を加えずに漫然と売り続けてしまう。
それなら廃止すればいいと思うが、車両の開発には多額の費用がかかるので、一定の台数を売る前に販売を終えると投資した金額を回収できない。つまりその車種の収支が合わなくなるから造り続ける。また一定の台数を売り終えても、根強く販売されているクルマは終了するのが惜しい。そこで細々とでも販売を続ける。
そして自社に同じような車種がない場合、廃止すると、ユーザーがほかのメーカーに乗り替えてしまう心配が生じる。これを防ぐために従来型を売り続け、乗り換え需要を維持する事情もある。OEM車にも同様の役割があり、自社製の車種を廃止した後、そのユーザーを繋ぎ止める目的で、他メーカーから類似車種の供給を受け続ける。このようにいろいろな目的で、設計の古い車種が細々と売られるわけだ。緊急自動ブレーキなどの安全装備を追加装着した車種はわずかで、燃費性能も良くない。外観は当然に古い印象だから、雰囲気が地味になってしまう。
98年の発売から20年が経とうとするジムニーも長生きモデル。今夏にも新型デビューが予想される。当企画への選出には当然すぎるので登場せずです、はい。
そのために売れ行きも低調だが、今になって改めて試乗すると、内外装の質感が高いことに気付く。最近のクルマ(特に2009年のリーマンショック以降に発売された車種)は、コストの低減が厳しく行われている。軽量化も質感に良くない影響を与えるが、基本設計が古い車種には、見栄えの良い車種がある。乗り心地も同様だ。最近の一部車種は、コストの低減と転がり抵抗を抑えた燃費重視のタイヤを装着して、乗り心地が悪化する傾向にある。動力性能も燃費を重視すると、実用回転域の駆動力が下がりやすい。
しかし設計の古い車種は、燃費が良くない代わりに動力性能に余裕があり、乗り心地も快適だったりする。幅広い機能を総合的に判断すれば、緊急自動ブレーキを作動できる安全装備などを含めて設計の新しいクルマが断然優秀だが、部分的に見れば、設計の古い車種が優れている面もあるわけだ。「熟成の進んだ商品」という見方も成り立つだろう。このようなクルマを取り上げてみたい。
■おすすめ超熟成ミニバンはエスティマとデリカだ!!
【エスティマ(発売:2006年)】
卵型の外観にはファンが多く、1か月に800~900台は売れる。アルファードの3500台に比べると大幅に少ないが、一定の需要があるから廃止するのは惜しい。だからといってフルモデルチェンジはできない。ミニバンの需要は、先行きが不透明であるからだ。そこで中途半端だが、規模の比較的大きな改良を行った。緊急自動ブレーキを作動できるトヨタセーフティセンスCも装着して、生産と販売を続けている。
外観が飽きられて売れ行きが本格的に減少したり、法規への厳しい対応が迫られない限り、エスティマは改良を施しながら販売を続けるだろう。卵型のボディスタイル、上質な内装、フラットフロア構造でありながら少し重心を抑えたボディ、床下格納で広い荷室に変更できる3列目シートなど、ほかのミニバンとは違う魅力が備わるからだ。
【デリカD:5(発売:2007年)】
デリカD:5は発売されて10年以上を経過するが、今でも選ぶメリットが多い。まずミニバンの4WDでは悪路の走破力が最も高く、その水準は本格的なSUVのアウトランダーに匹敵することだ。居住性は全長が4800mm以下のミニバンでは最も優れている。特に3列目シートの広さと座り心地が際立ち、日本車のミニバンでは、ヴェルファイア&アルファード、オデッセイに続いて快適だ。
デリカは唯一無二な感じが凄いがいまでもそれが支持され三菱の登録車ではトップの販売台数だ
そして国産のミニバンでは、唯一クリーンディーゼルターボを搭載する。実用回転域の駆動力は自然吸気ガソリンエンジンの3.5L並みで、この特性は悪路を走破する時もメリットになる。これらの特徴を備えるために、何台もデリカD:5を乗り継ぐ熱心なファンが多い。1か月の販売台数も平均1000台を超えている。
■SUVはパジェロとFJクルーザーが安定感大
【パジェロ(発売:2006年)】
今のSUVには、乗用車のプラットフォームを使った前輪駆動ベースのシティ派が圧倒的に多い。悪路向けのSUVは、走破力が高い代わりに舗装路での取りまわし性が悪く、ボディサイズの割に居住空間が狭い。乗用車と共通化できるパーツが少ないために価格は高く、売れ行きを下げた。
そのためにオフロードSUVは車種数も減らしている。パジェロは貴重な存在だが、現行型の発売は2006年で、1か月の販売台数は100台以下にとどまる。それでも売り続ける理由は、1982年に発売された三菱の代表車種で、海外では相応の人気を得ているからだ。
運転すると走行安定性に古さが感じられて緊急自動ブレーキなども備わらないが、悪路の走破力は依然として高い。三菱の開発者は「パジェロのようなオフロードSUVを前輪駆動ベースの4WDで開発しようと試してみたが、ボディ形状の制約もあって無理だった」という。つまりパジェロの悪路走破力は、今でも三菱のSUVではナンバーワンというわけだ。
足まわりが柔軟に伸縮するから乗り心地も快適で、設計は古くなったが、オフロードSUVの醍醐味を濃厚に感じさせる。3ドアのショートボディは廃止されたが、5ドアのロングは今後も製造を続ける。
【FJクルーザー(発売:2006年/日本国内は2010年)】
FJクルーザーは遊び心を感じさせる北米専用のSUVとして開発され、2006年に発売された。この後、日本にも並行輸入されたが、2010年になってトヨタが正式に国内発売した。なぜ北米の発売から4年も経過して国内に導入したのか。この点を開発者に尋ねると「FJクルーザーは外観が個性的で走りも楽しく、購入後にカスタマイズする楽しさもある。
FJクルーザーの生産は終了しており在庫車のみ購入可能。オフロードを楽しい存在にした功績は大!!
国内で売ることで、若い人達にクルマへの関心を高めて欲しい。日本市場の活性化も視野に入れて発売した」と言う。あれから7年を経過して、FJクルーザーは生産を終えた。今は少数の在庫販売のみだが、以前は1か月に200~300台を堅調に売っていた。外観は個性的で、内装は汚れを落としやすい。
エンジンはV型6気筒の4Lで、4WDは副変速機を備え、舗装路は後輪駆動の2WDで走る悪路向けのパートタイム式だ。FJクルーザーの持ち味は国内市場でも相応の人気を得ており、日本のユーザー層の幅が広いことを感じさせた。
■ステーションワゴンはアベンシス
【アベンシス(発売:2008年/日本国内は2011年)】
アベンシスはトヨタが欧州市場向けに開発したミドルサイズカーで、イギリスの工場が生産する輸入車だ。セダンボディも用意するが、日本に輸入されるのはワゴンのみで、直列4気筒2Lエンジンを搭載する。現行型の発売は2008年だが、国内投入は2011年であった。日本の需要動向をうかがって、3年ほど経過してから発売している。
アベンシス、まだいたのか!! というのが率直な感想だ。ステーションワゴンが少ない国産車では貴重な存在
試乗すると後席の足元空間や荷室が広くて実用的だ。緊急自動ブレーキのトヨタセーフティセンスCも追加装着した。レヴォーグやアテンザセダンに比べると、スポーティ感覚の弱い平凡なミドルワゴンだが、そこが逆にアベンシスの個性になっている。
■スポーツカーはフェアレディZがおすすめ
【フェアレディZ(2008年)】
今は世界的にスポーツカーの売れ行きが伸び悩む。今日のフォードマスタングやシボレーカマロは、外観が初代モデルに回帰したように見えるが、これもスポーツカーが若年層に受けないからだ。初代モデルを知る世代をターゲットに開発した。国産スポーツカーではフェアレディZも同様で、2008年に発売されて以来、フルモデルチェンジを受けていない。
フェアレディZは日産の絶対的なブランドだ。次期型のウワサもあるが……
それでもほぼ毎年改良を行ったりバリエーションを加える。フェアレディZは発売から数えて49年、フェアレディの登場からは60年近くを経過するので、日産の基幹車種だから大切にされている。ただし緊急自動ブレーキを作動できる安全装備は装着されず、アイドリングストップも付かない。燃費も悪いが、V型6気筒3.7Lエンジンの動力性能はきわめて高い。
乗り心地は少し硬いが、ワイドなボディによって直進安定性に不満はない。カーブを曲がる時は、Lサイズボディが機敏に向きを変える。インパネのデザインなどは新鮮味には欠けるが、上質に造り込んだ。安全装備と環境/燃費性能に古さを感じるが、運転の楽しさは満足できる。古典的なスポーツカーの魅力を感じさせる。
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