ボルボが新たに導入したマイルド・ハイブリッド「XC60 B5」に今尾直樹が試乗した。従来のガソリン・モデルより10万円高い、その魅力とは?
上質感の追求
世界で最もレアなスーパーカーに乗ってみる!──連載「西川淳のやってみたいクルマ趣味、究極のチャレンジ 第4回」
センター・コンソールの小さな四角いつまみをクリッと右にまわしてエンジンを始動させると、ボルボ初の48Vハイブリッド・パワートレイン「B5」を搭載したXC60は、ぶるんとふるえてアイドリングを開始した。意外と振動がデカい。まるでディーゼルのようだ、と私は思った。
そこで、ボルボの名物広報マンのAさんに、「これって、ディーゼル?」と、いきなりたずねた。
「む? ディーゼルじゃないです。ガソリンでございます」とAさんは答えた。
「なんで、こんなに振動するんですかね?」
私はさらに質問を重ねた。場所は地上ではあったけれど、ビルに囲まれていて、ひさしがあった。そのせいかもしれない。
「振動? 振動しないんじゃないですか。始動が滑らかなところがISGの特徴なんです」
Aさんのことばを続ける。
「これ、エンジンのマウントも変えているんです。48Vマイルド・ハイブリッドというと、(ISGその他の部品を)ガチャンと装着しておしまい、みたいに思っちゃうんですけど、それに合わせてエンジンもジェネレーション3に進化させて、いろんなファイン・チューンをしているんです。その目的は、ひとつは質感を上げる。燃費も、少しだけど、全体に上げる。1番わかりやすいのは、いままで再始動時にはぐうーんとなっていたんですけど、ベルト駆動のISGになったので、そういうショックを全部減らしたとか、いろんな意味で上質感の追求というのがテーマなんです」
48Vハイブリッドのテーマは上質感の追求だった! 私には想定外の回答だった。てっきり、“燃費”、“エコ”、“ストップ温暖化”、が目的であると思い込んでいた。
「だから、すごい回生があるとか、ないんです。48Vハイブリッドだ、と言われないとあまりわからない、みたいな……」
新しい48Vハイブリッド「B5」を搭載したXC60の振動が大きい、と、私が感じた理由としては、ひとつには天井の低い地下駐車場でエンジンをかけたこと、始動直後はアイドリングの回転数が若干高いこと、ガソリンといっても、いわゆる直噴のため、窓を開けているとエンジンの騒音がよく聞こえること等の理由が考えられる。
なにより私は、48Vハイブリッドと聞いて、国産のハイブリッド車のように、バッテリーはビンビンだぜ、いつものようにスターター・ボタンを押して、「こんな夜に発車できないなんて」とカン違いするぐらい、ウンともスンともいわない状態を期待していたのだ。
ぜんぜん違うのである。ボルボがXC60と、おなじSPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)のXC90に新たにくわえた48Vハイブリッドの「B5」は、すでに1度、Aさんがことばにしているけれど、ハイブリッドといっても、いわゆるマイルド・ハイブリッドなのだからして。
気筒休止の導入
仕組みはこうだ。従来の2.0リッター・ガソリン・エンジンにスターター・モーターよりも強力な電気モーター兼発電機であるISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を組み合わせ、荷室のフロア下に配置したリチウム・イオン電池に蓄電する。
主役はエンジンである。最高出力250ps/5400~5700rpm、最大トルク350Nm/1800~4800rpmを発揮する2.0リッター直列4気筒直噴ターボがいつ、なんどきでも動力となって走行する。
ISGM(ボルボではインテグレーテッド・スターター・ジェネレーター・モーターと呼ぶ)は、エンジンが苦手とする低回転域で駆動をアシストして燃費に貢献する。エネルギー回生はブレーキ時のみ、ISGMが発電機となってクランクシャフトからの回転エネルギーを48Vの電気エネルギーに変換する。ブレーキ・システムはこれを機にバイ・ワイア化されている。ブレーキ・ペダルから電気信号でブレーキの制御を行っているわけだけれど、足応えはごくフツーで違和感はない。
ボルボがフォード傘下から離れたときに自前で開発した愛称「Drive-E」、2.0リッター直列4気筒直噴ターボ・エンジンは第3世代に進化している。82.0×93.2mmのボア×ストロークは同一のまま、ピストン、シリンダー、シリンダー・ヘッド、ブロック、さらにターボチャージャー、エンジン・マウント、ついでに、ではないでしょうけれど、エグゾースト・システムもマネジメントも変更している。
目玉は、気筒休止の導入である。3000rpm以下、30km/h~160km/hの範囲で、一定の条件を満たすと、1番と4番のシリンダーが停止して、燃費を最大で4%改善する。たかが4%、されど4%。この4%は人間にとっては小さな4%だが、人類にとっては飛躍となる4%である、かもしれない。
気筒休止はアイドリング中、ドライブ・モードでダイナミックを選択しているとき、マニュアル・モード時、トレーラー牽引中、そして触媒温度が低すぎるときは作動しない。
4気筒が2気筒になったら、いくらボンクラの筆者でも気づきそうなものだ。箱根までのドライブ中、しょっちゅう半分おやすみとおめざめを繰り返しているはずである。なのに……ぜんぜん気づかなかった。
それは、4気筒と2気筒のモード変更時、ISGがサポートしているから、ということもあるらしい。ISGの最高出力は10kW/3000rpm、最大トルクは40Nm/2250rpm。10kWは馬力でいうと13ps強。それがエンジンを制御するコンピューターの指示で、車重2t近いボディを介助している。筆者が2t近い体重のひとだとして、座ったり立ったりする際、介助するひとがいるといないとでは大違いであろう、と。推測するものである。
これを機に8速オートマティックもバイ・ワイア化され、プログラムの最適化が図られている。電気信号で変速するため、機械的な手応えがない。とぼやくのは旧石器時代人に等しいかもしれない。旧石器時代人にとっては慣れることが肝要である。
街中での信号待ちなどでアイドリング・ストップした際、ISGによる再始動は、スターター・モーターによる再始動よりもはるかに静かでスムーズで、なるほど上質さを感じる。
ブレーキを離しただけではなにごとも起こらず、ドライバーがアクセル・ペダルを踏んで初めてエンジンを再始動させる。「スタートするぜ」というドライバーの積極的な意思を認めない限り、エンジンは眠ったままなのだ。
でもって、目覚めるやいなや、エンジンのクランクシャフトが回った1回転目と同時にクルマが前に出る、という感覚がある。
ブレーキを離したときに、ぶるるん、と震えてから走り出す、のどかさも筆者は好きなのだけれど、ISGが常識になると、のどかさや時代遅れになりにけり、となるだろう。
気になる燃費は?
東京・芝公園にあるボルボ・カー・ジャパンを出て、箱根まで往復、226.1km走って、車載コンピューターの燃費は9.3km/リッター(L)だった。試乗車のXC60 B5 AWD インスクリプションの車重は1940kgもある。しかも、ドライ路面では実際上、ほとんど前輪駆動であるとしても、4WDで、空気抵抗の大きな背の高いSUVである。しかも箱根の山道を登ったりしている。そう考えると、ピュア・ガソリン・エンジンよりは少なくともよさそうだ。
ボルボのテスト・データによれば、XC60の一般道での燃費は、B5が11.3km/L、ディーゼルのD4が11.2km/L、T5が9.4km/Lだったという。高速ではディーゼルに劣るものの、ディーゼルはいまや大気汚染の元凶とされている。2024年からパリ、ローマで、2025年からはマドリッド、ブラッセル、アムステルダムといった都市で禁止となり、ヨーロッパでは中古車価格が暴落、新車販売に占める割合も2015年の52%から2019年には30%ほどに縮小、もはや風前のともしびだ。
その一方で、EUのCO2削減策はますます厳しくなっている。自動車メーカーは1台あたりの平均CO2排出量を、2020年は2015年比マイナス27%、2030年には2020年の37.5%マイナスにすることが課せられている。
そこで、ディーゼルの代用としてにわかに脚光を浴びているのが48Vマイルド・ハイブリッド・システムというわけだ。ヴァレオに代表される大手サプライヤーがビジネス・チャンスとばかりに旗を振っている。フェラーリでさえ電動化に向かっているのには、このような背景がある。
ボルボに話を戻すと、この北欧ゆいいつの自動車メーカーは2019年から全モデルを電動化する、と2017年に宣言し、その実行段階に入っている。2025年までに新車販売台数の約50%をピュアEVに、残る約50%をハイブリッドにする、という目標を掲げてもいる。
ディーゼルは廃止する方針で、国内のXC60 D4も在庫がなくなれば、それでおしまいだそうだ。次に出てくるのは、ディーゼルの48Vハイブリッドではなくて、B5のエンジンのパワーとトルクを若干落としたB4搭載のXC40になる。
ボルボの48Vハイブリッド「B5」を搭載したXC60は、リチウム・イオン電池の容量にもうちょっとゆとりがあれば、 電気モーターができる範囲をもっと増やせるだろうけれど、そこは価格とのバランスということになる。
従来型T5のプラス10万円で、XC60は、よりスムーズな発進とより高い静粛性、そしてより少ないCO2排出量を手に入れた。しかも運転感覚は、ハイブリッドであることをほとんど意識させない。電動化したXC60はつまり、より洗練された、というわけだ。
「だけど、XC60は前からよかったじゃないですか」
実は私、ボルボ広報のAさんにこんな質問をしたのである。ボルボの内実を誰よりも知る広報マンのAさんはこう答えた。
「いや、乗ってみればわかります。従来のT5と比較できれば、よかったんですけど」
大きな変革というのは水面下でひっそりと進んでいくものなのかもしれない。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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みんなのコメント
文章から、良いのか悪いのか分からない。
ちなみに、MBのマイルドハイブリッドは良くない。ディーゼルの方が良い。明らかに力不足。
気筒休止も分からないんでは、試乗の意味がないね。
10万円高くなると言っても、ディーゼルモデルのD4よりB5はだいぶ安いし価格的には適正ですね。
電動化を推し進めるボルボのマイルドハイブリッドがどんな味わいなのか、他のモデルも含め気になります。