現在位置: carview! > ニュース > ニューモデル > モスクヴィッチ/ヴァルトブルク/ラーダ 英国で歓迎されたソ連の大衆車 後編

ここから本文です

モスクヴィッチ/ヴァルトブルク/ラーダ 英国で歓迎されたソ連の大衆車 後編

掲載 更新 1
モスクヴィッチ/ヴァルトブルク/ラーダ 英国で歓迎されたソ連の大衆車 後編

車内の眺めはフィアット124に近似

執筆:Simon Hucknall(サイモン・ハックナル)

<span>【画像】ソ連の大衆車 モスクヴィッチ/ヴァルトブルク/ラーダ 今でも買えるニーヴァも 全91枚</span>

撮影:Olgun Kordal(オルガン・コーダル)

翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)


VAZ 2101、欧州名ラーダ1200のボディは、塩が撒かれる凍結路にも耐えられるよう、フィアット124より肉厚な鋼材が使用されている。それでも防錆性が高いとはいえなかった。不整地に対応するため車高は持ち上げられ、サスペンションは強化されている。

124では四輪ディスクブレーキだが、2101はリア側をドラムブレーキへ変更。耐久性を高めるとともに、過酷な環境下での機能性を維持した。その結果、フィアット124の車重は約845kgだが、2101では約955kgへ増加している。

VAZ 2101の発売から、ラーダ1200として英国へ輸入が始まるまで、4年のブランクがある。それは、フィアットが結んだ契約内容が関係していた。124が販売されている国では、1200を販売できなかったのだ。

1974年に後継モデルのフィアット131 ミラフィオーリが英国で発売されるまで、ラーダは待つ必要があった。そのかわり、英国人はフィアット124に見慣れていたから、ラーダ1200もすぐに受け入れられたようだ。

実際、スカイブルーとアイボリーのツートーンに塗られた1200の車内は、ダッシュボードにメーターパネル、ヒーターの送風口など、フィアット124と変わりない。1976年式で、スティーブン・フロイド氏がオーナーだ。

明らかに違う部分は、クロームメッキされたホーンリングが付いた2スポークのステアリングホイール。これは、フィアットが124のフェイスリフトで採用をやめたもの。後期型には付いていなかった。

キーをひねると、ソ連のNAMIが開発した4気筒エンジンの実務的な音が聞こえてくる。滑らかに回転するが、トリノ製のユニットではないことがわかる。

遊びの多いステアリングに弱いブレーキ

1980年にラーダで運転を覚え、それ以来何台も乗り継いできたフロイドは、1200のベーシックな成り立ちが好きだと話す。「屋根付きガレージを持たない人でも維持でき、走らせられるように設計されています」

ボンネットを開くと、彼の意見に納得できる。作業灯が灯り、エンジンのそばには燃料ポンプの与圧レバーが付いている。氷点下のシベリアでも、始動性を保てるように。

荷室には、軍隊が用いていそうな無骨なツールキットが用意されている。始動用のハンドルに点火ポイントのアジャスター、タイヤのエアポンプも含まれている。どこでも直せそうだ。

まず筆者がステアリングホイールを握ったのは、ラーダ1200。1970年代の、現代とは別次元の走りを体験できる。低速域ではステアリングホイールが過度に重くなり、スピードが高まると中心付近での遊びが増える。常に修正舵を当て続ける必要がある。

クラッチペダルは軽め。フィアット124 スポーツのトランスミッションを強化したもので、シフトレバーのストロークは短い。手応えは正確で、サクサクと次のギアを選べる。

最高出力は62psしかないから、速くはない。しかしNAMIユニットはトルクが厚く、坂道でも小気味よく登っていく。下り坂は要注意。ブレーキペダルの感触は悪く、効きも弱い。事前の予測が不可欠だ。

続いてティム・ビショップ氏とマイケル・ライマン氏がオーナーの、ヴァルトブルク・ナイトに乗り換える。大きな2スポークのステアリングホイールの奥に、四角いメーターパネルが見える。フロントシートは肉厚だ。

個性的で運転の楽しいヴァルトブルク

キーを捻ってエンジンを目覚めさせると、ラーダ1200とは際立って違う。3気筒2ストローク・エンジンは、ノイズと振動が盛大。アイドリング時は、明らかに不快に思えるほど車内に響き、各所で共振を招く。

1足へつなぎアクセルペダルを踏み込んでいくと、タービンが回転するように見違えて滑らかに変化する。ノイズもマイルドに変わる。高めの硬い音質で、聞き惚れてしまいそうな個性だ。

シフトフィールはイマイチ。見事にレストアされ新車時の感触が取り戻されているというが、シフトノブは漠然と動き、引っかかりや弾かれるような手応えもある。

その理由は、VEBオートモービルヴァーク社が需要に応えるべく、右ハンドル用のフロアシフトを急ごしらえで準備したため。それでもフリーホイール構造で、クラッチペダルを踏まずとも変速でき扱いやすい。

ソフトな乗り心地と、タイトでローレシオなステアリングが組み合わさり、ヴァルトブルク・ナイトの運転は楽しい。体験として、今回の3台で最も個性的でもある。

ペールブルーのモスクヴィッチ1500は、サラ・スワン氏がオーナー。改良後の2140と呼ばれるクルマで、英国へは正式導入されなかった。改良前と違う部分は、前後の灯火類の形状とフロントグリル程度だ。

スワンの夫、ビルがこの1500を大切に維持している。彼によれば英国のディーラーは、ロシアで許されても英国では許容されない部分の修正や修理に、苦労していたという。エンジンヘッドのリビルドも珍しくなかったようだ。

英国でも歓迎されたソ連の大衆車

多くのディーラーが、保証内容の一部として不具合への対処に迫られた。モスクヴィッチの信頼性の低さが、販売に悪影響を与えたことは想像に難くない。

比較的小さなステアリングホイールの後ろに置かれた、アームチェアのようにゆったりとしたシートに座る。正直いって、デザインに魅力は感じないものの、メーターパネルに並ぶ計器類は充実している。

電流計と油温のメーターも付いている。直立し、わずかに湾曲したフロントガラス越しの視界は良好だ。

エンジンからは、熱意を感じさせるサウンドは聞こえてこない。状態の良くない英国コッツウォルズの道路を走らせると、甘ったるいサスペンションが盛大にボディを揺らす。シフトレバーのフィーリングにも、褒める場所はないようだ。

50年前の基準で考えても、ソ連時代の3台には指摘せざるを得ない弱点がいくつも見えてくる。動的能力には、鈍重という言葉を当てはめたくなる。

しかし、クルマが狙っていた本来の目的には、英国でも合致できていた。飾ることなく、頑丈で安価で、整備の回数もどちらかといえば、少なく済んだ。中古車しか選べないような家庭にも、新車を買う喜びを提供できていた。

クルマを手に入れることに、今以上の喜びがあったであろう1970年代。ソ連の大衆車は英国人にも歓迎され、幸せを与えていたのだ。

1970年代のソ連の大衆車 3台のスペック

モスクヴィッチ1500(1969~1976年/英国仕様)のスペック

英国価格:717ポンド(新車時)/6000ポンド(93万円)以下(現在)
生産台数:約50万台以上(総計)
全長:4178mm
全幅:1556mm
全高:1486mm
最高速度:148km/h
0-97km/h加速:15.3秒
燃費:9.2km/L
CO2排出量:−
車両重量:1209kg
パワートレイン:直列4気筒1478cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:81ps/5800rpm
最大トルク:11.7kg-m/3400rpm
ギアボックス:4速マニュアル

ヴァルトブルク・ナイト(1967~1976年/英国仕様)のスペック

英国価格:760ポンド(新車時)/5000ポンド(78万円)以下(現在)
生産台数:122万5190台(総計)
全長:4241mm
全幅:1638mm
全高:1494mm
最高速度:114km/h
0-97km/h加速:25.1秒
燃費:9.9km/L
CO2排出量:−
車両重量:1050kg
パワートレイン:直列3気筒991cc自然吸気(2ストローク)
使用燃料:ガソリン
最高出力:45ps/4200rpm
最大トルク:9.2kg-m/2200rpm
ギアボックス:4速マニュアル

ラーダ1200(1974~1983年/英国仕様)のスペック

英国価格:999ポンド(新車時)/5000ポンド(78万円)以下(現在)
生産台数:271万930台(総計)
全長:4073mm
全幅:1611mm
全高:1440mm
最高速度:141km/h
0-97km/h加速:20.0秒
燃費:10.6km/L
CO2排出量:−
車両重量:955kg
パワートレイン:直列4気筒1198cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:62ps/5000rpm
最大トルク:9.1kg-m/3400rpm
ギアボックス:4速マニュアル

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

日産「新型スカイライン」発売! 歴代最強「匠“手組み”エンジン」×旧車デザインの「特別仕立て」登場も「次期型」はもう出ない…? 「集大成」完売した現状とは
日産「新型スカイライン」発売! 歴代最強「匠“手組み”エンジン」×旧車デザインの「特別仕立て」登場も「次期型」はもう出ない…? 「集大成」完売した現状とは
くるまのニュース
実は大きく違う!? モータースポーツ総合エンターテイナー濱原颯道が開催した「クシタニライダー台湾人スクール」で感じた台湾人ライダーと日本人ライダーの練習環境の違いとは
実は大きく違う!? モータースポーツ総合エンターテイナー濱原颯道が開催した「クシタニライダー台湾人スクール」で感じた台湾人ライダーと日本人ライダーの練習環境の違いとは
バイクのニュース
旧車への憧れ、理由の1位は「デザイン」、人気車種は…旧車王が調査
旧車への憧れ、理由の1位は「デザイン」、人気車種は…旧車王が調査
レスポンス
いずれスポーツカー[バブル]は崩壊する!! その時あなたは買う勇気があるか!?
いずれスポーツカー[バブル]は崩壊する!! その時あなたは買う勇気があるか!?
ベストカーWeb
レゴとF1、パートナーシップを締結…2025年からクリエイティブな遊び提案へ
レゴとF1、パートナーシップを締結…2025年からクリエイティブな遊び提案へ
レスポンス
メルセデスが3セッション連続で最速! 終盤の赤旗中断で、アタック未完了のマシン多数……勢力図は不明瞭|F1ラスベガスGPフリー走行3回目
メルセデスが3セッション連続で最速! 終盤の赤旗中断で、アタック未完了のマシン多数……勢力図は不明瞭|F1ラスベガスGPフリー走行3回目
motorsport.com 日本版
ルノーがハイブリッド車に使ったF1直系の技術……って聞くとなんかたぎる! 「ドッグクラッチ」ってそもそも何?
ルノーがハイブリッド車に使ったF1直系の技術……って聞くとなんかたぎる! 「ドッグクラッチ」ってそもそも何?
WEB CARTOP
F1ラスベガスFP3速報|赤旗で消化不良に。ラッセルがトップタイム、RB角田裕毅は16番手
F1ラスベガスFP3速報|赤旗で消化不良に。ラッセルがトップタイム、RB角田裕毅は16番手
motorsport.com 日本版
ホンダ新型「プレリュード」まもなく登場? 22年ぶり復活で噂の「MT」搭載は? 「2ドアクーペ」に反響多数!海外では“テストカー”目撃も!? 予想価格はいくら?
ホンダ新型「プレリュード」まもなく登場? 22年ぶり復活で噂の「MT」搭載は? 「2ドアクーペ」に反響多数!海外では“テストカー”目撃も!? 予想価格はいくら?
くるまのニュース
WRCラリージャパン、SS12キャンセル原因は“無許可の車両によるステージ侵入”とFIA発表
WRCラリージャパン、SS12キャンセル原因は“無許可の車両によるステージ侵入”とFIA発表
motorsport.com 日本版
山脈貫通!「新潟‐福島」結ぶ国道が建設着々 “延長21km・トンネル15本”におよぶ大規模道路いつ開通?
山脈貫通!「新潟‐福島」結ぶ国道が建設着々 “延長21km・トンネル15本”におよぶ大規模道路いつ開通?
乗りものニュース
昭和の名車とワーゲンがぎっしり…茨城県の江戸崎商店街でホコ天イベント
昭和の名車とワーゲンがぎっしり…茨城県の江戸崎商店街でホコ天イベント
レスポンス
ドゥカティ現行車では唯一!? 空冷Lツインを搭載する第2世代スクランブラー「アイコン」の魅力
ドゥカティ現行車では唯一!? 空冷Lツインを搭載する第2世代スクランブラー「アイコン」の魅力
バイクのニュース
ホーナーの言うことは「信用できない」とウォルフ。妻に対するFIAの調査の際に不信感を募らせたことを明かす
ホーナーの言うことは「信用できない」とウォルフ。妻に対するFIAの調査の際に不信感を募らせたことを明かす
AUTOSPORT web
バスドライバーを疲れさせる「プルプル運転」とは何か? 自動運転時代の落とし穴! 過剰な安全対策が招く危険とは
バスドライバーを疲れさせる「プルプル運転」とは何か? 自動運転時代の落とし穴! 過剰な安全対策が招く危険とは
Merkmal
46台の輸入EVが丸の内に集結!「JAIA カーボンニュートラル促進イベント」リポート
46台の輸入EVが丸の内に集結!「JAIA カーボンニュートラル促進イベント」リポート
LE VOLANT CARSMEET WEB
【プロカメラマン】が大量画像で記録!「腐っていたKLXが終に熟成!四国MSBR撮影後の修理と詰めの改良!」(最終回)  
【プロカメラマン】が大量画像で記録!「腐っていたKLXが終に熟成!四国MSBR撮影後の修理と詰めの改良!」(最終回)  
モーサイ
「運転席の横に“クルマが踊っている”スイッチがありますが、押したら滑りますか?」 謎のスイッチの意味は? 知らない「使い方」とは
「運転席の横に“クルマが踊っている”スイッチがありますが、押したら滑りますか?」 謎のスイッチの意味は? 知らない「使い方」とは
くるまのニュース

みんなのコメント

1件
  • ヴァルトブルグは東ドイツの自動車メーカーではなかったのか?東ドイツはトラバントとヴァルトブルグ、と記憶してたが...
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村