エンジン、車体、デザインのすべてを刷新し、フルモデルチェンジが行われた2021年モデルのヤマハ MT-09。ヨーロッパでは2020年末から販売が始まっているが、上級仕様「SP」の販売もスタートした。
イギリス人ジャーナリストでマン島TTレーサーでもあるアダム・チャイルド氏から、早速その新型MT-09 SP試乗レポートが届いた。
新型MT-09自体が日本ではまだ発売となっていないが、エンジン性能はスタンダードとSPで同様。新型MT-09が気になっているライダーはぜひ一読してほしい。
2021年型ヤマハMT-09はエンジンもフレームも刷新
【画像13点】2021年型ヤマハMT-09シリーズの進化ポイントを写真で解説!
2013年、MT-09とともに展開を始めたヤマハの新しい3気筒プラットフォームは見事な成功を収めた。MT-09自体も、複雑すぎず、それでいて高性能という魅力的なパッケージで、多くのライダーから支持を集めている。
2017年のモデルチェンジでMT-09はデザインを変更したほか、FIセッティング、ダンピング性能がやや不足気味だったリヤサスペンションの改良が行われたが、エンジンやフレームはキャリーオーバーだったので「マイナーチェンジ」の範疇と言えたかもしれない。
それに対し、2021年モデルのMT-09はエンジンもフレームも新しくした「フルモデルチェンジ」だ。
3気筒エンジンは排気量を890ccへと拡大。新しい環境規制「ユーロ5」に適合させたうえでパフォーマンスを向上、電子制御も現代的なものへアップデートが施された。
車体はかなりの軽量化が行われ(フレーム単体で2.3kg、トータルの車重では3kgの軽量化)、デザインも大胆に変貌を遂げた。デザインについてはかなり意見が分かれそうだが……。
MT-09 SPは高性能サスペンションを装備
2021年モデルのMT-09は「これ以上どこを改良する余地があるのだろうか」と思うほどの仕上がりだったが、なんとヤマハは新型の「強化版」──MT-09 SPも発表してきた。
MT-09 SPとスタンダードモデルの違いを簡単に言うなら、高性能な足まわり──DLCコーティングが施されたKYB製フルアジャスタブルフォークとオーリンズ製フルアジャスタブルリヤショックを装備したモデルである。
9002ポンド(約135万円)のスタンダードに比べ1200ポンド(約18万円)価格は上がるが、それは単純に「足まわり代」ではない。クルーズコントロールが装備されるほか、ダブルステッチのシートや、ヤマハの最高峰スーパースポーツYZF-R1Mをイメージさせる専用カラーなど、外観も「プレミアム」なものとなっている。
そもそも差額分の価値があるのか。デコレーションのし過ぎなのか。素性のよかったMT-09のバランスが崩れていないのか……そこは実際に走らせて、試してみるしかない。
新型MT-09シリーズは排気量を拡大し890ccに
結論から言うと、新型ヤマハMT-09 SPの走りは素晴らしかった。
だが、走行性能について述べる前に、まるで「リビングルームの中で飼われている象」のようなデザインについて一言言わせてほしい。
もちろん、スタンダードのMT-09がすでに好評をもって世界的に受け入れられているのは承知しているし、筆者自信も気に入っている。すっきりとしたミニマルなデザインで、ヤマハらしい上品さもあると思う。
しかし、MT-09 SPの写真をいくつか私のSNSに投稿したところ、イマイチ評判は良くなかった。好意的な意見はほとんどなく、「顔」の小ささや配線の露出が気に入らないという。ある人は「ヤマハは右側にサイドカバーを付け忘れたのか?」なんてことも言っていた。
そうした声を聞くと、どうしても指摘された部分に目が行ってしまい、試乗前、正直テンションは上がらなかった。恋人を初めて友人に紹介したら、皆から微妙な視線を頂戴したような気分だ。
が、走り出したらそんなことはどうでも良くなった。MT-09 SPはロードスポーツモデルとして素晴らしい出来で、ポジティブな要素しか見つけられなかったのだ!
ヤマハは出力を犠牲にすることなくユーロ5規制に対応するため、2021年モデルのMT-09において排気量拡大という方法を採った。
ストロークを3mm延長し、排気量は従来型の847ccから890ccへ。軽量な新設計ピストン、カムシャフトの改良、FIや吸排気系の変更も行い、最高出力は116馬力から119馬力に向上。
それ以上に注目したい点は、トルクが6%増加して9.5kgmとなり、発生回転数は1500rpm低い7000rpmとなったこと。
なお、スタンダードとSPのエンジン性能は同じで、車重も同値だが、SPの高性能サスペンションならエンジンが生み出したパワーをさらに有効に活用できる。
KYB製フォーク&オーリンズ製リヤショックの効果は?
フロントフォークはKYB製で摺動部にはDLC加工が施されており、高速・低速のコンプレッション調整など細やかなセッティングも可能。リヤのオーリンズ製ユニットもフルアジャスタブルである。
サーキット走行なども楽しみたいライダーなら、こうした幅広い調整ができるサスペンションは実に有益だろう。
それでいて、普通に公道を走らせた場合に、快適性を損なうものではないのもいい。
ただし、ほとんどのオーナーがこの手のサスペンション調整機構を触ることがないのが現実だ。
だが、仮に自分でセッティングなどを行わず、お店で買ってきてそのまま走り出したとしても、SPの高性能サスペンションは明らかな効果を発揮してくれる。
最初の交差点を曲がるだけでもフロントフォークとリヤショックが見事に調和しているのを感じられるだろう。
それなりのスピードでデコボコの多いの「B級ロード」にも突っ込んでみたが、MT-09 SPはまったく動じることがない。フロントは常にコントロールされていてしっかり路面を捉え続け、リヤショックも文句なし。高品質なサスペンションならではの柔らかい感触があった(サスペンションが「柔らかい」という意味ではない)。
荒れ荒れの路面であっても、MT-09 SPはまるで湖上を滑る白鳥のように走り続けるのだ。
コーナリング性能は賞賛の域に達する。
ワイドなハンドルバーを使って軽い入力で向きを変えてやると、MT-09 SPはまるでオモチャのように、自由自在に動かせる。
今回のモデルチェンジでフロントまわりを軽量化し重心も低くしたのと、ホイールも従来型MT-09より軽量となったのが効いているのだろう、回頭時のキレが増しているのだ。
その上で、SPならではの高性能サスペンションが真価を発揮する。
コーナー進入時にフロントは常に安定感があり、コーナー中盤でのフィードバックも良好。立ち上がりでは強化されたトルクをリヤショックが存分に路面に伝えてくれる。
コーナリングスピードはかなりのもので(しかもバンク角は十分にある)、優れたグリップを発揮する純正タイヤのブリヂストンS22との相性もいい。
いやもう、1日中コーナリングしていたい程楽しいのだ。
実際、より多くのコーナーを走りたくなってしまい、試乗のゴール地点までだいぶ遠回りしてしまった(笑)。MT-09 SPはデコボコした裏道が大好物のようだ。
一方、滑らかに作動するサスペンションは、高速道路での快適な巡航にも効く。そのうえMT-09 SPにはクルーズコントロールも標準装備されている。
もちろんカウルはないし、メーターバイザーすらないので、80km/hを超えると風の影響が気になってくるが、ネイキッドバイクにそんな文句を言っても仕方がない。
新型MT-09シリーズは6軸IMU採用で、電子制御も多機能&精緻に
軽量化された新設計フレームと同様に、エンジンも驚くほど汎用性が高く、最高速チャレンジが大好きな人や「200馬力至上主義者」でもないかぎり、まったく不満はないはずだ。
従来型MT-09でも不足は感じなかったが、特にトルクが向上した点がいい。
従来型に比べクランクを15%重くしたこと、1速と2速のギヤをロングにしたこともあり、パワーデリバリーは実にスムーズだ。また、FIのマッピングも恐らくかなり煮詰めたのではないだろうか。
新開発されたアップ・ダウン両対応のクイックシフターは完璧に動作し、ギヤを変えながら3気筒サウンドを味わうのが病みつきになる──。
そのエンジン特性や軽量コンパクトな車体で、これまでMT-09は「ウイリーマシン」の評価をほしいままとしていたが、新型のトルクが増えたエンジンは、「ウイリーマシン度」をさらにもう1段階高めたといっても過言ではない。
しかし誤解のないように言っておくと、ヤマハのMT-09は「じゃじゃ馬」ではない。
多くのジャーナリストやバイクテスターがこれまでのMT-09や新型MT-09を愛用しているのは、手の内に入れて自在にコントロールできるシンプルさがあるからで、自分の意志で自在にウイリーできるから「ウイリーマシン」なのである。
一方、新型MT-09は電子制御もアップデートされているので、予期せずウイリーをしたくない人も安心であろう。スタンダードとSPでその機能は同じで、トラクションコントロール、スライドコントロール、ウイリーコントロール、ABSを装備。従来型との決定的な違いは6軸IMUを搭載し、各機能がバンク角連動となっていること。
各機能の作動レベルがプリセットされたモードもあるが、自分で作動レベルを細かくカスタマイズできるほか、トラクションコントロール、スライドコントロール、ウィリーコントロールを解除することもできる(ただしABSのみ解除できない)。
強化された電子制御がライディングの楽しみ阻害してはいないかと少し心配していたが、そんなことはなかった。
むしろ、ビギナーライダーにも親しみやすくなった。穏やかなスロットルレスポンスを始め、滑りやすい路面を想定したライディングモードの「モード4」は本来の意図からは逸れるかもしれないが、MT-03やMT-07から乗り換えるライダーにとってはなじみやすいだろう。
一方、スポーティなセッティングのモードでは、ヤマハのYZF-R6のようなスポーツバイクから乗り換えたとしても刺激的な走りが味わえる仕上がりになっている。
900ccクラスのネイキッド市場はライバルが多いが……
……とまあ、走らせている限り「最高!」と言えるMT-09 SPなのだが、他社製ライバル車と比較すると装備面で気になってくるところもある。
3.5インチのフルカラー液晶メーターは、機能的で見やすく、表示内容も理解しやすいが、ライバル車のようなきらびやかさはない。
KTM 890デュークRやドゥカティの新型モンスターが大型のフルカラー液晶メーターを採用しているのを考えると、商品性としては劣って見えるかもしれない。
MT-09 SPはイギリスで1万202ポンド(約150万円)という値付けだが……パワーやトルクで近しいKTM 890デュークR、ドゥカティ モンスター、セクシーなデザインのMVアグスタ新型ブルターレ、定評あるトライアンフのストリートトリプルRSなど、ライバル車は多い。
ああ、車重は重いものの、パワーとトルクでMT-09SPを上回り、さらに1000ポンド(約15万円)安いカワサキZ900というのもあったか。
価格と性能のバランスを考えると、KTM 890デュークRとトライアンフ ストリートトリプルRSがMT-09 SPと真っ向にぶつかるだろうか。
2021「ヤマハ MT-09 SP」総評
デザインの好き・嫌いは個人差がありますので、その判断はあなたにお任せします(笑)。
私が確認できたのは、スタンダードのMT-09よりもロードスポーツとして確かに優れたものとして仕上がっていたということ。
市街地でビギナーが乗っていても、ベテランライダーが峠道を楽しんでも、元レーサーがサーキットを走らせても満足できるオールラウンドで多機能なバイクである。
いや、オールラウンドとはちょっと言い過ぎたか。オフロードは走れないし、長距離ツーリングも得意ではないが(燃料タンクは14Lだし、仕方のないことだが高速走行時の防風性は無いに等しい)、ロードスポーツとして乗る限り、非常に高い能力を持っている。
しかし、冒頭で述べたように1200ポンド(約18万円)の差額分価値があるかと言われると難しい。
ビギナーライダーでも高性能なサスペンションに所有感を抱く人もいるだろうし、スーパースポーツからの乗り換えるような人はサスペンションの調整機能に大きな価値を置くかもしれないが、そもそも新型MT-09はスタンダードでも非常に良く出来たバイクなのだ。
ただ、一度MT-09 SPに試乗してしまうと、ダメかもしれない。人間、一度ビジネスクラスに乗ってしまうと、元に戻るのは難しいではないか──。
ヤマハ MT-09 SP主要諸元(欧州仕様)
[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列3気筒DOHCC4バルブ ボア・ストローク:78.0mm×62.1mm 総排気量:890cc 最高出力:87.5kW<119ps>/1万rpm 最大トルク:93.0Nm<9.5kgm>/7000rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2090 全幅:795 全高:1190 ホイールベース:1430 シート高825(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R180/55ZR17 車両重量:190kg 燃料タンク容量:14L
[イギリス仕様価格]1万202ポンド(約150万円)
試乗レポート●アダム・チャイルド 写真●ジェイソン・クリッチェル/ヤマハ まとめ●上野茂岐
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みんなのコメント
先代も出立ての頃はけちょんけちょんに言われてたし
乗り味がどこまで進化したか早く試乗してみたい