■タルガトップの「F40」発見! ただしチルドレンズ・カー
毎年8月中旬、アメリカ・カリフォルニア州モントレー半島内にて、約1週間にわたって数多くのイベントが次から次へと開催されるカーマニアの祭典「モントレー・カー・ウィーク」だが、2020年は新型コロナウイルス禍によって中止となってしまった。
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しかし今年は2年ぶりの開催となり、中核イベントのひとつである「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」が昨年90周年を迎えた「ピニンファリーナ」をメインフィーチャー・ブランドとしたことも理由なのだろうか、時を同じくしてRMサザビーズ北米本社がモントレー市内で開催した「Montley」オークションでは、おびただしい台数のフェラーリが出品されることになった。
しかし、今回VAGUEが注目したのは、フェラーリ風であっても本物のフェラーリではなく、またサイズもふた回りほど小さなチルドレンズ・カーである。
フェラーリの歴史的名作「F40」を3/4スケールに縮小しつつも、なかなか精巧に作られた1台を紹介しよう。
●子供向けとは思えない? とことん本格的なFレーサー・ジュニア
1990年代半ば、ルカ・ディ・モンテゼーモロ元会長がフェラーリの実権を完全掌握し、フェラーリの商標はもちろんクルマたちの肖像権までもコントロールするようになる以前、フェラーリF40は「キッズカー」や「チルドレンズ・カー」のモデルとしても大いに引用されていたようだ。
「F40っぽく見える」小さなクルマたちは、乳幼児がまたがって遊ぶキッズカーはもちろん、大人のコレクション対象にもなり得るような精巧なチルドレンズ・カーとしても製作されていたことを、筆者もおぼろげながら記憶している。
今回のRMサザビーズ「Montley」オークションに出品された「Fレーサー・ジュニア(F-Racer Junior)」は後者に属するもの。オークションハウスのWEBカタログでは、製作された時期やメーカーなどに関する情報は記されていないものの、写真で見る限りはコレクターの審美眼にも耐えうる仕立てとされた1台である。
製作台数はごく少ないと思われるFレーサー・ジュニアは、オリジナルのフェラーリF40の約3/4スケール。全長2.6メートル×全幅1.6メートルという、子供用としてはけっこう大きなサイズ。車両重量は250kgとのことである。
カタログをみると、フレームはかなり立体的でしっかりとした作り。リアミッドシップに搭載された排気量270ccのガソリンエンジンに、ファイナルギア比2:1のギアボックスを組み合わせ、子供用を標榜しつつも最高速度は35マイル(約55km/h)に達することができたそうだが、任意でリミッターを作動させることも可能だった。
また油圧式ショックアブソーバーやコイルスプリング、リアのディファレンシャル、油圧ディスクブレーキ、そしてウィッシュボーン式独立サスペンションなど、本物のF40さながらのメカニズムもおごられていた。
ボディはFRP製で、フェラーリ「308/328GTS」のようなデタッチャブル(脱着式)トップを外したかにも見えるスタイリング。本物のF40と同じく、レキサン樹脂製のスリット入りリアウインドー+チルト式リアカウルなどもF40っぽい。さらに前後のホイールも、本物のF40のO.Z.社製3ピースアロイを、当時としては可能な限り再現しようとしたことがうかがえる。
一方、オープンゆえに外から見えるインテリアもかなり作り込まれたもので、2座のミニバケットシートは、本物のF40に採用されたOMP社製バケットシートにも似た高品質の不燃性ファブリックで張り込まれる。また、ダッシュパネルにもザックリとした質感とダークグレーのカラーがホンモノを彷彿とさせるファブリックが張られ、実際に機能するメーターやイグニッションキーが取り付けられている。
■本物のフェラーリが買えてしまうほどの驚愕のお値段とは
今回の「Montley」オークションに出品されたチルドレンズ・カーには、Fレーサー・ジュニアとしてブランド化されたモデルの「シャシ01」であることを示すプレートが貼られている。つまり、一定数が製作されたうちの第1号車であるかと推測される。
●なんと1250万円で落札! しかし上には上があるようで……
オークション出品に際して、RMサザビーズ北米本社では現オーナーとの協議のもとに、3万-4万ドル(邦貨換算約330万-440万円)というエスティメート(推定落札価格)を設定していたのだが、筆者の率直の感想としてはかなり強気な価格設定にも映っていた。
ところが実際の競売では、オンラインも含めて競うように入札がおこなわれたようで、最終的にはなんと11万4000ドル。日本円に換算すれば、約1250万円という恐るべき価格でハンマーが落とされることになったというのだ。
これは、いわゆる「ホンモノのクルマが買える金額」以上のもの。たとえばフェラーリでいうなら、グッドコンディションの「328GTS」あたりが買えてしまいそうな値付けである。
高額となった理由は、F40をモデルとしたチルドレンズ・カーが、1990年代以来長らく製造・販売されていないこと、あるいは、かつて製造された「F40っぽい」チルドレンズ・カーたちのなかでも、このFレーサー・ジュニアが出色の出来ばえだったことが大きな要因になっているものと推測される。
ところが上には上があるもので、国際マーケットにおけるチルドレンズ・カー落札価格の歴代ワールドレコードは、半年前の2021年2月13日に、同じRMサザビーズ社がフランス・パリで開催したオークションにおいて、フェラーリ「330 P2」を縮小した「フェラーリ330P2ジュニア」が落札された際につけられた12万ユーロ(邦貨換算約1500万円)とされている。
ちなみにこの330P2ジュニアは、1980-1990年代にBMWの6気筒エンジンを搭載する精巧なブガッティ「T55」レプリカを製作し、日本にも輸出していたフランスの有名コーチビルダー「ド・ラ・シャペル(De La Chapelle Automobiles)」が少量製作したもの。
2007年春、モナコで開催された高級車およびスーパーカーのモーターショー「Top Marques Monaco」を訪ねた筆者は、数台のチルドレンズ・カーを展示していたド・ラ・シャペル社のブースに遭遇したのだが、その作品たちの芸術性やクオリティに驚かされたことを、今でも鮮明に記憶している。
翻って今回のオークション出品車をWEBカタログの写真で見ると、ボディサイドとフロントカウルのラインが一致しないなど、クオリティでは若干の難があるかに感じられる。
本来ならば子供向けのプロダクトであるはずのチルドレンズ・カーが、1000万円を超える「作品」として評価を受けるとなれば、やはりきわめて高度なクオリティが求められるという典型的な一例と思われたのである。
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