20台作られたグループB エボリューション
1982年のワンメイクレース、トロフィー・インターナショナル・ビザは、59戦が用意されたラリー・イベントだけでなく、サーキット・イベントも設定。開催地にはスコットランドやマン島などが含まれ、ヒルクライム・レースも開かれた。
【画像】1980年代のミニ・クーパー シトロエン・ビザ・トロフィー Gr.Bマシンに化けたモデルたち フェラーリ308も 全145枚
スポンサーに名を連ねたのは、トタルやミシュラン、ヴァレオ、マーシャルといった大手。欧州では注目を集め、内容も成功といえ、賞金総額は13万ポンド相当に膨らんだ。
インターナショナル・ビザへ参戦しなくても、シトロエン・ビザ・トロフィーの購入は可能だった。シトロエンUKが支援したジョン・ウェザーリー氏は、1892年のペース・ペトロリアム/オートスポーツ・ナショナル・ラリーへ出場。クラス優勝している。
またシトロエンは、1つ上のグループBクラス用としてクロノエディションを準備。ボディは僅かに差別化され、ツイン・ソレックスキャブレターが1360ccへ拡大されたエンジンに載った。市販仕様はフランスを中心に3600台が売れ、公道を賑わせている。
ワークスチームも、若者に対するイメージ向上を目的として意欲的に活動。同じPSAグループのプジョーは205 T16を開発するが、シトロエンはビザ・トロフィーでワークス態勢を整えた。
コンペティション部門は、1300cc未満が該当するグループB 9クラス用のエボリューションを20台製作。シトロエン・チームは12台を管理した。残る8台は、1982年のフランスで好成績を残した、プライベート・ラリーチームへ販売された。
時にはパワフルなライバルを打ち負かすことも
ブループBの規定に則り、市販用のレプリカも200台作られた。それらもラリーイベントなどで活躍し、時にはパワフルなライバルを打ち負かすことも。1984年の英国RACラリーでは、総合12位とクラス優勝をマーク・ラヴェル氏が遂げている。
シトロエンは、1982年に新しいBXを発売。グループBマシンとして、1985年にはBX 4TCが開発されるものの、ビザ・トロフィーは並行して広く支持を集めた。
ちなみに1981年以降は、過激なビザも作られている。その1つが、2.0L 4気筒のルノー・エンジンを搭載した後輪駆動。1.4Lエンジンにスーパーチャージャーを載せ、ミドシップ化した四輪駆動も作られた。
プジョーとルノー、ボルボによって共同開発された、2.5L V6のPRVエンジンを載せたビザも試作。ロータスの2174ccターボエンジンを積んだマシンもあった。
通常のビザ・トロフィーに載ったのは、1219ccの4気筒エンジンだったが充分に活発。ジリジリと暑いポルトガルの景色に、フレンチ・トリコロールカラーが映える。
今回のクルマは1982年に、ルイス・アレグリア氏によるドライブで、アルガルヴェ・ラリーの総合3位を勝ち取っている。これを凌駕したのは、フォード・エスコート RS1800という格上マシン。もう1台のビザ・トロフィーも、4位に食い込んだ。
アクセルペダルは踏みっぱなし
現在、このクルマはビザ・トロフィー・プラスαと呼ばれている。正確な最高出力は計測されていないが、130馬力程度は出ているらしい。公式なワンメイク仕様と異なり、排気量は1299cc以上へ増やされているという。
とはいえ、トルクは細い。回転数を引っ張りシフトアップし、パワーバンドにつながると快感。カーブでフロントノーズの向きを変える時以外、ずっとアクセルペダルは踏みっぱなし。サウンドが心地良いから、まったく苦にはならない。
タコメーターは、6500rpmからレッドライン。現役当時は、8000rpmでシフトアップしていたドライバーも多いとか。それ以上回したら、ブローしてしまうに違いない。
右足を瞬間的に緩めると、オーバーランの破裂音。一生懸命だとしても、思わず笑みを浮かべてしまう。
サスペンションは、1980年代のホットハッチと異なりバランスが良い。鋭く旋回して深いロールが生じても、コーナー内側のフロントタイヤの向きが変化することはない。前輪駆動特有の、トルクステアは生じるけれど。
砂の浮いた滑りやすい路面でも、アクセルペダルの操作で回頭させられるパワーはある。ロックトゥロックは2.5回転とクイック。反応は素早く、手のひらへの感触はかなり鮮明。とはいえトラクションは限定的で、ラリー・ウエポンとまでは呼べないだろう。
自分の運転がうまくなったように感じる
小さなシトロエンは素晴らしい。近い位置に並ぶシフトゲートへ慣れれば、楽しさに浸れる。アスファルト舗装へ戻っても小気味いい。回転数が落ちると、一気に現実へ戻される。クルマを信頼し高回転域を保てば、爽快なスピードを保てる。
最初のカーブでは、少し不安がよぎるかもしれない。だが、挙動を掴んだ次のコーナーからは遊べる。狙ったラインから外れても、リカバリーは難しくない。サイドブレーキは不要。キッカケとタイミングでタックインさせ、加速しながら脱出できる。
ブレーキペダルはソリッドで、かなり効く。車重は695kgだから、負担も少ない。
残念なことに、今日はクラッチが滑り気味だった。左足でブレーキを操りながら、オーバーステアに持ち込むことはできなかった。それでも、ビザ・トロフィーは自分の運転がうまくなったように感じさせる。完全に意のままだからだ。
1980年代、多くのドライバーが小さなシトロエンを支持した理由を、筆者もつぶさに実感できた。約40年前に、現代のミニ・クーパーSだと例えられたことにも頷ける。
その後のラリーでの活躍を、切り拓いたマシンでもあった。クサラ WRCや、C4 WRCの祖先と呼んで良いだろう。好調の波に乗ったシトロエンは、8度のマニュファクチャラーズ・タイトルを勝ち取ったのだ。
協力:マヌエル・フェラン氏、アデリーノ・ディニス氏
撮影:ベルナルド・ルシオ
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